日本耳鼻咽喉科学会会報
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106 巻, 11 号
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  • 探索型臨床研究における生命倫理とトランスレーショナルリサーチコーディネーター(TRC)について
    山下 直秀
    2003 年 106 巻 11 号 p. 1073-1077
    発行日: 2003/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    探索型臨床研究は基礎医学で得られた成果に立脚し,新しい治療を開発するものである.癌に対する新治療の開発の場合は,他に治療法がない患者が対象者となる.試験的な医療を行う探索型臨床研究においては公平性と透明性が必須であるが,医師と患者の2者のみではこれらが十分に守られない可能性がある.そのため,私は東大医科研病院において,薬剤部長,看護部長などの協力を得て,探索型臨床研究に直接的に関わらない医療スタッフをトランスレーショナルリサーチコーディネーター(TRC)として組織し,臨床研究の公平性と透明性の維持,患者権利の保護,データ管理等を含めて,臨床研究が円滑に行われるための試みを開始した.現在その活動を通し,探索型臨床研究における生命倫理の確立をめざしている.TRCは薬剤師,看護師,臨床心理士,栄養士,臨床検査技師の各専門家で構成されており,薬剤部長がTRCをまとめる形をとっている.TRCの構成員は各々の専門分野の特性を活かしながら探索型臨床試験に関わっている.業務内容は,(1) 医療倫理の監視(患者への臨床研究内容の事前説明,説明同意への立ち会いとその公平性の確認),(2) プロトコル遵守の監視(症例検討会議の出席,医師を交えて行う週1回のTRC会議),(3) 被験者のケア(病棟訪問,心理状態の把握)(4) 書類管理などである.医師を交えたTRC会議は毎週開催され,医師とTRCは対等な立場で活発な意見交換がなされている.探索型臨床研究におけるTRC体制は,医師とTRCの相互の連携を道じて,医療チームとして行われるものであり,倫理性と科学性を保った探索型臨床研究に必須であると考えられる.
  • 大前 由紀雄, 杉浦 むつみ, 茂木立 学
    2003 年 106 巻 11 号 p. 1078-1083
    発行日: 2003/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    口腔から咽頭への食塊移送の影響を除いた咽頭期の嚥下状況を直接評価できる検査法として内視鏡下咽頭注水検査を考案しその有用性を検討した.対象は,嚥下障害のため経管栄養を施行されていた126症例である.内視鏡下咽頭注水検査では,喉頭ファイバースコープの生検用のチャンネルから挿入したカテーテルを通じて喉頭蓋谷から梨状陥凹にピオクタニン水を注水し,咽頭期の嚥下惹起のタイミングと嚥下後の咽頭残渣を基にし,(1) グレードI:咽頭期の嚥下が良好,(2) グレードIIa:喉頭流入を呈して嚥下運動が惹起する,(3) グレートIIb:嚥下後に咽頭残渣を呈する,(4) グレードIIa+b:グレードIIaとグレードIIbを合併,(5) グレードIII:安定した咽頭期の嚥下が惹起しない,の5段階に分類した.嚥下障害への治療介入後の摂食状況は,グレードI50例中49例が経口確立,1例が経管併用で経口摂食への道入可能であった.また,グレードIIa27例中13例が経口確立.5例が経管併用,グレードIIb16例中12例が経口確立,1例が経管併用,グレードlla+b21例中8例が経口確立,4例が経管併用であった.一方,グレードIIIでは,12例中11例が経口摂食への導入が不能であった.内視鏡下咽頭注水検査は,咽頭期の嚥下状況を直接評価できる簡便な検査法である.また,咽頭期の惹起のタイミングや咽頭残渣を基にした嚥下障害のグレード分類は,経口摂食への導入の可否やその難易度を反映する有用な指標になると結論した.
  • 臨床所見およびDNA Ploldy Patternによる検討
    富山 要一郎, 吉田 淳一, 本城 祐一郎, 音在 信治, 三谷 健二
    2003 年 106 巻 11 号 p. 1084-1092
    発行日: 2003/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    1986年から1998年までにNTT西日本大阪病院耳鼻咽喉科で根治治療を行った舌扁平上皮癌のうち,1次例で2年以上追跡し得た104例を対象に治療成績を検討した.また41例については手術で得られた新鮮検体からflow cytometry (FCM)を用いたDNA ploidy patternの解析を行い(diploidとaneuploidとに分類)予後との相関について検討した.病期分類はstage I: 43例,stage II: 29例,stage III:17例,stage IV: 15例であった.1次治療は手術単独79例,手術+外照射が14例,組織内照射が10例,化学療法+外照射が1例であった.疾患特異的累積5年生存率はstage I: 94.7%, stage II: 64.4%, stage III: 50.0%, stage IV: 45.7%であった.死因は原病死27例中19例(70.4%)が頸部再発に関係したものであった.T2N0では高率に後発リンパ節転移を認めた.以上よりstage IIにおいては予防的郭清を行うことが望ましいと考えられるが,施行しなかった場合は厳重な経過観察が必要であると考えられた.
    41例におけるDNA ploidy patternの解析の結果はdiploid: 30例,aneuploid:11例であった.疾患特異的累積5年生存率はdiploid: 66.5%, aneuploid: 18.2%であった.また局所頸部累積5年制御率はdiploid: 69.8%, aneuploid: 38.9%でありいずれの場合もaneuploidの方が有意に劣っていた(生存率:p=0.0003,制御率:p=0.0339).遠隔転移はdiploidでは30例中3例(10.0%)のみに認められたのに対し.aneuploidでは11例中6例(54.5%)と有意に遠隔転移をきたしていた(p=0.0058).舌癌に対するDNA ploidy patternの解析は予後を予測するうえで有用であると考えられた.
  • 山田 弘之, 西井 真一郎, 坂部 茂俊, 石田 良治
    2003 年 106 巻 11 号 p. 1093-1100
    発行日: 2003/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    喉頭を摘出した患者における音声回復においては,食道発声が第一選択である.しかし,一部の症例では食道発声を習得できないこともあり,このような症例ではシャント発声が選択されることがある.これまで,様々なボイスプロテーゼによる良好な報告がなされている.われわれはボイスプロテーゼにプロボックスを選択して,これまで15例に留置を行った.15例に行ったプロボックス留置の手技と術後の管理を紹介した.13例において音声回復が得られたが,気管孔狭窄のためにプロテーゼを摘出した症例が1例,食道の狭窄のために発声が出来なかった症例が1例あった.手術侵襲,照射量などは音声回復率に影響を及ぼしてはいなかった.音声の回復が得られた13例のうち11例で,10秒以上の最長持続発声時間が得られた.食道発声ができていながら,プロボックス留置を希望していた症例も2例あり,プロボックス留置の適応は,食道発声ができない症例のみではなく,幅広いものと考える.
  • 塩谷 彰浩, 荒木 幸仁, 茂呂 和久, 池田 麻子, 大久保 啓介, 齋藤 康一郎, 小川 郁
    2003 年 106 巻 11 号 p. 1100-1103
    発行日: 2003/11/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    Sprachcoid laryngectomy with cricohyoidoepiglottopexy (CHEP)は喉頭亜全摘術に分類され.甲状軟骨とその内部構造物を両側披裂部と喉頭蓋先端部を除いて摘出し,残存する輪状軟骨,喉頭蓋先端部,舌骨を接合することにより,喉頭再建を行う術式であり.気管孔閉鎖を達成した上で,嚥下発声機能の温存が可能である.我々は本術式を行う際,良好な喉頭機能温存のため,通常,両側披裂軟骨体部を残すように努めている.しかし今回,56歳の男性の放射線治療後再発例で声帯可動制限を認めるrT2N0の声門癌症例に対しCHEPを行い,患側の披裂部の切除を余儀なくされたが,腫瘍の完全切除と喉頭機能温存の両立が可能であった.
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