体平衡を維持するため前庭系, 視覚系と同時に深部知覚系が重要である. 後頸筋の深部知覚受容器の体平衡に対する重要性は既に検討されているが, 下肢や体幹の筋の関与については, いまだ十分な検討がされていない. そこで, 体幹や下肢筋の深部知覚の主たる感覚器である筋紡錘に振動刺激という外乱を与え, 重心動揺を観察し, 後頸部と比較検討した.
対象は健康成人50名で, 振動刺激装置を装着した後, 重心動揺計の上に直立させた. 後頸筋, 僧帽筋, 腰部, 大腿二頭筋, 大腿四頭筋, 前脛骨筋, 腓腹筋を刺激し, 総軌跡長, 前後左右移動距離, 外周面積, 動揺中心の移動などについて, 解析した.
振動刺激による重心の動揺は, 刺激部位によりANOVA法にて有意な差を認め, 後頸筋刺激時に最も大きく, 次いで前脛骨筋と腓腹筋, その次に腰部の順に大きかった. 大腿二頭筋刺激では, 動揺がわずかに増大したが, 僧帽筋, 大腿四頭筋刺激ではほとんど変化がなかった.
動揺中心の偏位は, 腓腹筋刺激で後方へ, 前脛骨筋, 後頸筋, 大腿二頭筋刺激の順で前方へ偏位した. 後頸筋への刺激では, 背面にもかかわらず前方に移動し, 動揺中心の偏位の完成までに数秒の時間を要する例が多かった.
以上より, 直立姿勢維持には, 足関節に直接作用する下腿筋群と中枢神経系を介して関与すると思われる後頸筋が重要と考えられた.
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