はじめに:中耳病変の鑑別は,中耳炎,感染症,腫瘍など多岐にわたる。今回我々は診断に難渋した中耳放線菌症を経験したので文献的考察を含めて報告する。
症例:22歳 男性,主訴:左耳閉感,左拍動性耳鳴
10ヵ月前から左耳閉感あり改善を認めないため,2ヵ月前に近医総合病院耳鼻科を受診した。腫瘍性病変が疑われ当院へ精査加療目的で受診となった。
現症:左鼓膜は白色で膨隆し拍動あり。外耳道皮膚は発赤,充血。痛みはなかった。左伝音難聴を認めた。血液検査では炎症反応の上昇なし。側頭骨CTで左鼓室内に充満する軟部陰影あり,造影MRIでは同部位が圴一に濃染。
手術所見:鼓室内は肉芽様組織で充満し粘稠な貯留液と特徴的な黄色の菌塊を認めた。
術後経過:細菌,抗酸菌培養は陰性であったが病理組織学的検査の結果,菌塊からActinomyces属を認めた。感染症内科と検討の上,6ヵ月抗菌薬投与を行った。術後1年経過し,明らかな再発は認めていない。
考察:放線菌症は口腔内常在菌であるActinomyces属による疾患で,非常に稀である。本症例では耳痛や炎症所見に乏しく通常の培養検査では診断に至らなかった。難治性中耳炎の場合は放線菌も念頭に置き,培養検査だけではなく16Sr遺伝子解析,病理学的検査も考慮する必要があり組織内の硫黄顆粒は診断の一助となると考えられた。
結語:難治性中耳病変を診断する際,放線菌の可能性も検討すべきである。
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