有毛細胞の代謝障害時は、細胞内のproton (H
+) 産生が減少してATPの解離が悪く、陽イオン、特にNa
+のくみ出しが不可能になる。それによる細胞内電位上昇 (細胞内外の電気化学的勾配の減少) が内耳性耳鳴の一因と推測される。従って有毛細胞内の修復と同時に、H
+産生によるATPの解離が耳鳴治療に重要と考え、細胞外液および内液のモデル (類似) 溶液に日常治療で使用し、かなり有効であった3種の耳鳴薬を添加した際のH+産生 (pH低下) を測定した。1) 細胞内モデル液ではpH低下 (H
+産生) が明らかであったが、細胞外モデル液ではH+産生はよくなかった。このことからNa+の K+比が少ないとH
+は産生しやすく、Na
+が多いとH
+は産生しにくい。2) ATP、糖代謝ホルモン剤、複合ビタミン剤とも添加量とH
+産生には相関性がなかった。これら3種の代謝促進剤は約2-8週間の臨床使用において、細胞再生、H
+産生、細胞内電位の改善作用が推測され、その耳鳴治療効果は69.6%を認めた。内耳性耳鳴の原因が主に有毛細胞内へのNa+浸透と考えるならば、それは二次的なものでATPの働きを支配するH
+の移動エネルギーの大小、つまりH
+産生が一次的に重要と考えている。
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