(目的) 中枢性両側声帯麻痺は脳血管障害, 神経変性疾患など多岐の原因により生じうる. こうした症例に対する気管切開の適応につき, われわれ耳鼻咽喉科医は相談を受けることが少なくない. しかし原因疾患についての認識が十分ではない場合もあり, 判断に苦慮することがある. その中でも, 多系統萎縮症 (Multiple system atrophy ; MSA) は中枢性両側声帯麻痺の原因として最も多くみられ, その特異な経過を認識する必要がある. そこで, 当科にて施行した中枢性両側声帯麻痺に起因する気管切開症例の検討を行い, その対応における留意点につき考察した.
(対象・方法) 当科にてMSAによる両側声帯麻痺により気管切開を行った9症例を対象とし, その経過と気管切開の施行時期について検討を行った.
(結果) 当科において両側声帯麻痺により気管切開を行った16症例の中で, MSAが9症例あり全体の56%と過半数を占めた. MSAの病型としては, MSA-Pが7例, MSA-Cが2例であった. 7症例で覚醒時吸気性喘鳴の増悪と並行し, 嚥下障害が進行していた.
(考察) MSAにおける声帯外転麻痺は, 突然死を来しうる障害であるが, 本疾患になじみのない耳鼻咽喉科医が上気道の評価を依頼された場合, 内転障害がないことから声帯麻痺なしと診断する可能性があり, 広く病態を認識すべき疾患と考える. MSAにおいて両側声帯正中固定となる機序は, 後輪状披裂筋の神経原性変化による声帯外転障害に加え, パーキンソニズムの進行による筋緊張の亢進の関与が大きいと推測され, 嚥下障害の進行は気管切開の施行時期を判断する重要な指標の一つとなると考えられた.
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