日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 5 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
総説
  • ―表在臓器における超音波診断の最新知見―
    尾本 きよか, 蓬原 一茂
    2014 年 117 巻 5 号 p. 607-613
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    超音波検査は非侵襲的で安全, 簡便かつ優れた空間分解能を有する画像検査である. 超音波診断の基本はBモード (グレースケール) 画像であるが, それだけでは最終診断に至らないこともある. そのようなときに役立つのが最新の多彩なアプリケーションである. カラードプラも有用なツールではあるが, 超音波造影剤ソナゾイドを用いた造影超音波検査やエラストグラフィによる組織弾性診断, 三次元画像表示, 携帯型診断装置など, さまざまな場面で目的に応じてこれらを上手に活用することで診断能が格段に向上する可能性がある. これら最新技術の最新知見と利用方法について解説する.
  • ―喉頭乳頭腫を巡る現状と現実的なアプローチ2013―
    齋藤 康一郎
    2014 年 117 巻 5 号 p. 614-630
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    頭頸部におけるヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 感染に関連した疾患の中で, 喉頭乳頭腫は, 特に再発性・多発性の強い, 喉頭気管乳頭腫症 (recurrent respiratory papillomatosis: RRP) と称される症例では手術も多数回におよび, 治療に難渋し, 医師・患者・家族を大いに悩ませる疾患の一つとなっている. 個々の喉頭乳頭腫で経過がまちまちであることも, 事態を複雑化させている. 本疾患は, 100以上の遺伝子型があるHPVの中でも良性型に分類される6型と11型が主としてその発症に関与しているが, その感染源に関しては種々の可能性が報告されている. 小児発症症例と成人発症症例での臨床経過の違いを含め, 疾患の臨床動態に影響する種々の背景因子に関しては, 慢性のHPV感染症という観点からも, 基礎知識として整理し, 把握しておく必要がある. 診断は, 病理組織学的診断によるが, 病変の広がりの詳細な診断には, 特殊光を用いた内視鏡での観察も有効である. 疾患を取り扱うに際しては, 経過中に悪性転化を来す可能性, 腫瘤の好発部位, さらには気管切開に関する考え方も知っておくことが要求される. 決して頻度が高いとはいえない orphan disease であることもあり, 絶対的な治療方法の開発が進まない現状において, 治療の基本は外科的切除であり, 再発・多発症例では補助療法を併用することとなる.
    本稿では, 喉頭乳頭腫に関する疫学からHPV感染症としての背景, 診断のコツや疾患とかかわる中での注意点をまとめた. さらに, 外科的治療の基本的な考え方や種々の手技の特徴, 補助療法に関するこれまでの試みと今後の展望まで含めて, 欧米の報告を中心に概説する. さらに, 2006年6月以来, 60症例以上の喉頭乳頭腫の患者にかかわってきた経験をもとに, われわれが現時点で施行可能かつ有効と考え, 実践している, 診断・治療のポイントを挙げる.
  • ―耳鼻咽喉科診療所における嚥下障害在宅医療連携の試み―
    西山 耕一郎
    2014 年 117 巻 5 号 p. 631-637
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    摂食・嚥下障害は, 咽頭期におけるトラブルを主原因とするケースが多いため, その治療に耳鼻咽喉科医師が果たす役割は大きい. 嚥下障害診療において耳鼻咽喉科医は, 嚥下内視鏡検査 (VE) などを通じて, 他科医師, 歯科医師 (口腔外科医師も含む), 言語聴覚士 (ST), 看護師, 栄養士, 薬剤師, 歯科衛生士, 介護士, ケアマネージャー, ソーシャルワーカー, ヘルパーなどの医師以外の他職種と, 効果的で良好な連携関係を構築しなければならない.
    嚥下障害は, 摂食・嚥下のすべての過程と全身状態が大きく関与する. しかし現状では, 摂食・嚥下障害の治療やリハビリテーションの場面で, 口腔機能の改善のみを主体とした取り組みが行われることが少なくない. その結果, VE検査の評価を誤り, 個々の症例の嚥下障害の病態を考慮せずに, 病態を無視した画一的なリハビリテーションが施行されているケースがあり, 本質を見誤った治療が行われている可能性がある. つまり口腔期のみにケアを行うと, 唾液誤嚥による嚥下性肺炎の発生率低下や口腔内知覚の改善という観点では素晴らしい反面, 咽頭期嚥下障害の根本的な解決にはつながらない. つまり喉頭挙上, 喉頭閉鎖, 食道入口部の開大 (輪状咽頭筋弛緩) には対応していない. また嚥下障害における優先事項である肺炎の治療, 栄養管理, 悪性腫瘍や神経筋疾患の除外診断といった, 全身に対する重要な側面も不十分となる.
    嚥下障害にて耳鼻咽喉科を紹介受診した患者の多くは, 咽頭期嚥下障害に対する病態診断および嚥下機能評価である. そこで耳鼻咽喉科医師はVE検査を活用して, 主治医, 歯科医, 他医療職, 介護職, 福祉職とも連携して嚥下障害にアプローチすべきである. また, 摂食・嚥下について正しい知識を普及させる役割も担うべきである. つまりわれわれ耳鼻咽喉科医師は, 医師以外の職種, 介護職, 福祉職が, 摂食・嚥下障害や栄養管理の本質を正しく認識し, 適切な多職種連携を実行できるようにするべきである. 現在神奈川県では, “日耳鼻神奈川県地方部会” と “横浜嚥下障害症例検討会ameblo” が中心となり, “日耳鼻神奈川嚥下研究会”, “横浜嚥下障害症例検討会”, “横浜飲み込みとお口のトラブル相談会” を開催して啓発活動を実施している.
  • 松崎 道幸
    2014 年 117 巻 5 号 p. 638-644
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    喫煙は日本人の4大死因のがん, 心臓病, 脳卒中, 肺炎の主要な危険因子であり, 男性の全死亡の34%とがん死亡の35%はタバコ (能動喫煙と受動喫煙) によってもたらされており, 高血圧や糖尿病, メタボリックシンドロームをはるかに上回る最大の余命短縮因子となっている.
    紙巻きタバコ煙に含まれるニコチン, ニトロソアミン, 多環芳香族炭化水素, ポロニウム210が, がんのイニシエーションとプロモーションに関与する. わが国では男性のがんの35%, 女性のがんの8%が喫煙によって引き起こされている. 能動喫煙は, 上気道消化管がんの主要な危険因子でもある. 受動喫煙もまた上気道消化管がんリスクを有意に増加させる. 日本人女性では閉経前乳がんの半数が能動喫煙と受動喫煙で引き起こされている.
    喫煙を減らすためには, 健診・人間ドックにおける 「喫煙=要治療」 項目化, 禁煙外来における禁煙治療の推進, タバコ税の大幅引き上げ, 受動喫煙防止法の制定などの対策を総合的に進める必要がある. 職場だけでなく飲食施設まで法律で完全禁煙とした国や地域では, 心臓病・脳卒中・呼吸器疾患の入院率が速やかに2~3割低下している. がんの予防可能な最大原因である喫煙を減らすために, これらの対策を速やかに講ずることが望まれる.
原著
  • 北村 剛一, 清水 雅明, 矢富 正徳, 大塚 康司, 岡吉 洋平, 鈴木 衞
    2014 年 117 巻 5 号 p. 645-652
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS) の一般的な治療は経鼻的持続的陽圧呼吸療法であるが, 本邦の睡眠呼吸障害患者の約30%には上気道疾患が存在し, 改善が期待できる場合は外科的治療も一つの選択肢である. 今回われわれは, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対しオトガイ舌筋前方牽引術 (GA) と口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (UPPP) を施行し, その治療効果と合併症, および有効例と無効例に分けてその解剖学的な特徴について検討したので報告する. 対象は, 2006~2011年に当科を受診し中等症以上の OSAS 患者と診断された24例である. 評価項目は, ESS, イビキ・熟睡感, AHI の改善度, 睡眠構築の変化, 術後合併症およびセファロメトリーを用いて有効例と無効例を比較検討した. 24例中16例 (66.7%) で AHI の改善を認めた. AHI の改善がなかった1例は, その後, 上顎骨・下顎骨切離前方転移術を施行し AHI の改善を認めた. 有効例は, 上顎および下顎後退が軽度でさらに軟口蓋過長がみられない症例であった. GA と UPPP の手術適応は, SNA>79.11°, SNB>75.69°, FX>78.67° および36.79mm<PNS-P<42.49mmであった. 保存的治療が増える傾向がある昨今ではあるが, 閉塞部位が明確な場合は顎顔面手術も有効な治療法であると思われた.
  • 白崎 英明, 山本 哲夫, 才川 悦子, 関 伸彦, 朝倉 光司, 形浦 昭克, 氷見 徹夫
    2014 年 117 巻 5 号 p. 653-657
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    札幌市における1995年から2013年の19年間のシラカバ花粉飛散の調査分析を行った. シラカバ花粉飛散数は, 著しい年差が認められた. 前年1月から飛散年5月までの種々の気象因子とシラカバ総花粉飛散数の関連を単回帰分析にて検討したところ, 前年6月の日照時間 (相関係数0.667), 飛散年3月の日照時間 (相関係数0.684) がシラカバ総花粉飛散数と高い正の相関を認めた. これらの2つの項目を説明変数とした重回帰分析では, 相関係数が0.860となり, 単回帰分析以上に精度が高いシラカバ総花粉飛散数の予測式が求められた. これらの結果より, スギ花粉と同様にシラカバ花粉総飛散数は, 気象因子から予測が可能であることが示唆された.
  • 重冨 征爾, 今西 順久, 下田 将之, 冨田 俊樹, 小澤 宏之, 坂本 耕二, 藤井 良一, 羽生 昇, 大塚 邦憲, 山下 拓, 藤井 ...
    2014 年 117 巻 5 号 p. 658-665
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    1988年7月から2007年12月までの期間に慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科にて一次治療を行った頭頸部腺様嚢胞癌30症例を対象に, 臨床病理組織学的評価に基づいて治療成績と予後因子に関する統計学的検討を行った. 原発部位では耳下腺10例, 顎下腺4例と大唾液腺が約半数を占めた. 30例全例に外科的切除を行い, うち10例に術後照射を施行した. 5年/10年疾患特異的生存率 (DSS) は73.9%/62.4%, 5年/10年非担癌生存率 (DFS) は64.3%/59.7%であった. 予後因子として単変量解析ではDSSで神経周囲浸潤 (p=0.010), リンパ管浸潤 (p=0.036) に, DFSでT分類(p=0.044), 切除断端 (p=0.012), 神経周囲浸潤 (p=0.019) に有意差を認めた. 多変量解析の結果, 独立予後因子はDSSでは神経周囲浸潤 (p=0.034, リスク比=9.530), DFSでは切除断端 (p=0.038, リスク比=8.897) であった. 病理組織 grade 分類と生存率との相関は認められなかった. 治療成績向上には初回手術時における切除範囲の拡大や切除断端陽性例に対する積極的な追加切除が必要と考えられる一方, 長期的には高い遠隔転移率が認められることから外科的切除単独では限界があると考えられた. 将来的には分子生物学的指標も加えた予後推定に基づく追加補助治療の個別化が望まれる.
  • 竹中 幸則, 山本 雅司, 曺 弘規, 中原 晋, 安井 俊道, 山本 佳史, 西池 季隆, 猪原 秀典
    2014 年 117 巻 5 号 p. 666-672
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    嗅神経芽細胞腫は嗅粘膜上皮由来の悪性腫瘍であり, 発生頻度の低さから本邦からの多数例の報告はない. 1992年から2012年までに当科において治療を行った嗅神経芽細胞腫14例, 1990年から2013年5月までに報告された本邦症例104例について, 治療法と再発形式, 予後を検討した. 当科では前頭蓋底切除を伴う手術に術後照射を加えることを基本としており, 手術施行例の4年粗生存率は89%と良好な治療成績が得られた. 手術非施行例では局所制御のできない症例が多く, 予後不良であった. 本邦症例では手術, 放射線照射を含む集学的治療が行われている症例が多く, 手術施行例の3年生存率は85%, 手術非施行例では73%であった. しかし, 手術施行例の59%に再発を認め, その多くは局所再発であった. 予後を規定する因子としては, 手術施行の有無, 病理学的 grade, 臨床病期が挙げられる. 近年, 内視鏡的切除が広まりつつあるが, 追跡期間の短い症例が多く, その有用性に関しては今後の検討課題である.
  • 溝上 大輔, 小須田 茂, 塩谷 彰浩, 木下 文雄, 五月女 恵一, 諸角 強英
    2014 年 117 巻 5 号 p. 673-680
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    【背景】外来アブレーション時に全身シンチグラフィ: whole-body scintigraphy (WBS) に加えて SPECT/CT を施行すれば, 融合画像情報とCTを用いた γ 線の減衰補正による SPECT の空間分解能向上から治療方針の変更がもたらされる可能性がある. 【目的】甲状腺全摘後131Iアブレーション時に SPECT/CT を施行した場合, 従来法である WBS 単独と比較して診断能が向上するか評価する. 【方法】後ろ向きコホート研究. 対象は, 2012年2月~2013年2月の間に公立福生病院において, 甲状腺全摘後アブレーション時に SPECT/CT を施行し得た11例, 14検査. 131I (1,110MBq) 投与後7~10日と WBS と SPECT/CT を撮影した. 初めに WBS 単独で読影した後, SPECT/CT を読影し最終診断を下した. 【結果】WBS で頸部リンパ節転移と考えられた集積増加24部位のうち, 13部位が SPECT/CT で齲歯などへの非特異的集積, 甲状腺床集積であることが判明した. WBS で遠隔転移巣と思われた5部位のうち, 5部位が SPECT/CT で気管支拡張症, 卵巣成熟嚢胞奇形腫であった. WBS 単独では, 頸部 (13/28病変, 46.4%), 遠隔転移 (5/17病変, 29.4%) ともに偽陽性が目立った. SPECT/CT により, 全体の42.8%に治療方針の変更があった. 【結論】SPECT/CT は, WBS 単独では判別が困難であった転移巣・他臓器疾患・残存甲状腺の鑑別に有用で, 外来アブレーションの際, 常に施行することが推奨される.
  • 伊藤 由紀子
    2014 年 117 巻 5 号 p. 681-687
    発行日: 2014/05/20
    公開日: 2014/06/20
    ジャーナル フリー
    スギ花粉症患者や医療従事者にとっては, 花粉飛散数の予測値以外に, 花粉の飛散期間, 最盛期の時期, 終了時期などの飛散パターンも抗原回避や治療の計画に役立つ有益な情報である. 今回はスギ花粉の飛散パターンの分類を行い, 飛散パターンの実例を示した.
    空中花粉調査は1987年から2012年までダーラム法で行った. 過去26年間のスギ花粉飛散数を調べた. 各年の2月上旬~4月下旬までの1旬あたりの花粉飛散数を変数としたクラスター分析を行った.
    クラスター分析の結果, 飛散数の少ない谷の年11年は1群にまとまり, 飛散数の多い山の年15年は2A, 2B, 2C群に分類された. 1群ではほぼ左右対称の飛散パターンであり, 3月下旬には飛散数が速やかに減少した. 2A, 2B群は最盛期より後半に多く飛散するタイプ, 2C群は最盛期より前半に多く飛散するタイプであった. 2A群では3月下旬の飛散割合が非常に高く, 引き続きヒノキの最盛期に移行した. 本格飛散日数は1群, 2A, 2B, 2C群ではそれぞれ38, 47, 47, 51日であった. 2群は1群より約10日長かったが, 2A, 2B, 2C間に有意差はなかった.
    2A群のように最盛期より後半の3月下旬の飛散量が非常に多いパターンでは引き続きヒノキの大量飛散時期に移行するため, 有症期間の長期化や重症化が懸念された. 飛散パターンという新しい概念を取り入れることで, 花粉症の適切な治療に役立てたい.
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