口蓋扁桃摘出術における術後出血は気道閉塞を生じる危険性があり、時に致死的となるため最も注意を要する合併症の一つである。当科で施行した両側口蓋扁桃摘出術 176 例を対象に、術後出血の割合や時期、リスク因子に関する検討を行った。リスク因子として、原疾患、年齢、性別、喫煙歴、高血圧症あるいは糖尿病の既往、抗凝固薬・抗血小板薬の服用、末梢血中の血小板数、扁桃周囲膿瘍の既往、結紮、癒着、手術時間について検討した。術後出血は 53 例(30.1%)に認めた。その中でも全身麻酔下での止血操作を要したものは 5 例(2.8%)であった。術後出血のリスク因子に関して、有意な関連性を認めたのは手術時間のみであり、手術時間≧ 90 分に術後出血が多いという結果となった。
van der Hoeve 症候群と診断した患者に対して、両側のアブミ骨手術を施行した。左耳においては、底板が脆く、stapedotomy から partial stapedectomy へ術式を変更した。右耳においては、stapedotomy を施行した。術後には両側とも良好な聴力を得ることができた。van der Hoeve 症候群に伴う難聴の多くは耳硬化症類似の伝音難聴であり、その病態としてはアブミ骨底板の固着やアブミ骨脚の線維性変化などが考えられている。van der Hoeve 症候群の伝音難聴に対して、アブミ骨手術を積極的に施行するべきである。
頭頸部領域には発生学的に病因の異なる嚢胞が生じることがあり、正中頸嚢胞、側頸嚢胞、リンパ管腫/奇形などの先天性嚢胞や、ガマ腫などの後天性嚢胞が挙げられる。これら嚢胞の治療法としては、手術摘出と OK-432(ピシバニール®)に代表される硬化療法の 2 つに大別される。手術摘出や複数回の穿刺排液を繰り返すも難治性であった、咽頭に発生した嚢胞に対し、OK-432(ピシバニール®)を投与し、効果を認めた 2 例を経験したので報告する。症例 1 は 30 代の女性で、舌根の嚢胞を 2 回切除するも数カ月で再増大した症例である。症例 2 は 60 代の女性で、30 年以上にわたり舌根の嚢胞に手術処置を繰り返した症例である。2 例とも OK-432(ピシバニール®)投与で、縮小した状態が維持できるようになった。頭頸部領域に発生する嚢胞の中には、まれではあるが複数回再発し難治性のものもあり、この場合治療に難渋することとなる。外科的治療法で対応が困難な症例において、OK-432(ピシバニール®)による硬化療法は、外来で対応可能な、かつ効果的な治療選択肢の一つとなり得ると思われた。
症例は 41 歳、女性。発熱、頸部腫脹で当科を紹介受診した。可溶性 IL-2R 3,619U/㎖ と上昇しており、血小板 59 × 103/μℓ と低下していた。可溶性 IL-2R が高値であり悪性リンパ腫を強く疑い、FDG-PET 検査を施行したところ、右頸部リンパ節に高度多発集積、脾腫の存在を認め悪性リンパ腫疑いとの結果であった。初診 2 日目には WBC 3,000/μℓ に低下した。初診 3 日目に全身麻酔下に右頸部リンパ節生検を施行した。亜急性壊死性リンパ節炎の可能性も考慮してステロイド漸減療法を開始した。術後、肝酵素上昇も認め、血球貪食症候群も疑ったが、症状・所見は順調に改善し、組織学的検査結果は、亜急性壊死性リンパ節炎であった。
慢性副鼻腔炎の概念は、鼻茸の有無で大きく分けるこれまでのフェノタイプという臨床的分類から、分子標的学研究により、特定の機序や分子バイオマーカーに基づく 1 型、2 型、3 型という 3 つの主な炎症エンドタイプ分類が確立され、その病態的機序に基づく治療法も大きく変化している。2 型炎症性慢性副鼻腔炎の代表的疾患は、好酸球性副鼻腔炎であるが、これまでの細菌性慢性副鼻腔炎とは違う臨床症状を示し、2 型と非 2 型は、それぞれ、病態の中心となる炎症細胞や疾患概念が大きく違うため、その保存的治療法や内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)の手技まで大きく違う。慢性副鼻腔炎の約半数が 2 型炎症性で、ほかのエンドタイプ合併を合わせると約 7 割の慢性副鼻腔炎が 2 型炎症に関与している。さらに、特に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の約 9 割が 2 型炎症に関与している。本邦では、好酸球性副鼻腔炎の症例数は増加の一途をたどり、近年では、これまでの古典的治療法では改善できない慢性副鼻腔炎症例が増加している。本論文では、好酸球性副鼻腔炎で代表される 2 型炎症性慢性副鼻腔炎について、病態を解説した上で、診断へのアプローチについて述べる。さらに、その適切な治療法(ステロイド局所療法、ESS の方法、生物学的製剤)について解説する。