1) 蒸らし直後の飯の糊化度はいずれも似ており, 十分に炊けた飯の糊化度を示した.24時間経過すると蒸.らし直後の飯より低い値となり, 老化が進んだごとを示しており, 沸騰継続時間が短い場合により目立った.
2) 80%エタノール可溶性の還元糖量は, 緩慢加熱のLにおいて多くなり, その成分もグルコースが多く, デンプンの分解がかなり進んでいることを示している.
3) 蒸らし2時間後の飯はS, M, Lともに沸騰継続時間が長くなるほどやわらかくなる.24時間経過するといずれもかたくなるが, かたさの変化の程度はL, MとSで少し異なった挙動を示し, 糊化の進み方およびそれに伴う構造変化に加熱速度が影響していることが予測された.
凝集性の値はいずれの場合も24時間経過すると蒸らし2時間後の飯よりも低い値となり, その変化はかたさの変化とよく対応していた.
付着性は蒸らし2時間後の飯はMが最も高いが, 24時間経過するとSの付着性はなくなり, MもLより小さな付着性を示すようになり, LとMの飯粒表面の状態は必ずしも同質でないと思われた.
4) 官能テストにおいて, S, LともにMと同様98℃以上の温度に20分以上おかれると, 味覚的に有意の差は認められなくなった.
5) 顕微鏡による観察の結果, かたい飯であると評価されたS-15分, L-10分の飯粒は, 中心部にまだ膨潤が十分でない組織がみられた.飯粒表層部には溶出物が付着しており, この溶出液の濃度が飯粒の水っぽさ, 付着性の多少に大きく関係していると思われた.
以上のように, 沸騰に至るまでの時間の長短が飯の性状に影響を与えていることがわかったが, 一応の評価を得る飯を炊くのに必要な沸騰継続時間は, 沸騰に至るまでの時間のいかんにかかわらず, Mと同じように98℃以上に20分はおく必要があることが明らかになった.また, M'の結果から沸騰初期は, 単に沸騰状態を維持できる最低の熱量ではなく, 一定量以上の十分な熱量を与えて加熱すべきであることも, 無視できない条件である.本実験の条件として沸騰に至るまでの時間を変えており, この点の影響がでることを予測していたが, 最終的には大きな影響はなかったようである.しかし, Lの糊化度が他より高い傾向にあり, 80%エタノールにより紬出される還元糖量が極端に多いこと, Sの24時間経過によるかたさ等のテクスチャーの変化がM, Lとは異なっていることなどから, 加熱速度の違いが米デンプンの糊化の過程に微妙な影響を与えているのは確かなことのようであり, 今後の検討の課題として考えていきたい。
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