日本耳鼻咽喉科学会会報
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110 巻, 1 号
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総説
  • 野中 学
    2007 年 110 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2007/01/20
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    好酸球浸潤を顕著に伴う慢性副鼻腔炎を好酸球性副鼻腔炎と言う. 成人型気管支喘息やアスピリン喘息を合併する慢性副鼻腔炎や, 下気道疾患の合併がみられなくても血中好酸球増多を伴う慢性副鼻腔炎に起こることが多い. I型アレルギー反応の関与は明らかでないが, Th2型の炎症で起こり, Th2サイトカインやシスティニルロイコトリエン (CysLTs) の発現増強が, 副鼻腔粘膜だけでなく骨髄や血中にもみられ, 好酸球性炎症を引き起こしていると考えられる. 治療には保存的治療 (薬物療法や鼻処置, 鼻副鼻腔洗浄) と手術療法がある. 気管支喘息と同様に長期にわたる保存的療法が必要である. 必要に応じ適切な時期に内視鏡下鼻内手術を行う. 薬物療法の種類としては, Th2サイトカインを抑制するためには副腎皮質ステロイド薬 (全身投与, 局所投与) やTh2サイトカイン阻害薬がある. CysLTsの作用を阻害するためには抗ロイコトリエン薬がある. 最近, 好酸球性副鼻腔炎の抗原が真菌であるとの考えから, 抗真菌薬の局所投与が試みられている. 我々は, 好酸球性副鼻腔炎に対し副腎皮質ステロイド薬の点鼻と抗ロイコトリエン薬の併用効果を検討し, その有効性から好酸球性副鼻腔炎の薬物療法として適していることを報告した.
原著
  • 木村 百合香, 杉浦 むつみ, 大前 由紀雄, 加藤 智史, 岸本 誠司
    2007 年 110 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2007/01/20
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    (目的) 中枢性両側声帯麻痺は脳血管障害, 神経変性疾患など多岐の原因により生じうる. こうした症例に対する気管切開の適応につき, われわれ耳鼻咽喉科医は相談を受けることが少なくない. しかし原因疾患についての認識が十分ではない場合もあり, 判断に苦慮することがある. その中でも, 多系統萎縮症 (Multiple system atrophy ; MSA) は中枢性両側声帯麻痺の原因として最も多くみられ, その特異な経過を認識する必要がある. そこで, 当科にて施行した中枢性両側声帯麻痺に起因する気管切開症例の検討を行い, その対応における留意点につき考察した.
    (対象・方法) 当科にてMSAによる両側声帯麻痺により気管切開を行った9症例を対象とし, その経過と気管切開の施行時期について検討を行った.
    (結果) 当科において両側声帯麻痺により気管切開を行った16症例の中で, MSAが9症例あり全体の56%と過半数を占めた. MSAの病型としては, MSA-Pが7例, MSA-Cが2例であった. 7症例で覚醒時吸気性喘鳴の増悪と並行し, 嚥下障害が進行していた.
    (考察) MSAにおける声帯外転麻痺は, 突然死を来しうる障害であるが, 本疾患になじみのない耳鼻咽喉科医が上気道の評価を依頼された場合, 内転障害がないことから声帯麻痺なしと診断する可能性があり, 広く病態を認識すべき疾患と考える. MSAにおいて両側声帯正中固定となる機序は, 後輪状披裂筋の神経原性変化による声帯外転障害に加え, パーキンソニズムの進行による筋緊張の亢進の関与が大きいと推測され, 嚥下障害の進行は気管切開の施行時期を判断する重要な指標の一つとなると考えられた.
  • 阿部 弘一, 西野 宏, 牧野 伸子, 石川 和宏, 石川 浩太郎, 今井 恵子, 市村 恵一
    2007 年 110 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2007/01/20
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    気管挿管の合併症や喉頭外傷の一つとして披裂軟骨脱臼がある. これらは自然回復例もあるが, 全身麻酔やNLA麻酔のもとに直達喉頭鏡を挿入しての整復術の報告が多く, また喉頭形成術など観血的手術が必要となった症例も報告されている. 今回我々は8例の披裂軟骨脱臼症例を経験し, 自然回復例を除く5例に対して局所麻酔下の整復術を外来手術として施行し良好な結果を得た. 症例は53~75歳の男性2例, 女性3例である. すべて前方型脱臼で4例が気管挿管後, 1例がラリンゲアルマスク使用例であった. 整復術は, 両鼻腔および喉頭に4%キシロカイン®で表面麻酔を行った後, 一側鼻腔よりファイバースコープを他側鼻腔より尿道バルーンカテーテルを挿入して行った. 喉頭を観察しながら, バルーンを拡張させ披裂部の高さで数秒間留置する操作 (留置法) とバルーンを声門部で拡張させ引き抜く操作 (引き抜き法) を行った. これらを数回繰り返して1回の整復術とした. 3例は1回目の整復術後1~2週で改善したが, 2例は改善が不十分であり2回目を追加した. この2例も2回目の整復術後1~2週で声帯運動, 嗄声ともに改善した. なお, 5症例に対し計7回の整復術を施行したが全例で合併症は認められなかった.
    本法は外来で施行が可能であり, 簡便で侵襲も少なく成績も良好であるため, 前方型披裂軟骨脱臼症に対する治療法として有用と考えられた.
  • 佐藤 慎太郎, 井上 明子, 木寺 一希, 倉富 勇一郎, 井之口 昭
    2007 年 110 巻 1 号 p. 20-23
    発行日: 2007/01/20
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    甲状腺癌の頸部リンパ節転移との鑑別が術前には困難であった, 頸部結核性リンパ節炎の1例を経験した. 症例は71歳女性である. 甲状腺右葉に約1cmの腫瘤と左葉に約0.5cmの小石灰化, 右頸部に多発リンパ節腫大を認めた. 甲状腺癌とその転移と考え, 甲状腺全摘術と右頸部郭清術を施行した. 術後の病理診断は, 甲状腺は濾胞癌と腺腫様甲状腺腫, リンパ節は結核性リンパ節炎であった. 癌患者でのリンパ節転移と結核性リンパ節炎の術前診断は困難であるとされている. 本邦では結核患者のうち70歳以上が占める割合が増加傾向にあり, 高齢の癌患者においてリンパ節腫大がある場合, 頻度は高くないが結核性リンパ節炎の合併もあることを念頭に置く必要がある.
  • 斉藤 晋, 草野 秀一, 肥塚 泉, 中島 秀喜
    2007 年 110 巻 1 号 p. 24-31
    発行日: 2007/01/20
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    Epstein-Barrウイルス (Epstein-Barr virus, EBV) における潜伏感染膜タンパク質1遺伝子 (Latent membrane protein 1, LMP1) の上皮細胞がん化への関与について検討した. LMP1は上咽頭がんに代表される潜伏感染様式II型, リンパ芽球細胞株に代表されるIII型に発現するEBウイルスゲノムにコードされるがん遺伝子である. LMP1遺伝子を導入した上皮細胞株と導入していない上皮細胞株を比較し, 発現したタンパク質を二次元電気泳動 (two-dimensional electrophoresis, 2-DE) と質量分析 (mass spectrometry, MS) を用いた定量的解析を行った. その結果, LMP1の発現により発現量が変動する8種類のタンパク質を同定することができた. その中には, 以前から指摘されていたVimentinの増加と新たにEzrinが増加していることが明らかとなった. その結果はウエスタンブロットにより確認された. VimentinとEzrinは共に細胞骨格に関与するタンパク質であり, 種々の報告により腫瘍の発生や高転移性に大きく関わっていると報告されている. LMP1遺伝子の上皮細胞への導入によるVimentinとEzrinの増加は, LMP1遺伝子が上皮細胞の腫瘍造成や転移に深く関与していることが示唆された.
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