ヒトツバタゴ果実を食品として有効利用する目的で, 果実の分析ならびに酢漬の加工を試み, 90日間保存による浸漬酢の性状変化と調理適性の官能検査を行い, 次の結果を得た.
1) 全果実の一般成分は, おもに糖質48.44%と水分46.52%であり, 種子の成分は粗脂肪と粗タンパク質がかなり多いことがわかった.果実の色は青紫色でアントシアン系色素であった.甘い香りをもつ生果実は, 青臭みと渋味を感じ生食はできないが, 酢漬果実はそれが緩和された.しかしタルタルソースに酢漬果実添加を試みたところ, 添加効果は少なかった.
2) 果実の浸漬酢の特性について, 全果実酢は酢酸として3.52±0.26%, pH3.20±0.20で酸味がやや弱く, 糖度が保存30日で10%となり, 最高に甘味が強く, 色調も淡いピンク系の酢になり, 官能検査では飲料用やドレッシングソース用の調味酢として好適であると判断された.種子酢は酢酸として3.97±0.1%, pH2.90±0.11で, 酸味が比較的強く, 糖度は6, 55±0.42%でやや低く, 全窒素量の増加が著しかった.これは種子中の粗タンパク質の溶出が考えられる.色調も黄褐色系であり, 官能検査ではマヨネーズソース用の調味酢として最適で, 味覚的にすぐれ, 総合評価でも有意に好まれる評価であった.果肉酢は, 濃赤色系のあざやかな浸漬酢となるが, 官能検査の評価は他の浸漬酢よりやや劣った.
3) 果実浸漬酢中の遊離糖についてHPLC分析した結果のおもな成分は, グルコース, フルクトース, サッカロース, ラフィノース, アラビノースの物質が同定された.浸漬酢の経日変化は未処理穀物酢にくらべ, グルコースとフルクトースの含有量が漸増し, とくに全果実酢と果肉酢に顕著である.
4) 保存温度 (5℃冷蔵, 20±2℃室温) の違いは, 室温保存の浸漬酢に濁りを生じるものがあったので, 冷蔵保存することが望ましい.
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