日本耳鼻咽喉科学会会報
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103 巻, 5 号
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  • 丸山 晋, 山道 至, 河田 了, 島田 剛敏, 四ノ宮 隆, 村上 泰, 平田 行宏
    2000 年 103 巻 5 号 p. 499-505
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    癌の転移の第一歩は,癌細胞が癌胞巣を取り囲む癌胞巣周囲膜を通過して間質(細胞外マトリックス)に出ることであり,IV型コラーゲンはこの癌胞巣周囲膜の主成分であることが知られている.甲状線良性結節性疾患28例と乳頭癌27例についてIV型コラーゲンの発現を免疫組織学的に検討したところ,乳頭癌4例にのみ断裂型がみられた.そこでIV型コラーゲンの主な分解酵素であり癌転移との関連が報告されているマトリックスメタロフロテイナーゼ(以下,MMPとする)2,MMP-9に着目し,生化学的,免疫組織学的に検討し,甲状腺疾患においてもその悪性度とMMPsとに関連があるかを検討した.
    血清中のMMP-2濃度(ng.ml)は,乳頭癌で526.0±96.6,良性結節で522.7±114.6であり,両群間に有意差を認めなかった.血清中MMP-9濃度は,乳頭癌で53.8±40.3,良性結節で39.9±36.0であり,同様に両群間に有意差を認めなかった.血清中メタロフロテイナーゼインヒビター(以下,TIMPとする)-2も測定したが.測定感度以下であった.
    一方,組織中MMP-2濃度(ng mg tissue protein)は乳頭癌で12.1±8.1,良性結節で5.7±4.3,正常組織で0.6±0.5であり,乳頭癌で有意に高い値を示した.また,組織中MMP-9濃度は,乳頭癌で4.2±4.1,良性結節で2.1±1.7,正常組織で0.4±0.3であり,これも乳頭癌で有意に高い値を示した.
    さらに,乳頭癌組織でMMP-2について免疫組織学的に局在を検討したところ腫瘍細胞胞体に顆粒状びまん性に発現を認めた.
    組織中MMP-2,MMP-9が乳頭癌症例で高値であること,MMP-2が癌細胞胞体に認められたこと,MMP-2,MMP-9が癌巣周囲膜の主成分であるIV型コラーゲンを基質とすることから考えて,MMP-2,MMP-9が癌の悪性度,とりわけ転移と関連する可能性が示唆された.
  • 村川 哲也, 小坂 道也, 森 聡人, 深澤 元晴, 三崎 敬三
    2000 年 103 巻 5 号 p. 506-515
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    高圧酸素療法(Oxygenation at high pressure,以下,OHPと略す)を併用した突発性難聴症例について,その治療成績をretrospectiveに検討した.
    対象は1989年1月から1998年12月までの10年間に,香川労災病院耳鼻咽喉科にてOHPを併用した522症例である.予後は厚生省突発性難聴調査研究班による聴力改善の判定基準に従い,x2検定により統計学的有意差を検定し,p<0.05を有意差とした.未治療例と既治療例の比較,高圧酸素療法を含む治療全体を開始するまでの日数,年齢,初診時平均聴力,聴力型,めまい•耳鳴の有無,OHPの副作用,再発症例,発症時期などについて検討した.
    全体の治療成績は,治癒率19.7%,有効率34.9%.改善率58.1%であった.既治療例に対する予後は,治癒率12.5%,有効率18.8%,改善率38.8%と約4割の症例に効果があった.未治療例だけでなく,既治療例に対しても早期にOHPを開始した方が効果があると考えた.予後は加齢と共に不良になる傾向を認めた.初診時平均聴力との間には相関を認めなかった.聴力型では低音障害型,谷型が良好で,山型,高音漸傾型,聾,聾型は不良であった.初診時平均聴力が31dB以上の症例では,めまいを伴う症例の予後が有意に悪かった.耳鳴の有無と予後には有意差を認めなかった.OHPの副作用として35例(6.7%)に滲出性中耳炎を認めた.17例(3.2%)に再発症例を認め,再発時の予後は初回発症時と比較して有意に悪かった.発症時期には有意な順位を認めなかった.
    他の治療法に抵抗を示す症例でも,できるだけ早期にOHPを施行することにより,良好な聴力改善を得る可能性が残されていると考えた.
  • 野田 和裕, 野入 輝久, 土井 勝美, 久保 武, 肥塚 泉
    2000 年 103 巻 5 号 p. 516-523
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    後鼻孔を完全に遮蔽する手術用後鼻孔バルーンを開発し,鼻内の大量の洗浄水還流と,水流中での手術操作について検討した.
    38例の慢性副鼻腔炎患者に手術用後鼻孔バルーンを装着し,術後洗浄として最大毎分1000mlの洗浄水を注入し安全性を確認し,うち10例は手術操作と術野周辺の超音波診断を試みた.
    泌尿器科における経尿道的手術であるTrans Urethral Resection of the Prostate(以後TURと略す)のような水流中の清明な視界のもとでの手術が可能で,内視鏡先端汚染防止,血液の持続除去,摘除組織の自動排出の様子を確認した.咽頭漏水は皆無て不快感もほぼなく,問題点はほぼなかった.
    音波診断では,内側壁欠損症例において眼球運動により眼窩内脂肪組織の中で視神経の動く様子が明瞭に描写でき,今後さらに画像情報を蓄積することで副損傷回避の有力手段となる可能性が示唆された.
    鼻腔内を大量の洗浄水で還流することを可能としたことで,水中での手術操作,超音波診断,術中術後洗浄など今後の内視鏡下副鼻腔手術に新たな選択肢を与えると考えられた.
  • 池田 陽一, 久保 田彰, 古川 まどか, 佃 守
    2000 年 103 巻 5 号 p. 524-528
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (目的)原発不明頸部転移癌の治療成績を検討した.
    (対象と方法)1986年6月から1999年6月までの一次治療例は18例で,全頭頸部癌新鮮例中の2.7%を占めた.病理診断方法はFNA12例,生検術6例で,病理診断は扁平上皮癌15例,腺癌2例,末分化癌1例であった.この未分化癌1例は7ヵ月後に悪性リンパ腫と病理診断が訂正された.また扁平上皮癌の1例は,4ヵ月後に原発部位が下咽頭癌と判明した.治療は10例に化学療法+放射線治療(60-70Gy)を,3例に放射線治療のみ(60-70Gy)を,2例に化学療法+頸部郭清術を,1例に化学療法のみを行った.放射線治療の照射野は1例に上咽頭の予防照射を,他は全例患側頸部のみとした.(結果と結論)悪性リンパ腫と下咽頭癌の2例を除く16例の転帰は生存6例,死亡10例で,死亡例の内訳は頸部リンパ節非制御の6例,遠隔転移の3例(肺転移2例)と他因死の1例であった.5年生存率は31%であった.
    FXA施行群と生検施行群との間での平均生存期間に差はなかったが,FNA施行群の死亡例7例では,遠隔転移死を認めなかったのに対し,生検施行群の死亡例3例すべてが遠隔転移で死亡していた.
    患側頸部に限定した治療での局所制御率は57%で,原発巣を考慮した予防治療は必要ないと思われた.局所制御後の遠隔転移死が25%あり,頸部リンパ節の制御とともに遠隔転移出現の有無が予後に影響することが判明した.遠隔転移例は生検手術例で多数出現しており,FNAの精度を高め,不用意に生検術を行うことは避けるべきと考えられた.
  • 千葉 洋丈
    2000 年 103 巻 5 号 p. 529-538
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    両耳間の時間差(ITD)を急激に変化させ音像を移動させると特有な2相性の事象関連電位が記録される.これを"音像移動誘発電位"という.
    音像移動誘発電位の臨床応用の可能性を検討するために,各症例群に対し音像移動誘発電位とともに聴性脳幹反応(ABR),聴性緩反応(SVR)を施行した.まず低音障害型感音難聴群と高音急墜型感音難聴群を対象として本検査の測定限界を検討した.その後に後迷路障害群,機能性難聴群における本検査の有用性について検討した.
    後迷路障害群は聴神経障害群と皮質障害群にわけて検討した.その結果,音像移動誘発電位は聴覚の時間因子伝達に関与する電位であり,ABRの成立にかかわる聴神経,脳幹の機能だけでなく,下丘よりも高位の中枢機能も反映することが判明した.機能性難聴群では音像移動誘発電位がほぼ全例に記録されることを確認し,従来の方向感検査よりも音像移動誘発電位の出現率のほうが高かった.
    最後に,音像移動誘発電位は臨床的に皮質障害および機能性難聴の他覚的検査として診断的情報が得られると結論した.
  • 白石 浩, 村田 清高, 老木 浩之
    2000 年 103 巻 5 号 p. 539-546
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    高齢化社会となり,加齢による種々の病態が注目されている.口内乾燥症もその1つであるが,特に更年期以後の女性に多く発症することから性ホルモンの関与も示唆されている.そこで我々は,性ホルモンの欠乏が唾液腺組織に対しどのように関与するかを検討するため,特に耳下腺の脂肪変性に注目して系統的に観察を行った.
    卵巣摘出群として雌ラット36匹を用い,15週齢時に卵巣摘出を施行,以後前半の3ヵ月間は約3週おきに(18,21,25,27週齢),後半の3ヵ月間は6週おきに(33,39週齢),6匹ずつ大唾液膜を摘出した.コントロール群として,自然加齢の雌ラッFをlye齢,28週齢,41週齢鱒はこ同様に3匹ずつ唾液腺を摘出した.ラットの体重と唾液腺重量を計測した後,HE標本を作製し,光顕的に観察した.
    体重はコンビロール群に比べ増加する善姶が高かった.しかし耳下腺重量および顎下腺舌下腺重量は,観察期間中増加する傾向を認めなかった.コントロール群の唾液腺重簸は若干の増加傾向を認めた.そこで,耳下腺組織像をコンビロータに取り込み,画像処理ソフトウェアを用いて実質,結合組織,脂肪組織の面積比を算出した.その結果,耳下腺実質は時間の経過と共に減少し,その分脂肪組織が推計学的有恵差をもって増加する傾向が認められた.コントロール群では明らかな変化はみられなかった.耳下腺腺葉の面積を画橡処理ソフトウェアによって算出した結果,卵巣摘出群において腺葉の爾積が徐々に縮小する傾向を認めた.
    耳下腺実質の維持には卵巣醗来のホルモンが深く関与していることが示唆された.
  • 山際 幹和, 服部 玲子
    2000 年 103 巻 5 号 p. 547-551
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    咽喉頭異常感の重症度と心理的障害の程度の関連性の有無に関しては全く検討されていないので,筆者らは咽喉頭異常感を主訴として受診した男性87名と女性100名(年齢18~83歳,平均±標準偏差56.3±14.5歳)を対象に,左端を咽喉頭異常感なし.(スコア0),右端をそれが苦痛で訴えられない(スコア100)と規定した10mmの水平Visual Analogue Scale (VAS)による咽喉頭異常感の苦痛度の評価,Cornell Mledical Index健康調査表(CMI)を用いた神経症的傾向や自律神経失調症傾向の評価,Self rating depression scale (SDS)とSelf-rating questionnaire for depression (SRQ D)を用いた抑うつ傾向の評価を行い,得られたパテメーターの関連性を検討した.
    VAS-咽喉頭異常感苦痛度スコアは2~100にほぼ正規分布し,平均値は38.3(標準偏差20.8)で,男女間で有意差がなく(p=0.233),年齢とも相関しなかった(ρ=0.069,p=0.348).VAS-咽喉頭異常感苦痛度スコアが増すほどCMI身体的自覚症(A-L)得点,脈管•疲労•疾病頻度(CIJ)得点,自律神経失調症状(V)得点は増加し(それぞれSpearman順位相関係数:0.164,0.190,0.203,
    P値:0.025,0.010,0.006),CMI深町法判定で神経症的傾向も強くなることが示された(Kruskal Wallis検定:p=0.049).また,それが増すほどSDSやSRQDで評価した抑うつ傾向は強くなった(Kruskal-Wallis検定:P値0.081と0.027).
    このように,VASを用いた咽喉頭異常感苦痛度の測定は簡便で,単に異常感による苦痛度のみならず,患者の有する多彩な身体的症状や心理的障害の強さに関する情報をもたらし,多忙な実地臨床で有用度が高い.
  • 急性中耳炎における鼻咽腔の肺炎球菌およびペニシリン結合蛋白遺伝子の検索
    島田 純, 保富 宗城, 九鬼 清典, 山中 昇, 横田 俊平, 満田 年宏
    2000 年 103 巻 5 号 p. 552-559
    発行日: 2000/05/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    近年,市中においてペニシリン耐性肺炎球菌による上気道感染症が急速に蔓延し治療に難渋する疲例に遭遇する機会が増えてきている.急性中耳炎は鼻咽腔から中耳への細菌の侵入と増殖によって発症するとされているが,耐性菌感染症の病態を考える上では,感染源としての鼻咽腔細菌の状態を把握することは重要である.
    小児急性中耳炎患児の鼻咽腔より検出された肺炎球菌80株についてPCR法によりペニシリン結合蛋白(penicillin binding protein: PBP)遺伝子の変異を検索したところ,pbp1a, pbp2x, pbp2bの3つの遺伝子すべてが変異した株が30%にみられ,74%が何らかの遺伝子変異を有するものであった.またこれらの遺伝子変異株は1歳児から最も多く検出された.最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)が0.06μg/mL以下を示す菌株群(46株)のうち,セフェム耐性化に関わるpbp2x遺伝子の変異を有する株が43%(20/46)を占めていた.
    また,急性中耳炎を繰り返した11組のエピソードについて,エピソード毎に鼻咽腔から分離された肺炎球菌の遺伝子型をパルスフィールドゲル電気泳動法を用いて比較したところ9組(82%)において菌株が異なっていた.さらにpbp遺伝子の変異パターンから菌株を識別した場合には,8組(72%)において菌株が異なつておりほぼ同様の結果が得られた.
    以上のことから,急性中耳炎患児の鼻咽腔においてはpbp遺伝子に変異を有する菌株が大きく関与しており,エピソード毎に異なる菌株によって感染が起こりやすいことが判明した.したがって急性中耳炎においては鼻咽腔検出菌の各種薬剤に対する感受性をエピソード毎に評価していくことが重要である.また,PCR法によるpbp遺伝子検索方法は分離菌の薬剤耐性判定を迅速に行えるだけでなく,個々の菌株を識別する上でも有用であると思われる.
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