日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
最新号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 岡 愛子, 金井 健吾, 岡野 光博
    2026 年6 巻3 号 p. 119-122
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    上気道のアレルギー,免疫の過剰反応による疾患としてはアレルギー性鼻炎と,鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)が代表的である。日本ではアレルギー性鼻炎は年々増加傾向にあり,CRSwNPは再発難治症例の多い2型炎症性が増えてきていることから,いずれも対策が求められている。手術によって改善する症例がいる一方で,遺伝的,環境的要因から炎症が再燃する症例に対しては炎症機序に合わせた薬物治療が必要となる。近年では細菌叢解析やDNA,RNA解析など情報量の多い網羅的解析が可能となり,疾患の原因が以前考えられていたよりも多様であることが明らかとなってきた。基礎研究に加えて,臨床における治療有効性の検証はエビデンスに基づいた治療を支え,また解決すべきメディカルニーズを明らかにする役割がある。本稿では筆者らのグループで行ったアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の有効性に関わる細菌叢の研究,CRSwNPの好酸球・好中球混合性エンドタイプとフェノタイプの関連を調べた研究により得られた知見,またこれらの上気道アレルギー性疾患の,現在の治療ではカバーできていない患者のニーズを患者満足度や医療経済的な側面から検討した研究を紹介する。行った研究を論文化することで臨床に還元し,産学連携などの課題解決策を検討しながら今後の耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学のさらなる発展に貢献していきたい。

  • 中山 次久
    2026 年6 巻3 号 p. 123-127
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis: AFRS)は,本邦において比較的稀な疾患とされてきたが,疾患概念の普及に伴い,近年ではまとまった症例報告がなされるようになってきた。AFRSは真菌性鼻副鼻腔炎の一病型であるとともに,好酸球性鼻副鼻腔炎(eosinophilic chronic rhinosinusitis: ECRS)と類似したフェノタイプを有することから,臨床現場において両者の鑑別がしばしば問題となる。これまでに提唱されてきたAFRSの診断基準は,臨床的に有用性が高いが,他の慢性鼻副鼻腔炎のフェノタイプと重複する要素を含んでおり,その診断的妥当性については現在も議論が続いている。また,米国におけるAFRS症例と本邦の症例は社会経済的背景の違いも1つの要因となり,異なる臨床像をもつこともある。このような地域差を含めた臨床像の多様性の存在から,AFRSを単一の疾患概念として捉えることの限界も指摘されている。

    本総説では,AFRSの診断基準とその問題点について概説するとともに,AFRS症例のフェノタイプとその多様性に着目しながら,本邦における多施設共同研究により収集された症例を基に,クラスター解析を用いてAFRSと好酸球性鼻副鼻腔炎のフェノタイプの共通点および相違点を整理した。これらの検討を通じて,AFRSの臨床的多様性を理解し,好酸球性鼻副鼻腔炎との鑑別の観点から,より精密なフェノタイプ分類が可能となることが望まれる。

  • 西嶌 大宣
    2026 年6 巻3 号 p. 129-134
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    鼻腔は吸気の加温・加湿,異物除去に加え,嗅覚という重要な機能を担う精緻な器官である。嗅覚は,揮発性分子が気流に乗って運搬され,水性の粘液層を経て嗅神経細胞へ到達し認識されるという,物理現象と生化学反応の統合により成立する。従来の鼻腔通気度検査や鼻粘膜線毛輸送能検査では,鼻腔全体の抵抗や呼吸上皮の機能の評価にとどまり,嗅裂における局所気流や,粘液線毛輸送機構を有さない嗅粘液の固有機能を正確に評価することは困難であった。本総説では,これらの限界を克服する新たなアプローチとして,計算流体力学(CFD)による鼻腔気流解析と嗅粘液機能解析の最新の知見を概説する。CFD解析は,嗅裂への微小な気流動態や匂い分子の沈着パターンを可視化し,鼻腔の構造や鼻ポリープが嗅覚に与える影響などを定量的に示した。さらに,内視鏡下副鼻腔手術における上鼻道の開放や上鼻甲介の外側化といった手技が,嗅裂への気流改善に寄与することも確認されている。一方,生化学的解析により,嗅粘液は匂い分子の溶解や送達を担うだけでなく,代謝酵素による知覚調節や受容体応答の感度増強などの能動的役割を有することが解明されてきた。このように嗅素の気流動態から分子送達までを連続的に捉える統合的評価は,嗅覚障害の病態解明および個別化医療の確立に不可欠である。

  • 仲野 敦子
    2026 年6 巻3 号 p. 135-139
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    小児急性中耳炎診療は,この20~30年で大きく変化してきた。背景には,肺炎球菌およびインフルエンザ菌の薬剤耐性化,診療ガイドラインの整備,新規抗菌薬の導入,さらに肺炎球菌結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine: PCV)の普及がある。1990年代後半から2000年代前半には,ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)およびペニシリン中等度耐性肺炎球菌(penicillin-intermediate Streptococcus pneumoniae: PISP)の増加により難治例や入院加療例が増加したが,その後,抗菌薬適正使用の普及と診療の標準化に伴い改善傾向がみられた。PCV導入後には,ワクチン含有血清型およびペニシリン耐性株の減少が認められた一方,15A,35Bなど非ワクチン血清型への置換が新たな課題となっている。また,COVID-19流行期には急性中耳炎受診および鼓膜換気チューブ留置術件数の減少を認め,急性中耳炎が社会行動や感染環境の変化にも影響される疾患であることが示された。2024年版小児急性中耳炎診療ガイドラインでも,鼓膜所見を含めた重症度評価に基づき,アモキシシリン(amoxicillin: AMPC)高用量やクラブラン酸/アモキシシリン(clavulanate/amoxicillin: CVA/AMPC)製剤が第一選択として維持されている。現在の小児耳鼻咽喉科感染症診療における抗菌薬使用の最前線とは,新しい抗菌薬を知ることだけではなく,変化した臨床環境の中で,正確な診断に基づき,必要な症例に適切に抗菌薬を使用し,不必要な場面では使用しないと判断することである。

  • 熊井 琢美
    2026 年6 巻3 号 p. 141-147
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    頭頸部癌は多様な腫瘍抗原を発現する免疫原性の高い腫瘍であり,T細胞エピトープを介した抗腫瘍免疫応答が誘導され得る。一方で,腫瘍は抗原提示機構の破綻や免疫チェックポイント分子の発現を通じて免疫から逃避する。これまで我々は,頭頸部癌における抗原提示機構および免疫チェックポイント分子,新規免疫療法の開発を行ってきた。抗原提示はプロテアソーム,TAP,ERAP,HLAクラスIなど複数の分子により制御されるが,これらの発現低下は予後不良と関連する。またEGFRシグナルはHLA発現を抑制し,腫瘍の免疫回避に寄与する。さらにPD-1/PD-L1などの免疫チェックポイントはT細胞機能を抑制し,抗腫瘍免疫を減弱させる。免疫チェックポイント阻害薬は一定の治療効果を示すものの,奏効率は限定的であり,バイオマーカーとしてのPD-L1の有用性も十分ではない。これらの背景から,腫瘍特異的エピトープを標的としたペプチドワクチンなどの抗原特異的免疫療法の重要性が高まっている。今後は抗原提示機構の回復と免疫抑制の解除を組み合わせた治療戦略が,頭頸部癌に対する有効な免疫療法の確立に寄与すると考えられる。

  • 室野 重之
    2026 年6 巻3 号 p. 149-152
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    日本ではHPVワクチンは予防接種法に基づく定期接種となっているが,対象は女性のみである。その接種率は,長く続いた積極的接種勧奨の中止の影響もあり満足のいくものではない。一方,世界保健機関のデータによると,HPVワクチン接種国家プログラムのある国の半数以上で対象者は男女であるうえ,接種率も高い。この背景から日本でも男性に対する定期接種化の要望が厚生労働省に出されている。また,男性のHPVワクチン接種に対して独自に公的助成を行う市区町村も少しずつ増えているが,まだまだ少ないうえ,ほぼ半数が東京都の自治体である。それゆえ,助成の対象となる男性の人口は東京都とそれ以外の道府県で大きな差のある状況である。公衆衛生学的な研究によると,男女ともに接種する方が,女性のみに接種する場合よりも低い接種率で同等のHPV感染予防効果があると示されている。欧米での研究では,HPVワクチンは子宮頸癌や肛門癌を予防することが示されており,再発性呼吸器乳頭腫症の発症も減らすことが示されている。さらに米国での中咽頭癌への効果を予測するモデルでも,接種率の向上,さらに男女への接種は将来的な中咽頭癌の発症を減少させることが示されている。

  • 小笠原 徳子
    2026 年6 巻3 号 p. 153-159
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/09/30
    ジャーナル フリー

    Respiratory syncytial virus(RSV)は乳幼児における細気管支炎や肺炎の主要な原因ウイルスであり,近年では高齢者においてもインフルエンザやCOVID-19に匹敵する重要な呼吸器感染症として再評価されている。RSVは感染の初発部位が鼻咽頭粘膜であり,生涯にわたり再感染を繰り返す特徴を有する。長年にわたり世界的にワクチン開発が進められてきたが,1960年代に発生したホルマリン不活化RSVワクチンによるVaccine-Enhanced Disease(VED)を契機として,その開発は半世紀以上停滞した。

    近年,融合前Fタンパク質(prefusion F protein: pre-F)の構造解析と安定化技術の進展により,高齢者および妊婦を対象としたRSVワクチンが相次いで実用化された。さらに,乳児を対象とした長時間作用型中和抗体製剤ニルセビマブも導入され,RSV予防戦略は大きな転換期を迎えている。一方で,母体移行抗体と乳児免疫の空白期間(window period),pre-Fに対する選択圧によるエスケープ変異株出現の可能性,筋肉内接種による粘膜免疫誘導の限界など,依然として解決すべき課題も残されている。

    RSVは鼻咽頭から感染が成立する粘膜感染症であり,感染の入り口における免疫誘導が極めて重要である。そのため近年では,経鼻ワクチンをはじめとする粘膜免疫を標的とした次世代ワクチン開発が注目されている。本稿ではRSV感染症の特徴,ワクチン開発の歴史,現在利用可能な予防戦略および今後の課題について概説するとともに,耳鼻咽喉科領域からみたRSV予防医療の将来展望について考察する。

feedback
Top