日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 12 号
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総説
  • 辻 省次
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1423-1430
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     神経内科は, 発症機構が未解明の神経疾患が数多くあり, したがって, 効果的な治療法が確立されていない疾患が多く, このような疾患は, 神経難病とも呼ばれる. 分子遺伝学の飛躍的な発展により, 遺伝性神経疾患の多くでその病因が解明され, 解明された病態機序に基づく根本的な治療法の開発が進められるようになり, その一部は, 治験として実施され始めている. 孤発性神経疾患については, 次世代シーケンサーをはじめとするゲノム解析技術の飛躍的な発展により, 発症に関与する遺伝子の解明が進められるようになってきている. さらに, このようなゲノム解析技術は, クリニカルシーケンシングとして, 診断確定のための検査法として診療に用いられるようになってきており, 医療制度の中でどのように実装していくかが課題となっている. 病態機序の解明に基づき, 神経変性疾患に対する根本的治療法の開発が急ピッチで進められており, 今後, たくさんの治験が実施されると期待されている. また, 現在のところ, 臨床評価スケールが治験の primary endpoint と設定されることが多いが, 今後は, 病態機序を反映する surrogate marker の開発なども重要な課題となっている. 神経変性疾患は緩徐に進行する疾患であるが, 神経症状が出現する時期においては, 相当数の神経細胞の消失が既に生じていると考えられており, どの時点で開始するのが適切であるかなども含めて, 検討が必要である.
  • ―耳痛の臨床―
    飯野 ゆき子
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1431-1437
    発行日: 2014/12/10
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     耳痛は耳鼻咽喉科診療においてよく遭遇する症状の一つである. 原因としては耳疾患に限らず種々の原因によって生じる. 原因による分類として以下が挙げられる. 1) 耳疾患が原因の場合: 外耳道炎, 悪性外耳道炎, 等の外耳疾患. 急性中耳炎, 真珠腫性中耳炎, ANCA 関連血管炎性中耳炎, 等の中耳疾患. 2) 耳周辺の臓器に原因疾患がある場合: 急性耳下腺炎, 流行性耳下腺炎, 等の耳下腺疾患. 顎関節症, 頸部リンパ節炎, 等のそのほかの周辺臓器による疾患. 3) その他が原因となる場合: 下顎神経, 鼓室神経, 迷走神経 (耳介枝), 顔面神経, 頸神経などが外耳, 中耳に分布しているため, 放散痛・関連痛が生じる. 原因疾患としては急性扁桃炎, う歯, 中咽頭がん, 等が挙げられる. また器質的疾患が認められない場合は, 舌咽神経痛, 三叉神経痛, 後頭神経痛などの神経痛を考慮する. 診断のために耳痛の性状, 発症の時期や経過 (急性か慢性か) 等, 詳細な問診が必要である. また局所所見のみならず, 画像診断を含めた詳細な検査を行う. 近年, 痛みは侵害受容性疼痛, 神経障害性疼痛, 心因性疼痛の3種類に分類されており, それらによって薬剤選択が異なるため, どのような疼痛かを判断する必要がある. 持続的な耳痛, 頭痛を伴う難治性中耳炎には ANCA 関連血管炎性中耳炎, 悪性外耳道炎を考慮する. 局所所見がない耳痛は頸部 MRI 等で精査が必要である. 原因不明の疼痛にはプレガバリンを試みる.
  • 氷見 徹夫, 高野 賢一, 野村 一顕, 阿部 亜由美, 山本 元久, 高橋 裕樹
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1438-1447
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     IgG4 関連疾患は21世紀に入って本邦より提唱された新しい疾患概念である. 高 IgG4 血症と IgG4 陽性形質細胞浸潤, 線維化による腫瘤形成, 肥厚性病変が特徴で, しばしば複数臓器に病変が形成される. ミクリッツ病 (Mikulicz's disease) と自己免疫性膵炎は代表的 IgG4 関連疾患であり, 2001年に自己免疫性膵炎, 2004年にミクリッツ病が IgG4 関連疾患として報告された. さらにその後, 他臓器病変 (肺, 肝, 腎, 前立腺, 下垂体, 甲状腺, リンパ節, 大動脈など) も報告され, 本疾患概念の領域は拡大し続けている. しかし, IgG4 関連疾患の病態や診断・治療に関してはまだ不明な点が多い. 代表的な IgG4 関連疾患である IgG4 関連ミクリッツ病に関しては, 診断過程で耳鼻咽喉科医がかかわることが多いため, IgG4 関連疾患での耳鼻咽喉科医の役割は従来に増して大きくなっている.
     ここでは耳鼻咽喉科領域の IgG4 関連疾患を中心に臓器別診断基準, 包括診断基準, 経過観察上の注意点や治療について解説し, IgG4 関連疾患の最新の知識を整理しておくことを目的とする. さらに, 頭頸部領域で IgG4 関連疾患が強く疑われている疾患である, 1) IgG4 関連慢性鼻副鼻腔炎, 2) 一部の反復性乳様突起炎, 3) リーデル甲状腺炎, IgG4 関連甲状腺炎, 4) IgG4 関連眼窩下神経腫脹, 5) IgG4 関連頸部リンパ節症についても解説する.
原著
  • 染川 幸裕, 長島 勉, 正木 智之, 浅野 勝士, 矢島 諒人, 氷見 徹夫
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1448-1456
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     1991年1月から2012年8月までに外耳道後壁削除・再建型鼓室形成術を施行した弛緩部型真珠腫311耳と緊張部型89耳の術後成績を検討した. 観察期間は1年から21年 (平均5年3カ月) であった.
     鼓室形成手術後, 真珠腫再発による再手術や, 他の不備に対する修正手術を施行することなく, さらに日本耳科学会ガイドライン (2010) 術後聴力評価における成功基準を維持している症例 (a : 術前骨導を用いた従来基準成功例, b : 術後気導骨導差20dB 以内) を, 無病生存例を念頭に経過良好例と定義し, 術後経過における累積頻度を算出した.
     1. 経過良好例の累積頻度は, 弛緩部型は術後5年 a : 76.1%, b : 83.9%, 10年 a : 58.9%, b : 73.0%であり, 緊張部型では術後5年 a : 57.7%, b : 63.5%, 10年 a : 42.1%, b : 56.9%であった. 弛緩部型と緊張部型の経過良好例累積頻度に有意差を認めた (p<0.001).
     2. 真珠腫再発の累積発生率は, 弛緩部型では術後5年7.6%, 10年15.3%と, 全経過を通じて徐々に上昇を示した. 緊張部型では, 術後5年6カ月の時点で既に15.8%に達したが, 以後の上昇は認めなかった.
     以上より, 術後成績評価には, 長期にわたる経過観察が必要と思われた.
  • 内田 真哉, 橋本 慶子, 椋代 茂之, 牛嶋 千久, 出島 健司
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1457-1462
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     重症誤嚥患者に対する誤嚥防止手術は, 患者の QOL 改善や生命予後の改善を期待できるとされている. しかし, 本手術の適応を考える上において, 患者の予後を反映する指標についての詳細な報告は認められない.
     O-PNI1) (Onodera-Prognostic Nutritional Index) は血清アルブミン値と末梢血総リンパ球数から簡単に求めることができる予後栄養指数の一つで, 外科領域において術後合併症リスク等の指標として開発されたものである. この O-PNI と WBC, CRP, 血清アルブミン値について, 誤嚥防止手術後の予後との関連について検討を行った.
     全31例のうち, 術後6カ月以内に死亡した術後早期死亡例6例の平均 O-PNI は28.26であった. これに対して生存例での平均は36.01であった. 4つの指標のうち術後早期死亡例において有意な関連を示したのは, O-PNI と血清アルブミン値で, ROC 曲線を用いて比較したところ O-PNI がより精度が高く, 術後早期死亡に対するカットオフ値は32となった. 術前の O-PNI が32未満の患者では術後早期死亡率は44.4%となるが, O-PNI が32以上であった場合は9.1%と有意に低くなった.
     O-PNI は術前に重症誤嚥患者の予後をある程度予測し, 誤嚥防止手術に対する意思決定支援に有効な指標の一つと考えられた. また, O-PNI による評価において, 本術式に延命効果があることが認められた. さらに, 術前の O-PNI 値による治療アルゴリズムを示し, 今後の課題として, 必須アミノ酸補充による筋蛋白同化促進効果などを利用した, 術前栄養療法の開発を挙げた.
  • 水町 貴諭, 加納 里志, 坂下 智博, 畠山 博充, 本間 明宏, 福田 諭
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1463-1470
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     中咽頭癌は頸部腫瘤が初発症状となることもあり, 頸部腫瘤摘出・生検後の精査にて原発が判明する場合もある. 今回われわれは頸部腫瘤摘出・生検後に中咽頭癌と診断された症例について検討を行った. 対象は1998年1月から2013年12月までの16年間に頸部腫瘤摘出・生検後に中咽頭癌と診断された11例である. 頸部腫瘤摘出・生検の経緯は, 診断確定のためにリンパ節生検を行ったのが6例, 側頸嚢胞の術前診断にて摘出術を行ったのが4例, 原発不明癌として頸部郭清術を行ったのが1例であった. 頸部腫瘤摘出・生検後に判明した原発巣は口蓋扁桃が6例, 舌根が5例であった. 口蓋扁桃原発例は6例中5例がヒト乳頭腫ウイルス (Human Papillomavirus; HPV) 陽性で, 舌根原発例は5例中3例が HPV 陽性であった. 頸部腫瘤摘出・生検から原発確定までの期間は1~13カ月であった. 全症例に対して最終的には放射線療法または化学放射線療法が施行されており, 放射線治療後は現在まで再発や転移はなく経過している. 近年 HPV 関連中咽頭癌が増加傾向にあり, 頸部腫瘤を初発症状とする中咽頭癌症例は増加するものと思われる. 頸部腫瘤の鑑別に当たっては中咽頭を十分に精査する必要があると思われた. また, HPV 関連中咽頭癌は転移リンパ節が嚢胞性を呈することがあり, 頸部嚢胞性病変の鑑別においては中咽頭癌の転移リンパ節も念頭に置く必要があると思われた.
  • 古宇田 寛子, 牧野 奈緒, 髙橋 正時, 倉田 奈都子
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1471-1476
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     症例は62歳女性. 左流涙, 左鼻側部腫脹・圧痛を主訴に受診. 鼻腔側壁に肉芽性病変を認め, 画像上鼻腔・前部篩骨洞病変が左鼻骨を破壊し顔面皮下へ進展していた. 生検にて高度の炎症細胞浸潤と乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を認め, 病理学的にはサルコイドーシスが疑われた. 経過観察中病変が増大し再生検したところ, PCR で結核菌陰性であったが抗酸菌培養7週で結核菌陽性であり, 原発性鼻副鼻腔結核と診断した. 外来で INH, RFP, EB, PZA を投与後, 鼻腔・外鼻病変とも消失し再燃を認めていない. 難治性, 原因不明の鼻副鼻腔疾患に対しては結核性病変も疑い, 繰り返し生検や鼻粘膜組織の抗酸菌培養を行う必要があると考えられた.
  • 岸本 逸平, 篠原 尚吾, 藤原 敬三, 菊地 正弘, 十名 理紗, 金沢 佑治, 原田 博之, 内藤 泰, 宇佐美 悠
    2014 年 117 巻 12 号 p. 1477-1482
    発行日: 2014/12/20
    公開日: 2015/01/19
    ジャーナル フリー
     孤立性線維腫は間葉細胞に由来するまれな紡錘細胞腫瘍で, WHO (World Health Organization) の分類では境界型悪性であり, しばしば再発する. 眼窩内孤立性線維腫はこれまで報告があるが, 術前動脈塞栓の有用性を報告したものは見当たらない. 症例は75歳男性. 30年前に右涙嚢摘出術を施行し良性腫瘍と診断された. 1年前より眼瞼腫脹, 流涙を認め, 画像検査で眼窩内腫瘍が疑われた. 生検検体の病理組織で紡錘形細胞が密に増生し, 免疫染色で孤立性線維腫の診断となった. 術前血管造影で眼窩下動脈をコイル塞栓した後, 外切開で全摘出を行い術中出血量は微量であった. 病理組織では腫瘍と涙小管とが近接し, 病歴も考慮し涙器由来と考えられた. 術後3カ月で経過良好である.
最終講義
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