現在の日本に前立腺がん検診は必要か?必要であると考える。本稿ではその背景を概説したい。現在、日本人男性の部位別癌患者数で最も多いのは前立腺で、年間1万人以上が前立腺癌で死亡しており、その罹患率と死亡率の急速な上昇が続いている。一方、PSAスクリーニングの普及した米国では、診断時臨床病期の早期化が起こるとともに、死亡率は15年以上連続で減少し、現在はピーク時の6割程度まで低下している。前立腺癌のPSA検診の意義について、大規模かつ長期にわたる前向き試験が欧州で実施され、PSA検診によって、前立腺癌の死亡率が低下することが示された。PSA検査への一般市民の暴露率が高くない欧州でPSA検診の意義が浮き彫りになったが、日本のPSA暴露率はさらに低いと想定されるので、日本では、ERSPCが示したPSA検診の前立腺癌死亡率低減効果を享受できる可能性が高いと考えられる。
PSA検査の十分な普及を未だ見ない日本では、進行病期に至って診断される前立腺癌症例が少なくない。従って、本邦における現時点での理想的な前立腺癌診療プロセスは「治療の必要な癌を根治可能な段階で診断し、診断された癌のリスクを正確に把握し、それに基づいて過不足のない治療を行うこと」と要約しうる。これを実現するための診断面における要件はi)効率的なPSA検査の普及、ii)正確な生検適応、iii)必要十分な精度の生検法の3点にまとめうる。この中で、前立腺癌死亡率の上昇を阻止するためにはi)が最も大切であり、更にii)とiii)の整備と充実により、より実りのあるPSA検診が実現可能と考える。
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