癌の転移の第一歩は,癌細胞が癌胞巣を取り囲む癌胞巣周囲膜を通過して間質(細胞外マトリックス)に出ることであり,IV型コラーゲンはこの癌胞巣周囲膜の主成分であることが知られている.甲状線良性結節性疾患28例と乳頭癌27例についてIV型コラーゲンの発現を免疫組織学的に検討したところ,乳頭癌4例にのみ断裂型がみられた.そこでIV型コラーゲンの主な分解酵素であり癌転移との関連が報告されているマトリックスメタロフロテイナーゼ(以下,MMPとする)2,MMP-9に着目し,生化学的,免疫組織学的に検討し,甲状腺疾患においてもその悪性度とMMPsとに関連があるかを検討した.
血清中のMMP-2濃度(ng.ml)は,乳頭癌で526.0±96.6,良性結節で522.7±114.6であり,両群間に有意差を認めなかった.血清中MMP-9濃度は,乳頭癌で53.8±40.3,良性結節で39.9±36.0であり,同様に両群間に有意差を認めなかった.血清中メタロフロテイナーゼインヒビター(以下,TIMPとする)-2も測定したが.測定感度以下であった.
一方,組織中MMP-2濃度(ng mg tissue protein)は乳頭癌で12.1±8.1,良性結節で5.7±4.3,正常組織で0.6±0.5であり,乳頭癌で有意に高い値を示した.また,組織中MMP-9濃度は,乳頭癌で4.2±4.1,良性結節で2.1±1.7,正常組織で0.4±0.3であり,これも乳頭癌で有意に高い値を示した.
さらに,乳頭癌組織でMMP-2について免疫組織学的に局在を検討したところ腫瘍細胞胞体に顆粒状びまん性に発現を認めた.
組織中MMP-2,MMP-9が乳頭癌症例で高値であること,MMP-2が癌細胞胞体に認められたこと,MMP-2,MMP-9が癌巣周囲膜の主成分であるIV型コラーゲンを基質とすることから考えて,MMP-2,MMP-9が癌の悪性度,とりわけ転移と関連する可能性が示唆された.
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