日本医療マネジメント学会雑誌
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15 巻, 2 号
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原著
  • 吉田 愛, 藤田 茂, 伊藤 慎也, 飯田 修平, 西澤 寛俊, 長谷川 友紀
    原稿種別: 原著
    2014 年 15 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     本研究は、重大な医療事故の経験と関連する病院の医療安全体制や活動について、急性期病院と療養型病院の違いを明らかにし、必要とされる改善策や支援策を検討することを目的とした。

     2011年9月、全国の3,890病院に対し郵送法による調査を実施した。回収率は32.4%であった。重大な医療事故の経験は、急性期病院では病床規模、医療安全管理者の配置、RCAの使用等と関連し、療養型病院ではRCAやSHELLの使用と関連していた。重大な医療事故を経験した場合、急性期病院、療養型病院ともに、医療安全管理者の配置は、各種医療安全活動の実施割合に関連していなかった。重大な医療事故を経験しなかった場合、医療安全管理者が配置された急性期病院では、未配置の病院と比較し、RCAの使用、事例を基にマニュアル・事例集を作成、教育研修の担当者の配置の実施割合が高く、療養型病院では、RCAの使用、事例を基にマニュアル・事例集を作成、医療安全の教育プログラムの整備の実施割合が高かった。

     医療安全管理者の配置は、重大な医療事故を経験していない病院における医療安全体制整備に寄与している可能性がある。重大な医療事故の経験がなく、医療安全管理者を配置していないのは急性期病院の26.3%、療養型病院の67.6%を占めており、これらを対象にした支援策が、優先度の高い政策・研究課題であると考えられた。

  • キャリア・アンカーと企業社員との比較から
    坂田 裕介
    原稿種別: 原著
    2014 年 15 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)の導入により、病院事務職員の新たな職務能力とその開発支援が求められている。しかし、その施策については企業における施策を倣って導入することがあり、病院事務職員への妥当性や有効性については十分検証されていない。

     本研究は、大学病院事務職員と企業社員のキャリア・アンカー、すなわち最も自分らしく働ける仕事のスタイルを比較し、企業におけるキャリア開発支援策の大学病院事務職員への適応の妥当性について検証した。そのうえで、大学病院事務職員の属性別にキャリア・アンカーとキャリア開発支援策とのニーズの関係性について検証を行い、キャリア開発に資する施策の導出を目的とした。

     研究の枠組みとしては、上記2つの目的ごとに仮説をたて、それを大学病院事務職員と企業社員を対象とした無記名質問紙による訪問留置調査を行い、そこから得られたデータを基に仮説の検証を行い、考察を加えた。なお、106名より有効回答を得た。

     その結果、キャリア・アンカー・カテゴリーは、両者ともに専門・職能別能力(TF)と生活様式(LS)の割合が高く、違いは認められなかった。よって、企業における施策の大学病院事務職員への適応は、妥当であることが確認された。また、自らの仕事の専門性を高めると同時に、家庭と仕事との調和を重視する傾向が認められ、アセスメント、キャリアパス、キャリア相談、複線型人事制度などが有効な施策として示唆された。

  • 福田 哲也, 櫻井 祐人, 白神 誠
    原稿種別: 原著
    2014 年 15 巻 2 号 p. 96-101
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     薬剤師は病院獲得型MRSA(HA-MRSA)肺炎に対するバンコマイシン(VCM)投与設計に参画しているが、その業務について医療経済的な観点からは評価されていない。本研究ではHA-MRSA肺炎に対して薬剤師主導でVCM投与設計した薬剤師参画群と薬剤師参画のないコントロール群(コントロール群)との間で診療録を基に費用効果分析を行った。薬剤師参画群15人、コントロール群15人で、薬剤師参画群では腎障害発現率0%、期待費用419,088.0円、コントロール群は腎障害発現率13.3%、期待費用485,610.5円となった。費用効果分析から、薬剤師参画群はコントロール群と比較し安全性や費用の点で優位となった。HA-MRSA肺炎に対する薬剤師主導VCM投与設計は、安全性向上と治療期間短縮の観点から医療経済的にも推奨される業務であることが明らかになった。

総説
  • 最近の下級審判例分析を基に
    藤谷 克己, 長谷川 敏彦
    原稿種別: 総説
    2014 年 15 巻 2 号 p. 102-107
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     医療法第1条の4第2号で、医療現場では医療行為を行う際にインフォームドコンセントが法的な義務であるとされた。しかし患者の同意については、形式上何をもって同意があったとするかについて、明確にされていない。そこで関連判例を分析し、判例の中では何をもって患者の同意があったとするかについて調べた。判例データベースの「TKCローライブラリー」(LEX/DB)を利用し、キーワード検索を行った。キーワードは「インフォームドコンセント」又は「説明と同意」を選び、「同意」とその類義語の「合意」と「承諾」を選んで、両群のキーワードにAND検索をかけて判例を抽出した。抽出結果の判例数は128件であった。その全てを精査し、同意について示している20件を表にリストアップした。データベースの判例総数は243,324件で、収録誌数は127誌である(2013年3月23日)。検索した判例数は医療に関係する「インフォームドコンセント」に関するものが125件で、「説明と同意」に関するものが32件であった。また「同意」に関する判例数は22,024件、「合意」に関するものは31,918件、「承諾」に関するものは33,880件であった。最高裁判例では、何をもって同意があったとするかは明確にされていない。ただし、下級審判例においては、同意について示すものがいくつか見られ、同意書への署名捺印をもって同意があったものとするものもある。一方ではインフォームドコンセントを厳格に守ることで、医師の労働量の増加傾向に何らかの影響があるとの示唆もある。

事例報告
  • 藤田 茂, 伊藤 慎也, 吉田 愛, 飯田 修平, 西澤 寛俊, 長谷川 友紀
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     医療事故の原因分析では当該病院内に設置される院内事故調査委員会が重要な役割を担う。しかし、原因分析の方法や報告書の記載項目は標準化されておらず、第三者による事故調査結果の活用に困難を生じている。本研究では、報告書の記載項目の現状と、事故調査結果を第三者が利用可能とするための方策について検討した。

     全日本病院協会の全会員病院と、非会員病院のうち病床規模で層化抽出された病院を対象に、重大な医療事故の経験の有無や、報告書を作成した場合はその項目別の記載の有無等について、2011年9月に郵送法による調査を実施した。クラスター分析により記載項目の特徴で報告書を類型化した。

     回収率は32.4%(1,261/3,890)であり、そのうち34.9%の病院が過去3年以内に重大な医療事故を経験していた。報告書は記載項目の特徴によりA群(177件)とB群(100件)の2つに類型化された。A群はB群よりも、当事者を匿名化し、原因究明に外部の専門家の支援を得る傾向が見られたほか、事故の原因や再発防止策など、報告書の質に影響する重要な項目の記載率が高かった。また、回答病院の58.2%が「後日、再発防止策の実施状況と効果を評価する方法」の記載を不要と判断した。

     第三者が事故調査結果を活用するには、公表を意識した報告書の作成が求められるほか、再発防止策の実施状況と効果を評価する方法の記載率上昇が必要と考えられた。

  • 末期重症心不全患者の在宅医学管理を通して
    鶴田 芳男, 高野 真希, 岡村 新一
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 114-118
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     慢性心不全重症患者では末期になると、入院環境下でカテコラミンをはじめとする強心薬や利尿薬を持続静注されるケースが殆どであり、患者は病院内での長期療養を強いられ、生活の質(QOL)が著しく損なわれた状況におかれる。しかしながら、これら薬剤の投与量が血行動態の破綻を来さない一定値に保たれさえすれば、自立した療養環境を構築できる患者群が一部存在することも確かであり、患者本人の意向を尊重した在宅での医学管理が実現できる可能性を完全には否定できない。このような患者群が在宅医療を望んだ際、その療養環境を構築する条件として、家族のサポートに加え、高次医療機関や在宅看護・介護施設と在宅診療医との間に、より密度の高い連携が求められる。在宅医療を専門に展開するおひさま会では、「メディカルスタッフ」より構成される「おひさまネットワーク」を外部構築し、スムーズな介護・医療連携に繋がる取り組みを行ってきた。今回、「おひさまネットワーク」が核となり在宅管理を実現し、QOL向上に著しく寄与し得た、寛解・再燃を繰り返すカテコラミン離脱困難な末期重症心不全症例を紹介する。また、「おひさまネットワーク」を媒介とする在宅医療への取り組みの実際についても合わせて報告する。介入困難と予想される重症例に対し、在宅医学管理を実現し患者のQOL向上を目指す為には、従来の枠組みに囚われない高密度な医療連携の構築が急務である。

  • 研修プログラム実施1年後の分析と評価
    大村 由紀美, 岩谷 友子
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     K大学病院医療連携センターは、2009年より病棟における退院調整担当看護師の育成を開始した。2010年に同病院の全病棟から選出された看護師26名を対象とした退院調整担当看護師育成研修プログラムが実施され、2011年度からは研修に参加した看護師を中心に退院調整担当看護師定例会議を組織化し、全病棟内での退院調整ラウンドや、各病棟の退院調整担当看護師を窓口として退院調整の連携を行っている。

     今回、研修プログラムの受講者を対象に、退院調整に対する意識や行動、ディスチャージプランニング評価尺度、看護活動の変化についての自記式質問紙調査を、研修プログラムの実施前、実施後、実施1年後の計3回行い、長期的視点で評価した。

     分析対象者19名の結果、研修後から1年が経過するまでに退院調整の意識が高まり、社会資源の情報を得るように心がけ、退院調整の専門性を高めようとする看護師の数に有意な増加があった。また、退院調整を実施する看護師の数が増え、入院時から退院後の生活を考えた情報収集や介入を行うようになった等の行動の変化がみられた。

     したがって、退院調整担当看護師育成研修プログラムは、退院調整に関する意識や行動に肯定的な変化をもたらし、複合的な学習形態として有用であった。しかし、全ての退院調整プロセスの実施には至らず、今後は、退院調整ラウンドや退院調整担当看護師定例会議をよりいっそう活用し、継続教育を図る必要がある。そして、病棟の退院調整担当看護師だけでなく、医師や病棟スタッフにも協力を働きかけ、院内全体で退院調整に積極的に取り組んでいきたい。

  • 河合 貴子, 笠原 善郎, 田中 延善
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 124-129
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     福井県済生会病院の近隣には複数の病院が密集するが、医療機能や専門化などによる住み分けが十分にできていない。このため「地域に選ばれる病院」になるための戦略が必要である。その戦略目標を設定するために、DPCデータと地理情報システムを用いて入院患者の地域別分布図を作成し分析した。まずMajor Diagnostic Category分類による疾患群の入院患者や紹介入院患者を抽出し、その地域別分布図をメッシュデータあるいは地区別データで作成した。また脳神経センターの入院患者に限定したメッシュデータに連携医の所在地もプロットし、周辺地域の分布を調べた。更にメッシュデータによる患者密度の分布図を作成し、患者数の分布図との違いを分析した。分布図での地理的可視化により、当院がどの地域に医療を提供できているのか、また今後、医療の提供を提案できるのはどの地域なのかが詳細に把握できた。本分析により、地域医療連携における当院の「強み・弱み」を理解できたことは、今後の地域医療戦略の目標設定に有用となった。

  • 桵澤 邦男
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 130-133
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     病院管理指標がどのように重症度・看護必要度に関連しているのかを明らかにし、重症度・看護必要度が高い患者を一定割合以上確保することで、重症度・看護必要度に関連する診療報酬(7対1入院基本料、急性期看護補助体制加算)を確実に算定すること、また、それに伴う病院経営安定化に向けた方法論を提示すること、を目的として調査を実施した。調査対象は地方中核都市に所在する300床規模の公的病院Aとし、調査対象期間は2010年4月〜2011年2月とした。公的病院Aの重症度・看護必要度、および病院管理指標(患者属性指標、患者数指標、緊急入院指標、診療行為指標)を活用し、重症度・看護必要度に影響を与える病院管理指標に関する分析を行った。病院管理指標の選定は、重症度・看護必要度に影響を与えると予測され、かつシステムより抽出可能なものとした。その結果、診療行為指標における手術件数および全身麻酔手術件数が多くなるほど、また、患者数指標における退院患者数が多くなるほど、重症度・看護必要度が高い患者が増加することが明らかとなった。重症度・看護必要度を一定の水準に保ち、適切に診療報酬を算定するためには、より多くの手術を実施すること、および退院支援スタッフを整備し看護の必要量をそれほど要しない患者については適切に退院させることが重要であると考えられた。

  • 篠原 徹, 的場 匡亮, 上條 由美
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 134-138
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     本研究は病院事務職員の職務満足度にはどのような因子が影響を与えているか、特に人間関係の職務満足度への影響についてその関連を明らかにすることを目的とした。分析には2011年に行われたS大学全附属施設(8病院1クリニック)の職務満足度調査の結果を用いた。対象は医師を除く全職員(3,865人、回収率82.6%)であり、このうち回答のあった病院事務職員255人の結果について分析した。26の質問をStampsらの分類を応用し、「管理」「業務」「専門職としての自律性」「人間関係」「職業的地位」「給与」の6項目に、さらに「人間関係」に関する6つの質問を「上司との関係」「同僚との関係」「他部署との関係」の3項目に分類し、サブ解析とした。各項目の職務満足度に与える影響ついて、重回帰分析を用いて分析した。6項目のうち、病院事務職員の職務満足度に最も強く影響を与えたのは「人間関係」であり、「給与」よりも高い結果となった。また「人間関係」の中では、「上司との関係」「他部署との関係」「同僚との関係」の順に強い影響があった。病院事務職員の職務満足度を高めるには人間関係が重要で、特に同僚よりも上司との人間関係を重視することの必要性が示唆された。

  • 川角 朝美, 栗原 結香, 和田 繭, 佐伯 江未, 平井 久美子, 高橋 正彦, 岩垣 博巳, 永田 隆史
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 2 号 p. 139-143
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     国立病院機構福山医療センターでは2010年7より医師事務作業補助者(DA)を導入し、その後、看護師とも密接な連携を図り、代行業務の拡大を図ってきた。今回、整形外科において業務改善度と医師の業務軽減度について評価した。業務改善度の評価では、退院時サマリー作成率、退院時返書作成率が代行業務拡大前はそれぞれ20%、60%であったが、業務拡大後はいずれも100%となり、各種診断書の作成については2週間以内に全て作成された。医師一人当たり一日平均2.5時間の事務作業の軽減が達成され、その結果、手術件数の増加ももたらされた。現在、整形外科医師、並びに看護師のDAに対する評価は高く、DAの導入は医師の業務負担の軽減が得られるばかりではなく、入退院の流れが円滑に進むという結果も得られた。

紹介
  • 今田 健
    原稿種別: 紹介
    2014 年 15 巻 2 号 p. 144-147
    発行日: 2014/09/01
    公開日: 2021/07/02
    ジャーナル フリー

     錦海リハビリテーション病院では、開院した2006年度より、理学療法士が各々決めたテーマに取り組み、定期的に発表するPTプレゼンテーション会(Physical Therapist Presentation:PTP)を行っている。当初は希望者のみではじめた取り組みも、機会を重ねるにつれて参加者、発表希望者が増し、それに伴い開催も頻回となった。2012年度より査読制度を取り入れ、74題の演題登録のうち、49題の発表を行い、採択率は66.2%であった。開院後7年間で64回のPTP、290題の発表を行った。

     理学療法職員の能動的な活動を支援する機会と環境を創ることは組織学習に肝要である。「どの職員が、別のどの職員の得意とする領域を知っているか」という個人単位ではなく組織単位で学習することは円滑な部署運営の一助になる。

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