全世界を通じて喉頭癌は女性に少なく男性の10%以下である. この事実は興味深く, 同一の形態と機能を持ちながら何故に発生頻度に差が起こるのかは全く不明のままであろ.
この論文は女性喉頭癌の臨床的特色について研究した結果を述べたものである.
1. 根治治療を行なつた695例の喉頭癌のうち, 女性は60例 (約9%) であつた.
2. 彼女らの生活環境は比較的貧しく, 主人とは生別, 死別している者が多く, このため老年でも働らかざるを得ない人が多かった. 学歴は97%が小学校卒程度であった.
3. 性格は男性的で多弁, 色黒, 92%はヘビースモーカーであつた.
4. 婦人科的には33%は不妊症の傾向を認め, 過去は子宮筋腫, 卵巣嚢腫などのため手術を受けた者が多かった.
5. 喉頭癌の分類ではsupraglottic優勢で90%を占め, glotticが10%に過ぎなかった. これも女性喉頭癌の大きい特色である. 男性ではsupraglottic 63 %, glottic 37%であつた. これは男と女では発癌要因に多少差があるものと考えられる.
6. 治療成績は5年粗生存率でglottic 100%, supraglottic 75%であった.
7. 無喉頭者の管理とリハピリテーシヨンにあたつては, 同性同病のよいopinion leaderの指導を受けることが大切である. また女性は特に冬期のTracheo-bronchitis sicca hemorrhagica diffusaに注意して管理すべきである.
8.63才婦人の剖検所見から, 卵巣における男性化胚細胞腫を発見した. この事実は潜在的な男性化の傾向を示しており, 喉頭癌の発癌機構を考察するのに興味ある症例と考えた. したがつて女性喉頭癌患者の内分泌環境の検討は喉頭癌の発癌メカニズム解明上の重要なポイントと考えている.
9. 性器癌は別として, 人癌で男性優位の癌として, 喉頭, 食道, 肺, 口腔底, 軟口蓋, 梨子状窩などの癌があげられ, 女性優位の癌としては甲状腺, 輪状軟骨後部の癌があげられるが, この発癌頻度差の説明はなされていない.
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