日本耳鼻咽喉科学会会報
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116 巻, 5 号
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総説
  • 宮澤 基樹, 山上 裕機
    2013 年 116 巻 5 号 p. 573-580
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    膵癌は5年生存率が5%と予後不良で, 新規抗癌剤や多剤併用療法の開発が世界中で行われており, 第4の治療法として期待を集めているのが癌免疫療法である. 標的となる腫瘍細胞に特異的に発現している内因性抗原である腫瘍関連抗原はプロテアソームによるプロセシング作用を受けてペプチド断片となる. 主要組織適合抗原 (MHC, ヒトではHLA) Class I分子に結合し, ゴルジ体を介して細胞表面へ表出する. 表出したMHC (HLA) Class I-ペプチド複合体によりペプチドがCD8陽性T細胞に提示され, CD8陽性T細胞を活性化することにより抗原特異的なCTLが誘導される. ぺプチドワクチン療法では腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球 (Cytotoxic T lymphocytes: CTL) を誘導し得るエピトープペプチドを腫瘍特異的な抗原から同定し, それを癌患者に投与する.
    癌免疫療法の問題点として癌の免疫逃避機構が挙げられる. すなわち, 癌細胞のheterogeneityによる腫瘍関連抗原およびHLA Class Iの発現低下, 癌の微小環境における免疫抑制因子による抗腫瘍免疫の抑制がある. VEGFR2由来ペプチドワクチンElpamotide (OTS102) とGemcitabineの併用療法の第I相臨床治験にて推奨投与量が決定され, この結果からpivotalに大規模臨床試験 (UMIN000001664, PEGASUS-PC Study) が実施された. 詳細な解析結果が待たれる. さらに, 同カクテルペプチドワクチンを用いたGemcitabine不応膵癌に対する第III相臨床試験も企業治験として実施されており, 今後の結果が期待されるところである.
    今後は膵癌だけでなく, ほかの癌腫に対しても新規ペプチドワクチンの開発が見込まれる. ペプチドワクチンは安全性が高く, 臨床応用への道が開かれている. 日本発の癌ペプチドワクチンの創薬化のためにも, 産官学の連携は不可欠と考える.
  • 太田 伸男, 鈴木 祐輔
    2013 年 116 巻 5 号 p. 581-585
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    副鼻腔真菌症は, 浸潤型と非新型の2つに分けられ比較的まれな疾患とされてきたが, 副腎皮質ホルモン, 抗生物質の頻用による全身抵抗力の低下, 悪性腫瘍や糖尿病などの代謝性疾患などの基礎疾患を持つ患者の日和見感染によるものなど, 免疫力の低下などの原因により近年増加傾向である. 浸潤型は, 骨破壊を伴う進展様式で頭蓋内および眼窩内合併症を起こしやすく極めて予後不良である. 今回, 浸潤型鼻副鼻腔真菌症のEBMに基づいた治療指針, 特に診断のポイント, 抗真菌剤の種類や投与方法, 手術治療法の選択と施行時期, 予後因子などについて概説した. より早期に診断し, 周辺臓器への浸潤が比較的経度の段階で治療を開始できれば救命できる場合もあり, 糖尿病などの基礎疾患を有する症例では, 本疾患を常に念頭に置き可及的速やかに対応することが重要であると考えられた.
  • ―チーム医療の最前線―
    丹生 健一
    2013 年 116 巻 5 号 p. 586-591
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    口腔は呼吸, 咀嚼, 摂食, 嚥下, 構音など生命維持に必須の機能からコミュニケーション機能までヒトが人として生きていく上で欠かすことができない重要な役割を担っており, 口腔に発生した悪性腫瘍の治療においては根治とQuality of Lifeの両立を目指した治療戦略が求められる. しかし, 進行頭頸部癌に対する標準的治療として近年普及してきたシスプラチン同時併用の化学放射線療法も口腔癌では外科的治療と同等の治療成績は得られておらず, 口腔癌に対する標準的治療は未だ手術が第一選択である. 早期癌では後遺症が問題となることは少ないが, 進行癌の治療においては, 形成外科による再建や歯科による顎義歯・インプラントの作成, 看護師や言語聴覚士によるリハビリテーション, 歯科衛生士による口腔ケア, 薬剤師や栄養管理士による薬剤・栄養管理など多職種によるチーム医療が良好な術後機能を得る上で重要な鍵となる. そこで, 本シンポジウムでは口腔癌に対する外科的治療におけるチーム医療の実際について, われわれの施設の現況を中心に解説する.
原著
  • ―当科初診8例と他科初診25例との比較検討―
    間多 祐輔, 伊原 史英, 植木 雄司, 今野 昭義
    2013 年 116 巻 5 号 p. 592-599
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患であり, 多彩な症状を呈する. まれではあるが, 頸部リンパ節あるいは慢性持続性の唾液腺腫脹の原因となる. 今回われわれが経験した頸部腫瘤を主訴とした8症例をもとに診断方法とその臨床像について検討した.
    8例中7例に開放リンパ節生検を, 1例に耳下腺生検を行い, 非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め, 病理組織学的にサルコイドーシスの診断を得た. 全身検索で他臓器に病変を認めたものが6例, 頸部のみに病変が限局していたものは2例であった. サルコイドーシスに特徴的とされる肺門リンパ節腫脹は全例でみられず, 血清ACE活性の上昇を認めたものも1例のみであった. 頸部腫瘤を主訴とするサルコイドーシス症例では特徴的な検査所見を呈する場合が少なく, 肺門リンパ節腫脹や血清ACE活性の診断的意義は低いと考える. ツベルクリン反応は7例中4例が陽性であり, 頸部リンパ節結核との鑑別のためには培養検査やTB-PCRを組み合わせることも必要である.
    自験例で20年以上の経過を経て頸部リンパ節から他臓器へ病変が進展した1例を認めた. 病理組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた場合, 全身検索によりサルコイドーシスの診断基準を満たさなくても, 頭頸部限局型サルコイドーシスとして他臓器への病変の進展を長期にわたり観察することが重要である.
  • 五島 史行, 堤 知子, 小川 郁
    2013 年 116 巻 5 号 p. 600-605
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    メニエール病と片頭痛関連めまいは, ともに反復するめまい発作を特徴とする. 一般的には難聴の有無によってこの二つの疾患を鑑別する. しかし, メニエール病患者に片頭痛を合併した場合には, めまい発作の原因がメニエール病なのか, 片頭痛なのかを明確に分けることは困難である. 今回, 長期にわたりメニエール病と診断されメニエール病治療が無効であった症例を経験した. 内リンパ水腫に対する治療が無効であったことから, 詳細に問診を行い片頭痛の合併を明らかにした. 片頭痛予防治療を行ったところ治療が奏功し, めまい, 片頭痛ともに改善が認められた. 本例を通じ, メニエール病と片頭痛関連めまいの診断治療の問題点について考察した.
  • 花田 有紀子, 笹井 久徳, 鎌倉 綾, 中村 恵, 坂田 義治, 宮原 裕
    2013 年 116 巻 5 号 p. 606-611
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    上咽頭癌はわが国では40~60歳代に好発し, 男性にやや多い悪性腫瘍である.その解剖学的特徴より, 放射線治療が治療の核をなす1). 放射線治療の後期合併症として, まれに内頸動脈仮性動脈瘤を形成することがあり, 破裂により致命的となる. われわれは上咽頭癌に対し放射線治療を行った既往のある75歳男性の内頸動脈仮性動脈瘤の症例を経験した. 鼻出血で発症し, 大量出血を認めたがAngiography下コイル塞栓術により救命し得た.
    この合併症はまれではあるが突然破裂することで致命的となるため, 常に念頭におき放射線治療を行うべきであると考える.
  • 酒井 あや, 栂 博久, 立花 修, 三輪 高喜
    2013 年 116 巻 5 号 p. 612-618
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    先端巨大症は, 成長ホルモン (growth hormone: 以下GH) の過剰分泌によって起こり, 顔貎変化や手足肥大の他, 糖尿病, 高血圧, 睡眠呼吸障害 (sleep disorder breathing: 以下SDB) など, 臨床症状は多岐にわたる. SDBが重篤な症状となるのは周知されているが報告は少なく, 治療評価方法において明確なコンセンサスが提示されていないのが現状である. 今回, 先端巨大症症例に対する外科治療を施行し, その前後で血液学的検査および終夜ポリソムノグラフィ (polysomnography: 以下PSG) による効果判定を行ったので報告する.
    対象は当院で先端巨大症と診断され, SDBを合併し, 経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出手術 (transsphenoidal surgery: 以下TSS) を施行した6例である. TSS前後においてPSGを解析した. 血液検査にてGH, インスリン様成長因子 (insulin-like growth factor-1: 以下IGF-1) 値の変化をTSS前後で確認した. 4例にMRIを撮影し, TSS前後での上気道断面積を計測した.
    PSGでは統計学的有意な差は認められなかったが, 平均値は改善しており, より重症例が改善している傾向にあった. 血液学的検査ではGHおよびIGF-1において共に統計学的有意差を以て改善を認めた. MRIでは統計学的有意な差は認められなかったが, 4例中3例において上気道断面積の増加を認めた. さらにTSSによりSDBの改善を認めた1症例を提示する.
    以上より, SDBを伴う先端巨大症の6症例において, TSSで内分泌学的な改善を血液検査で確認できた. しかし, SDBにおいてPSGの指標では有意な改善を認めなかった.
最終講義
  • 山本 昌彦
    2013 年 116 巻 5 号 p. 619-627
    発行日: 2013/05/20
    公開日: 2013/08/21
    ジャーナル フリー
    私が身体重心動揺の研究を始める切っ掛けは, 恩師である岡田の志を継いでのことであった. 重心動揺計が1964年にフランスのBaronによって現在の形が作られ, 重心動揺研究が世界に広まった. しかし, 日本での体動揺の記録応用は古く, 1908年に島薗によって頭部動揺記録が臨床に応用されていた.
    福田は, 姿勢反射について多くの解明を行い, 姿勢反射の世界的研究者として認められていた. このために, 姿勢や体平衡の研究がわが国で早急に進められ, 福田の著書,「運動と平衡の反射生理」は牛尾と大久保によって英訳され「Statokinetic reflexes in equilibrium and movement」として世界に届けられた. 福田の姿勢反射の研究は, 檜や時田らによって進められ, 福田の遮眼書字検査や足踏み検査が臨床検査として使われるようになった. 重心動揺計が開発され, コンピュータが出現するにつれて, 重心動揺のコンピュータ解析が始まった. 時田は, 多くの解析指標を考案し, 姿勢反射を定量的に評価する方法を作った. 同時に徳増や田口も重心動揺解析を行い体平衡研究を続けた.
    多くの先陣の先生から学び, 私も重心動揺解析を進め, 新しい解析法を考案して急性内耳障害時の姿勢維持に, 偏倚と立ち直りの速度が眼振と同様の違いで行われていることを見いだし, 脊髄小脳変性症では, 症状の進行と共に前後動揺が強くなっていくことを示した. いまだ不明な事象が多い体平衡について, 一層の解明が必要である.
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