日本耳鼻咽喉科学会会報
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115 巻, 3 号
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総説
  • 松本 智成
    2012 年 115 巻 3 号 p. 141-150
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/03
    ジャーナル フリー
    1943年の日本での結核死亡率は人口10万対235で, 2010年の約120倍と高く, 結核はかつては死の病もしくは亡国病として恐れられていたが, 標準化学療法の確立により結核患者数は1980年まで大きく減少し, 一時は「結核の流行は終わった」といわれるくらいになった. 一方において世界では, その発生数は増加している.
    結核の増加とともに問題となっているのは, 耐性結核の問題である. 多剤耐性結核 (MDR-TB) は, 結核治療に重要な抗結核薬であるイスコチン (INH), リファンピシン (RFP) にともに耐性である結核菌と定義される. 最近, さらにフルオロキノロンおよびアミノグリコシド系の抗結核剤にも耐性であり, さらに治療困難である超多剤耐性結核 (XDR-TB) が世界的に広がっており上述の結核の増加の原因になっている.
    日本におけるMDR-/XDR-TBの問題点は, MDR-TBは感染しづらいという考え方が根強く存在したことである. 結核菌分子疫学解析の大きな成果は, MDR-TB, 特にXDR-TBは日本において主に感染によって広がっていることを提示できたことである. つまり, MDR-/XDR-TBは医療機関内感染だけではなく市中感染によっても広がっているということである.
    2011年9月14日には, 世界保健機関 (WHO) が, 従来の薬が効かないMDR-TBやXDR-TBの感染が欧州・中央アジア地域で急速に拡大しており, 保健当局が阻止できなければ多くの死者が出ると警告した. 有効な治療法が少なく, かつ莫大な治療経費を必要とするMDR-/XDR-TB対策には, DOTSのみならず, 結核菌分子疫学解析を駆使しながら感染拡大を防止すること, さらに新規抗結核薬の開発が重要な手段の一つになる. 新しい抗結核薬として日本からdelamanid (OPC-67683) が発表された. 今後, MDR-/XDR-TBも含めた結核の治療への貢献が期待される.
    さらに, 近年, 関節リウマチや膠原病の治療に抗TNF製剤に代表される生物製剤が開発され, その治療の中心的な役割を担うようになってきた. この抗TNF製剤は感染症, 特に結核の発生率を上げ生物製剤使用中の結核対策が重要になってきた. また結核を発症した場合, paradoxical responseへの対策も重要である.
  • 小川 洋
    2012 年 115 巻 3 号 p. 151-157
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/03
    ジャーナル フリー
    頭頸部領域において使用頻度の高い画像検査法にcomputed tomography (CT) がある. 最近のCTはmultidetector-row CT (MDCT) が普及し, 画像診断の精度が飛躍的に向上した. このような全身型汎用CTが開発されている中でコーンビーム (cone beam) とフラットパネル (flat panel) を応用した小照射野に限定したCTが2000年頃から歯科, 頭頸部領域に臨床応用されてきた. これらのCTではX線管からエックス線をコーン状 (円錐状) に投影することからコーンビームCT (CBCT) と呼ばれている. 現在臨床応用されているCBCTはX線照射野を限定すること (小さくすること) で臨床応用可能となっている. CBCTは限定した関心領域の撮影に特化することにより, 低被曝線量ながら, 高い空間分解能を持ち, 骨病変の描出に優れるX線像診断装置という位置づけを持つことになった. 本装置により側頭骨, 鼻副鼻腔, 顎顔面といった骨で囲まれた領域において低被曝で必要な画像が得られることは, われわれ耳鼻咽喉科医にとって有用性が高いX線診断機器として考えることができる. 医療機器の特性を理解し, 検査の目的に応じ適切な機器を用いて診断治療にあたることがわれわれの責任と考えているが, 本稿ではCBCTの特徴, 有用性と課題について解説する.
原著
  • 金沢 佑治, 内藤 泰, 篠原 尚吾, 藤原 敬三, 菊地 正弘, 山崎 博司, 栗原 理紗, 岸本 逸平
    2012 年 115 巻 3 号 p. 158-164
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/03
    ジャーナル フリー
    当科で2004年から2010年に手術を行った中耳奇形例21例26耳について, 術前検査, 奇形の病態分類, 手術所見, 術式, 術後聴力につき検討した. 側頭骨CT検査で病態を予測できた症例は, キヌタ・アブミ関節離断が12耳中9耳 (75%), ツチ骨キヌタ骨の周囲骨壁との固着が12耳中7耳 (58%), アブミ骨底板の固着が0耳であった (複数病態の重複例あり). 複数の奇形を合併した6例8耳では, 全例で複合する病態を正確には予測できていなかった. 耳介奇形, 外耳道奇形, 鼓膜所見異常を10例12耳に認めた. そのうち9例10耳がツチ骨キヌタ骨の周囲骨壁との固着を伴っており, これらの所見はツチ骨キヌタ骨の固着を予測する上で重要な参考所見と考えられた. 術後1年以上経過した15例20耳 (外耳道形成術を同時に行った症例を除く) の術後経過をみると, 手術による聴力改善率は20耳中18耳 (90%) であり, 不成功例2耳はそれぞれ先天性真珠腫合併例, キヌタ骨体固着, キヌタ—アブミ関節離断, アブミ骨底板固着の合併例であった. このように, 複数の異常の合併例では, より複雑な手術が必要となり, これが不十分な聴力改善につながったと考えられる. 中耳奇形の手術治療に際しては, 側頭骨CTのみならず, 外耳の状態などを含めた術前検査所見を総合して病態のより詳細な把握に努めると同時に, 事前に予測できない病態の可能性について患者へ十分な説明を行っておく必要がある.
  • 西端 慎一, 斎藤 洋三
    2012 年 115 巻 3 号 p. 165-172
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/03
    ジャーナル フリー
    スギ花粉飛散シーズンのスギ花粉症患者の受診動態を明らかにするため, 平成2年から平成21年までの20年間のスギ花粉飛散期間中に東京都千代田区にある筆頭著者の私設診療所においてスギ花粉症患者の受診者数調査を行い, 花粉数との関係につき検討を行った.
    平成2年から平成21年の20年間について, 年毎の花粉数と初診患者数の関係をみると, 一次回帰でy=0.0897x+627.47, R2=0.7851 (p<0.001) と高い相関を示した. また調査期間を1月初めからとした平成6年以降の16年間についてみると, 対数回帰でy=257.43Ln(x)-1014.8, R2=0.9542 (p<0.001) と非常に高い相関を示し, 花粉数の予測値からその年の患者数もかなり高い精度で予測できるものと考えられた.
    再診患者数は花粉数との相関があまりみられず, 年々減少傾向を示した. 平均再診回数は平成2年には2.6回だったものが徐々に減少し, 平成18年には0.73回にまで減少したが, これには薬剤の長期投与や一部負担金の増加により受診回数に抑制がかかっていることが影響していると考えられた.
  • 木村 寛, 田近 洋介
    2012 年 115 巻 3 号 p. 173-177
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/03
    ジャーナル フリー
    胚中心進展性異形成 (PTGC) は異常増大した胚中心を特徴とする原因不明のリンパ節症である. 耳鼻咽喉科からの報告例は少ない. 今回, 41歳男性の両側頸部リンパ節腫脹を主徴としたPTGC症例を経験したので報告する. 当初はリンパ節の細胞診で異型細胞はなく, 経過観察を行っていた. しかし, その後, 嗄声で再診した際にリンパ節増大を認めたので確定診断のために頸部リンパ節を摘出した. リンパ節はPTGCであった. 現在, 経過観察中で術後著変はない. 本症は, ホジキンリンパ腫と間違われやすい疾患なので耳鼻咽喉科医も熟知しておくべき疾患であると考えられた.
最終講義
  • 青柳 優
    2012 年 115 巻 3 号 p. 178-191
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/03
    ジャーナル フリー
    聴性定常反応 (ASSR) の歴史, 刺激音, 解析法, 成立機序, 臨床応用, および問題点について述べた. 他覚的聴力検査におけるASSRの最も重要な利点は, 正弦波的振幅変調音を用いた場合, 周波数特異性の高い反応を得ることができ, 比較的正確にオージオグラムを推定できることである. 正弦波状のその反応波形から, ASSRは高速フーリエ変換を用いたパワースペクトル解析や位相スペクトル解析による閾値の自動解析に適している. ASSRの反応出現性は覚醒時検査か, 睡眠時検査かにより変化するので, 40Hz ASSRは覚醒時の成人における他覚的聴力検査に, また, 80Hz ASSRは睡眠時の幼児における他覚的聴力検査に適している. 反応の成立機序については, 40Hz ASSRは聴性中間潜時反応の, また, 80Hz ASSRは聴性脳幹反応のsteady-state versionと考えられている. 骨導ASSRでは, 60dB以上の音圧においては検査結果の信頼性は低いが, 骨導ASSRは伝音難聴の診断に有用である. 80Hz ASSR閾値により500Hz以下の周波数の聴力レベルを評価することの難しさは, 聴覚フィルタによって説明できる. また, multiple simultaneous stimulation techniqueを用いることによって両耳において4つの異なる周波数の聴力を比較的短い検査時間で評価することができる. しかし, auditory neuropathyなど聴力レベルとASSR閾値の乖離がみられる症例もあるので, 聴力評価は条件詮索反応聴力検査など他の検査法とともに総合的に行うべきである.
    ASSRによる補充現象の検査や音声刺激によるASSRも検討されており, 将来的には乳幼児においても補充現象や語音弁別能の評価が可能になると考えられるので, ASSRを用いた補聴器の他覚的フィッティングが行われるようになるであろう.
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