日本医療マネジメント学会雑誌
Online ISSN : 1884-6807
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11 巻, 4 号
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原著
  • 瀬戸 加奈子, 藤田 茂, 松本 邦愛, 伊藤 慎也, 長谷川 敏彦, 長谷川 友紀
    2011 年 11 巻 4 号 p. 223-230
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     医療安全の確保には安全文化の醸成が重要である。本研究では、米国 Agency for Healthcare Research and Quality の開発した医療安全文化調査票を用いて、日本での導入可能性、日米での回答結果の検討を行った。医療安全文化の指標は12領域および病院全体の達成状況の合計44設問で構成されている。

     13病院9,867人を対象に調査を実施し6,399人(64.9%)の有効回答を得た。医療安全文化の肯定的評価の割合は、職種、病床規模、病院により異なることが明らかになった。領域別では、「部署内のチームワーク」が70.3%と最も高く、「出来事報告の頻度」が68.1%、「医療安全の促進に関わる上司の考え方と行動」が62.2%であった。職種別では、医師、看護師では事務に比較して高く評価する傾向にあった。医療安全の達成状況は、12領域中5領域と高い相関(相関係数0.8以上)、4領域とやや高い相関(相関係数0.6〜0.8)が認められた。病院別では、①多くの病院で達成されている領域、②病院間の差異が大きな領域、③多くの病院で達成されていない領域に分類された。また、米国と比較して自院の医療安全を低く評価する傾向が窺えた。

     本研究により、医療安全文化調査票は日本の急性期病院において導入が可能であること、医療安全の状況を示すことができることが示唆された。

  • 森本 泰介, 鈴木 真美, 平田 敦宏
    2011 年 11 巻 4 号 p. 231-235
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     京都市立病院の手術関連インシデントレポートで報告された事象の発生率を、手術関連臨床指標として集計した。6大分類・23小項目を報告対象項目としてあらかじめ選定した。2009年4月から12ヶ月間に手術室で行われた4,034手術症例を対象として、この23項目に合致する事象を収集した。56症例で62事象が報告され、予定外の再手術18症例(手術総数に対する発生率:0.45%)、予定手術時間の50%以上延長15例(0.37%)、ガーゼカウントの不一致 4 例(0.10%)、予想量を超えた出血3例(0.07%)、手術器具破損3例(0.07%)などであった。診療科別では外科12例:12/696(1.72%)(診療科別手術数に対する発生率)、看護科11例:11/4,034(0.27%)、整形外科10例:10/442(2.26%)、呼吸器外科10例:10/122(8.20%)、麻酔科5例:5/1,801(0.28%)、耳鼻科5例:5/330(1.52%)、泌尿器科4例:4 /420(0.95%)、循環器内科2例:2/55(3.64%)であった。臨床指標の推移により改善行動の評価が可能になり、他施設データとの比較により医療の透明性が向上し、患者がインフォームドコンセントを受ける際に役立つ。さらには安全意識の向上、 医療の質向上へとつながり、最終的には医療事故防止に貢献すると考えられた。

事例報告
  • 近藤 泰三, 望月 盈宏
    2011 年 11 巻 4 号 p. 236-240
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     急性心筋梗塞(AMI:Acute Myocardial Infarction)クリティカルパスは、紙運用では入院後2日目までの最高CK(Creatine Kinase)値(maxCK)により重症度を分けることが多い。しかし、緊急経皮経管冠動脈形成術(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)が常識的加療になった今では AMI 症例の重症度は緊急PCI後の状態で判定することが望ましいと思われる。救急患者のため、夜間に日をまたいでPCIを行うことも多く、入院日から開始する電子化クリティカルパスで汎用性を持たせることは困難である。今回われわれは、緊急入院時にクリティカルパスとは関係なく個別に入院指示、緊急PCI指示をオーダし、PCI終了時に重症、軽症と午前終了(午前0時〜午前12時終了)、午後終了(午後0時〜午後12時終了)の別で4種のクリティカルパスを発行することとした。重症は、①血行動態不安定のためカテコラミン等が必要、②肺うっ血に対してハンプ等の使用が必要、③IABP(Intraaortic Balloon Pumping)、ペーシング、レスピレータ等のサポートが必要、④冠動脈に明らかな血栓を残す、⑤TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)2以下で終了と定義した。午前終了と午後終了に分けた理由は、緊急PCI終了時間によりPCI終了後に必要な時間毎の採血指示が異なること、またベッド上安静からギャッチアップ可になるタイミング等安静度の進み方も異なるためである。各クリティカルパス開始時にCK等の定期採血時間をオプション指示より選択することとしている。バリアンスの多い疾患であるため、日程の延長が多く発生すること、クリティカルパス外指示も多いため、全てを表示するクリティカルパス進行表にて把握することが重要となっている。

  • 加藤 多津子, 上塚 芳郎, 内潟 安子, 下村 裕見子, 岩本 安彦
    2011 年 11 巻 4 号 p. 241-246
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     東京女子医科大学病院糖尿病センターは、1975年のセンター開設以来、糖尿病の集学的、先進的治療を目指すと共に、生涯を通じての慢性疾患という特長ゆえ、治療に関しては患者を取り巻くあらゆる環境整備の必要性から地域連携の確立を理念としてきた。無論、大学病院としての本来の紹介型の外来を保つためにも、前方連携も大切であるが、新規患者の受入れ後、そのまま安定した多数の外来患者を抱えていては新規紹介患者を受入れる余裕がなくなることになるため、後方連携が重要である。

     当院糖尿病センターでは開設より、講演会活動でのセンターの紹介、紹介医への Diabetes Newsletter の定期郵送、コメディカル対象の教育セミナー、連携医師との定期的な勉強会開催、連携医師に配布する糖尿病センターあての紹介状書式の工夫、センター医師への逆紹介推進教育、連携医師データベースの作成等の地域連携に対する取り組みを行ってきた。その結果、1995年上半期から2008年上半期までの期間における病院全体と糖尿病センターでの紹介率、逆紹介患者数の推移を検討した結果、紹介、逆紹介ともに糖尿病センターの方が明らかに高かった。

     また、糖尿病センター医師に対して行ったアンケート調査によれば、地域連携の重要性を認識している医師が多かった。紹介率を上げるためには、連携の会の開催が最も効果的であるとの答えが多く、続いてニュースレター、紹介状の工夫が挙がった。逆紹介率を増加させるためには、患者・家族への啓発、詳細な連携医師のデータベース整備、連携医から患者への戻りの説明の3点が指摘された。現在活用中の紹介医データベースリストの活用度は93%と高率であるが、さらなる登録機関数増加、データベース内容の充実を求める声が多かった。

  • 中田 明夫, 今田 光一
    2011 年 11 巻 4 号 p. 247-250
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     これまでは黒部市民病院(以下当院)では他院からの紹介状に対して確実に最終報告がなされているかのチェック機構が十分働いているとは言えなかった。そこで、当院では、2010年1月4日より診療情報提供書、報告書を文書入力ツールであると同時に入力項目がデータベースにもなる医療支援システム(Yahgee)に完全移行し、同時に他院からの紹介状の情報も同システム上で入力開始した。また文書には区分を設け初回報告、中間報告、最終報告等に分類する事により確実に最終報告が行われたかチェック可能となった。新システムに移行後は、地域連携室はこれまでの紹介状、返書の情報をパソコンのデータベースに手入力する事務作業から解放され、また、医師毎の最終報告未作成を月毎に公表する事が可能となった。さらに、このシステムに移行後の問題点に対応し、2010年4月1日からはこれまで同一台紙で作成していた他院からの紹介情報を別台紙で作成し、最終報告の進捗状況、最終報告日の項目を追加する事により、最終報告済、未作成のみでなく長期間最終報告が不可能な紹介や最終報告が不要な文書を区別できるようになった。また、検索ツールを用いて各医師が容易に自分の最終報告未作成のリストを検索可能となった。

  • 大倉 美紀, 石原 ゆきえ, 山内 真恵, 安部 節美
    2011 年 11 巻 4 号 p. 251-255
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     東京都内の退院調整部署、退院調整看護師や退院調整担当者の実態を明らかにすることを目的に、アンケート調査を行った。

     回答を得た病院のうち70病院84%に退院調整部署が設置され、そのうち96%に Medical Social Worker(以下、 MSW)が、56%に看護師が、27%に事務員が配置されていた。急性期の病院を中心に退院調整看護師の配置が進んでおり、特に急性期の病院では近年医療と生活両面のアセスメントができる退院調整看護師のニーズが高まりつつあると考えられた。

     退院調整業務のうち、「意思決定支援のための面談」は、退院調整看護師・MSW 共に多く行っており、医療に関するものは看護師が多く、制度活用や転院支援はMSWが多かった。転院支援はMSWが、在宅支援は退院調整看護師が行っていることが多いと思われるが、在宅支援に関する項目に有意差が見られなかったのは、退院調整看護師とMSWが協働して行っているためと考えられる。

     退院調整看護師の共通の課題は、①退院調整システムの構築:院内多職種が協働し効果的に支援できる院内システムと院外の多職種との連携ネットワーク、②院内職員の教育、③意思決定支援スキルをはじめとした退院支援看護師のスキルの向上であることが示唆された。

  • 勝尾 信一, 吉江 由加里, 坂下 香苗, 渡邉 まどか
    2011 年 11 巻 4 号 p. 256-259
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

     新田塚医療福祉センターは、4法人11施設1株式会社からなる複合施設群である。2010年6月時点で、全職員数は1100名を超え、職種も多岐にわたっている。今回、医師を除く全職種が参加する指定研修のうち、3年研修と5年研修に関して、研修後課題として提出したレポートを元に調査した。3年研修は、多職種との交流を図ることにより自分の立場を見直すことをテーマに、5年研修は、自分たちの技術・技能がセンターにどのように貢献しているのか自覚することをテーマにしている。対象は、2007年度実施の3年研修と2009年度実施の5年研修の両方に参加した46名である。方法は、レポートからの語句抽出法を用いた。抽出した語句は、研修のテーマ、研修方法、個人、同僚、職種・部署、施設・センター、経営、人材育成の8項目に関連したものとした。「研修テーマ」の使用率は、3年研修71.7%、5年研修91.3%だった。項目別に3年研修と5年研修の使用率を比較すると、「職種・部署」と「施設・センター」と「経営」が増加し、「同僚」と「人材育成」が減少していた。個人別には、3年研修は4.41項目、5年研修は5.46項目だった。この結果は、各々の職員が広い視野に立てるようになってきた成長の証と受け取れる。しかし、「経営」の使用率は5年研修で30%台と低いものだった。全職員に経営意識を植え付ける必要がある。また、現場教育の充実のために、継続して人材育成の意識を持たせなければならない。

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