Respiratory syncytial virus(RSV)は乳幼児における細気管支炎や肺炎の主要な原因ウイルスであり,近年では高齢者においてもインフルエンザやCOVID-19に匹敵する重要な呼吸器感染症として再評価されている。RSVは感染の初発部位が鼻咽頭粘膜であり,生涯にわたり再感染を繰り返す特徴を有する。長年にわたり世界的にワクチン開発が進められてきたが,1960年代に発生したホルマリン不活化RSVワクチンによるVaccine-Enhanced Disease(VED)を契機として,その開発は半世紀以上停滞した。
近年,融合前Fタンパク質(prefusion F protein: pre-F)の構造解析と安定化技術の進展により,高齢者および妊婦を対象としたRSVワクチンが相次いで実用化された。さらに,乳児を対象とした長時間作用型中和抗体製剤ニルセビマブも導入され,RSV予防戦略は大きな転換期を迎えている。一方で,母体移行抗体と乳児免疫の空白期間(window period),pre-Fに対する選択圧によるエスケープ変異株出現の可能性,筋肉内接種による粘膜免疫誘導の限界など,依然として解決すべき課題も残されている。
RSVは鼻咽頭から感染が成立する粘膜感染症であり,感染の入り口における免疫誘導が極めて重要である。そのため近年では,経鼻ワクチンをはじめとする粘膜免疫を標的とした次世代ワクチン開発が注目されている。本稿ではRSV感染症の特徴,ワクチン開発の歴史,現在利用可能な予防戦略および今後の課題について概説するとともに,耳鼻咽喉科領域からみたRSV予防医療の将来展望について考察する。
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