鼻副鼻腔乳頭腫におけるヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 感染率は報告者により大きく異なり, 0~79%と意見の一致をみない. この原因として, 各報告の症例数が少ないことや検出方法による差が考えられる. メタ解析では, 正常鼻副鼻腔粘膜7.0%, 鼻内ポリープ4.1%, 乳頭腫38.8%の HPV 感染率であり, 乳頭腫の組織分類では, 外反性乳頭腫 (EP) 65.3%, 内反性乳頭腫 (IP) 37.8%, 円柱上皮性乳頭腫 (CP) 22.5%の感染率と報告されている. 自験例でもメタ解析と比較的似た結果であった. EP では主に低リスク型 HPV (HPV-6, 11) が検出される. 一方, IP では低リスク型, 高リスク型 HPV (HPV-16, 18) の両者が報告されている. 異型性が高度になるほど HPV 検出率が高くなり, さらに低リスク型より高リスク型 HPV の検出頻度が増加する. 乳頭腫に HPV 感染が正常鼻粘膜, 炎症性鼻粘膜より多く観察される原因として, 1) HPV感染が乳頭腫を発生させる, 2) 乳頭腫に HPV 感染が生じやすい, のいずれも想定され, 今後明らかにする必要がある. HPV 感染と再発率に関して, HPV 陽性 IP は再発しやすいと報告
11)されている. この点について, さらに手術手技や切除マージンを統一した検討が必要である.
メタ解析では鼻副鼻腔癌の27%で HPV 感染がみられるが, データに大きなばらつきがあることが報告されている. HPV 陽性の鼻副鼻腔癌は非角化型の組織像を示し予後が良好な特徴を有することが近年報告された. HPV 陽性鼻副鼻腔癌の所見は HPV 関連中咽頭癌の所見と一致し, 今後多数例で検討していく必要がある.
IP と癌病変が混在する病理を時に経験するが, HPV 感染が果たす役割は不明の点が多い. 自験例では, HPV 感染をもつ癌病変を伴った IP ではインテグレーションを示し, また感染している HPV 量も IP より増加する傾向を認めた. このことから, IP の癌化に HPV 感染が関与する可能性も考えられる. しかし, 検出されたウイルス量は HPV 関連中咽頭癌と比較すると極めて少なく, さらに慎重な検討が必要である.
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