日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
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総説
  • 酒谷 英樹, 保富 宗城
    2024 年 4 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    鼻腔は嗅覚を司る感覚器である他,上気道感染の原因となるウイルスや細菌に対する感染防御機構としての機能を併せ持つ。しかし「嗅覚」と「感染防御」の2側面の関連性に注目した報告は乏しい。嗅上皮には嗅神経細胞(olfactory receptor neurons:ORN)が存在し解剖学的に頭蓋内に交通しているため,中枢神経感染を含む免疫機構が備わっていることが予想される。そのため,嗅上皮の再生は「嗅覚障害」と「上気道感染症」の2つの病態に対抗する。

    障害をうけたORNは胎生期以降も再生能を持つ。本稿では,1.嗅上皮の再生に関わる因子,2.嗅上皮の感染防御能,そしてこれらの2つを結びつける3.transient receptor potential vanilloid(TRPV)チャネルの3項にわけて概説し,感覚器を介した感染制御という概念を提唱するとともに,嗅覚障害に対する治療法と,気道感染予防・制御に対する新たな治療戦略の可能性について述べる。

原著論文
  • 齋藤 未佑, 武田 和也, 津田 武, 端山 昌樹, 前田 陽平, 小幡 翔, 中谷 彩香, 天野 雄太, 藤井 宗一郎, 猪原 秀典
    2024 年 4 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)はANCA関連血管炎に属し,上気道炎が先行し好酸球増多を伴う多彩な臨床像を呈する。前駆症状として鼻副鼻腔炎を呈するが,日常診療で稀なEGPAの特定は困難である。特にEGPAの鼻副鼻腔炎の臨床所見は好酸球性副鼻腔炎(ECRS)と類似する。今回,EGPAの臨床的特徴を明らかにするために検討を行った。2012年1月から2022年9月までに大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診したEGPA症例13例およびECRS症例14例について,その臨床的特徴を後ろ向きに検討した。項目として,血液検査所見(好酸球数,MPO-ANCA/PR3-ANCA,抗核抗体,リウマチ因子,IgE,IgG4),鼻症状と鼻ポリープの有無,副鼻腔CT所見(Lund-Mackay score:LMS),全身症状について調査した。血液検査所見はEGPAで好酸球数,IgE値が有意に高値であり,IgG4値の上昇や抗核抗体,リウマチ因子の陽性例も認めた。鼻症状,鼻ポリープ,LMSはEGPAの方が軽症であった。EGPAの全身症状としては末梢神経障害と肺病変を多く認めた。ECRSの経過途中で特に好酸球数が異常高値となる場合は,EGPAの初期症状である鼻副鼻腔炎を見ている可能性を念頭におくべきである。また,EGPAを疑う際はANCA以外の血液検査所見や全身症状に注意を払うべきである。

  • 北谷 栞, 角田 梨紗子, 香取 幸夫
    2024 年 4 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    はじめに:近年,肺炎球菌の薬剤感受性の低下や,肺炎球菌ワクチン導入に伴う血清型の置換が問題になっている。今回我々は,当科で最近12年間に検出された肺炎球菌の薬剤感受性の現状に関する検討を行った。

    方法:2010年2月から2022年9月までの12年間に,東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の培養検査で検出された肺炎球菌の薬剤感受性と患者の臨床的特徴に関して,後方視的な検討を行った。

    結果:検討期間中に当科で検出された肺炎球菌対象株は計89株(小児由来:25株,成人由来:64株)であり,ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の割合は,小児由来株と成人由来株で概ね同程度であった(各々8.0%,9.4%)。penicillin G(PCG)の感受性は,小児分離株では2014年から2017年にかけて比較的良好であったものの,2018年から2022年にかけてはPRSPとペニシリン低感受性肺炎球菌の割合の増加が目立った。一方で,成人分離株は,2018年から2022年にかけてPRSPの割合は増えているものの,ペニシリン感受性肺炎球菌が過半数を占めるという結果であった。また,meropenem(MEPM)低感受性株の割合は,小児分離株と成人分離株の両者において,2018年から2022年にかけて増加傾向であった。

    考察:当科の肺炎球菌小児分離株では,PCGの感受性は近年再度増悪傾向であり,MEPM低感受性株の割合も増加傾向であった。今後も肺炎球菌の薬剤感受性の継続的モニタリングが必要と考えられる。

  • 佐藤 雅未, 高畑 淳子, 野村 彩美, 工藤 玲子, 松下 大佑, 福岡 侑, 藤田 友晴, 糸賀 正道, 松原 篤
    2024 年 4 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    好酸球性中耳炎(eosinophilic otitis media:EOM)は,好酸球浸潤が著明な中耳貯留液を特徴とする難治性中耳炎である。診断基準が策定されてから20年ほど経過したが,EOM治療の実態に関する報告は依然として少ないのが現状である。そこで,我々は近年5年間に当科を受診したEOM症例の患者背景や治療内容を検討した。

    対象は,2017年1月1日から2022年11月1日の期間に当科で加療した46症例82耳で,37例が気管支喘息(bronchial asthma:BA)を,28例が慢性鼻副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis:CRS)を合併していた。両者の合併例は26例におよび,いずれも合併しない症例は7例のみであった。治療については,抗ロイトコリエン薬とイブジラストに加えて第2世代抗ヒスタミン薬を追加した症例と,好酸球性鼻副鼻腔炎(eosinophilic chronic rhinosinusitis:ECRS)やBAに対する治療として生物学的製剤を導入した症例では,ほぼ全例で中耳炎重症度スコアの改善を認めた。EOMの治療において,デュピルマブをはじめとする生物学的製剤の使用は有効であり,EOMの局所治療と並行して全身的な治療介入が重要であることが示された。

症例報告
  • 上原 奈津美, 神澤 真紀, 横井 純, 由井 光子, 井之口 豪, 藤田 岳, 柿木 章伸, 丹生 健一
    2024 年 4 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    はじめに:中耳病変の鑑別は,中耳炎,感染症,腫瘍など多岐にわたる。今回我々は診断に難渋した中耳放線菌症を経験したので文献的考察を含めて報告する。

    症例:22歳 男性,主訴:左耳閉感,左拍動性耳鳴

    10ヵ月前から左耳閉感あり改善を認めないため,2ヵ月前に近医総合病院耳鼻科を受診した。腫瘍性病変が疑われ当院へ精査加療目的で受診となった。

    現症:左鼓膜は白色で膨隆し拍動あり。外耳道皮膚は発赤,充血。痛みはなかった。左伝音難聴を認めた。血液検査では炎症反応の上昇なし。側頭骨CTで左鼓室内に充満する軟部陰影あり,造影MRIでは同部位が圴一に濃染。

    手術所見:鼓室内は肉芽様組織で充満し粘稠な貯留液と特徴的な黄色の菌塊を認めた。

    術後経過:細菌,抗酸菌培養は陰性であったが病理組織学的検査の結果,菌塊からActinomyces属を認めた。感染症内科と検討の上,6ヵ月抗菌薬投与を行った。術後1年経過し,明らかな再発は認めていない。

    考察:放線菌症は口腔内常在菌であるActinomyces属による疾患で,非常に稀である。本症例では耳痛や炎症所見に乏しく通常の培養検査では診断に至らなかった。難治性中耳炎の場合は放線菌も念頭に置き,培養検査だけではなく16Sr遺伝子解析,病理学的検査も考慮する必要があり組織内の硫黄顆粒は診断の一助となると考えられた。

    結語:難治性中耳病変を診断する際,放線菌の可能性も検討すべきである。

臨床ノート
研究室だより
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