探索型臨床研究は基礎医学で得られた成果に立脚し,新しい治療を開発するものである.癌に対する新治療の開発の場合は,他に治療法がない患者が対象者となる.試験的な医療を行う探索型臨床研究においては公平性と透明性が必須であるが,医師と患者の2者のみではこれらが十分に守られない可能性がある.そのため,私は東大医科研病院において,薬剤部長,看護部長などの協力を得て,探索型臨床研究に直接的に関わらない医療スタッフをトランスレーショナルリサーチコーディネーター(TRC)として組織し,臨床研究の公平性と透明性の維持,患者権利の保護,データ管理等を含めて,臨床研究が円滑に行われるための試みを開始した.現在その活動を通し,探索型臨床研究における生命倫理の確立をめざしている.TRCは薬剤師,看護師,臨床心理士,栄養士,臨床検査技師の各専門家で構成されており,薬剤部長がTRCをまとめる形をとっている.TRCの構成員は各々の専門分野の特性を活かしながら探索型臨床試験に関わっている.業務内容は,(1) 医療倫理の監視(患者への臨床研究内容の事前説明,説明同意への立ち会いとその公平性の確認),(2) プロトコル遵守の監視(症例検討会議の出席,医師を交えて行う週1回のTRC会議),(3) 被験者のケア(病棟訪問,心理状態の把握)(4) 書類管理などである.医師を交えたTRC会議は毎週開催され,医師とTRCは対等な立場で活発な意見交換がなされている.探索型臨床研究におけるTRC体制は,医師とTRCの相互の連携を道じて,医療チームとして行われるものであり,倫理性と科学性を保った探索型臨床研究に必須であると考えられる.
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