耳鼻咽喉科診療所において VBI は、診断が困難で治療方針も確立されていない。われわれは日本めまい平衡医学会にて作成された「めまいの診断基準化のための資料」の「病歴からの診断」に基づき VBI を診断し、VBI スコアを用いて、ATP +塩酸ジラゼプ+イブジラスト投与が VBI に適したことを報告した。今回トフィソパムとジフェニドールの有効性を検討した。前報告に継続し、D 群(ATP +イブジラスト+トフィソパム)と E 群(ATP +ジフェニドール)の 2 群に分け、比較した。D 群は VBI スコアに相乗効果はなく、DHI スコアでは D 群では B 群(ATP +イブジラスト)と比較し、初診時から 2 週後にかけて、有意に改善した。E 群では VBI スコアは初診時から 2 週後に有意に改善し、初診時から 4 週目にも有意に改善した。4 週後の同スコアは、C 群(ATP +塩酸ジラゼプ+イブジラスト)と同程度であった。DHI スコアは初診時から 4 週後までの同スコアの改善値は 15.7 ± 22.4 点で、C 群の 25.0 ± 26.4 点に劣った。ジフェニドールは VBI 特有の症状改善には有効であるが、DHI の改善効果は低かった。
IP-3 に類似した内耳奇形の 1 例を報告する。症例は 7 歳男児で混合性難聴があり 9 カ月時から補聴器を装用している。家族歴は母と双子の妹が補聴器を装用している。両親が人工内耳装用を希望し関連病院を受診した。気導聴力は両耳とも三分法平均 100 dB であったが、骨導聴力は 25 − 50 dB であった。補聴器装用閾値は全音域で 35 − 45 dB であった。人工内耳の適応はなく、難聴の原因精査が必要なことを説明したが人工内耳の希望が非常に強く、当科を紹介され受診した。側頭骨 CT で迷路骨包の骨密度が低く、蝸牛軸は形成不全で内耳道と広く交通しており、IP-3 と診断された。IP-3 症例は補聴器の効果が見られるうちは人工内耳植込術は推奨されない。難聴児を診察する耳鼻咽喉科医は、内耳奇形により異なる難聴の機序を理解し、分かりやすく情報提供する能力が求められると考えられた。
高齢であるが、ほかに免疫機能低下を来す基礎疾患のない患者に発症し、診断と治療に難渋したアスペルギルスによる亜急性~慢性浸潤性副鼻腔真菌症の 2 例を経験した。浸潤性副鼻腔炎は、副鼻腔から眼窩内、海綿静脈洞、頭蓋内に進展すれば致死的となり、予後不良の疾患であるが可及的な病変の掻爬とその後の抗真菌薬の投与によって病勢のコントロールが可能となった。本邦において今後も高齢者の増加が見込まれ、慢性の経過をたどる浸潤性副鼻腔真菌症も増加するものと考えられる。鼻副鼻腔の炎症疾患の一つとして慢性浸潤性副鼻腔真菌症も念頭に置き、的確に診断と治療を進めていくことが必要である。
医原性上顎洞異物の大部分は歯科治療に伴うものである。今回根管充填剤であるガッターパーチャポイントによる医原性上顎洞異物に伴った上顎洞炎 2 例を経験した。いずれの症例も上顎洞底部から連続して異物が存在しており、Endoscopic modified medial maxillectomy を行い異物の摘出と感染巣の除去を行った。術後は原因歯牙の温存ができ、良好な経過を得ることができた。上顎洞異物の摘出アプローチの選択には低侵襲性、確実性に加え、術後経過や患者の歯牙温存の希望を考慮する必要があり、歯科医師との十分な連携が必要である。特に根管充填剤による異物は医療行為に起因するため、異物の残存や症状の再燃がある場合は医療サイドへの不満を増幅させる可能性が高い。低侵襲性、歯牙温存に加えて上顎洞底部への操作が可能な EMMM は根管充填剤による医原性上顎洞異物の摘出、感染巣の除去に優れた手段であると考える。