日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 6 号
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総説
  • ―呼吸器内視鏡検査 最近の話題―
    中島 崇裕, 吉野 一郎
    2014 年 117 巻 6 号 p. 761-768
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    呼吸器内視鏡領域の進歩は, 肺癌の早期発見および適切な治療方針の決定を可能とした.
    重喫煙者に多く認められる中枢型扁平上皮癌においては多段階発癌が提唱され, 上皮異型性から上皮内癌に進展する過程での早期診断が課題とされていた. 蛍光気管支鏡および狭帯域観察の登場により, CT ではとらえることのできない微細な気道粘膜の変化を容易にとらえることが可能となった. さらに気管支超音波技術の進歩は, 気管・気管支の壁構造を可視化し, 腫瘍の深達度を正確に評価することができるようになった. これらの呼吸器内視鏡技術による正確な診断により光線力学的治療の適応は正確に評価され, その奏効率は非常に高い. また最近では光干渉断層法 (Optical Coherence Tomography; OCT) が開発され, より高解像度での腫瘍浸潤評価が可能となっている. さらに気道粘膜表層を詳細に観察できる拡大気管支鏡の開発は進化を遂げ, 超高倍率での生体内顕微観察技術が相次いで開発された. これらはまだ研究段階であるが, 生検組織を採取することなく病理診断を可能とする optical biopsy の実現に一歩近づいたと考えている.
    気管支鏡技術のもう一つの大きな進歩は, コンベックス走査式超音波気管支鏡 (CP-EBUS) およびこれを用いた経気管支針生検技術 (EBUS-TBNA) の開発である. 気管・気管支周囲病変, 特に肺癌症例における縦隔・肺門リンパ節転移診断は, 肺癌診療を行う上で極めて重要なものである. 低侵襲かつ高精度なリンパ節の質的診断を可能とする EBUS-TBNA は, 米国の最新ガイドラインにおいて肺癌症例でのリンパ節ステージングにおける質的診断法の第1選択となるに至った. さらに EBUS-TBNA によって得られる生検検体は, 分子標的薬の適応判断に不可欠なバイオマーカー診断を可能とし, 肺癌診療において鍵となる検査になっている.
  • ―鼻副鼻腔腫瘍と HPV―
    鈴木 幹男
    2014 年 117 巻 6 号 p. 769-774
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    鼻副鼻腔乳頭腫におけるヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 感染率は報告者により大きく異なり, 0~79%と意見の一致をみない. この原因として, 各報告の症例数が少ないことや検出方法による差が考えられる. メタ解析では, 正常鼻副鼻腔粘膜7.0%, 鼻内ポリープ4.1%, 乳頭腫38.8%の HPV 感染率であり, 乳頭腫の組織分類では, 外反性乳頭腫 (EP) 65.3%, 内反性乳頭腫 (IP) 37.8%, 円柱上皮性乳頭腫 (CP) 22.5%の感染率と報告されている. 自験例でもメタ解析と比較的似た結果であった. EP では主に低リスク型 HPV (HPV-6, 11) が検出される. 一方, IP では低リスク型, 高リスク型 HPV (HPV-16, 18) の両者が報告されている. 異型性が高度になるほど HPV 検出率が高くなり, さらに低リスク型より高リスク型 HPV の検出頻度が増加する. 乳頭腫に HPV 感染が正常鼻粘膜, 炎症性鼻粘膜より多く観察される原因として, 1) HPV感染が乳頭腫を発生させる, 2) 乳頭腫に HPV 感染が生じやすい, のいずれも想定され, 今後明らかにする必要がある. HPV 感染と再発率に関して, HPV 陽性 IP は再発しやすいと報告11)されている. この点について, さらに手術手技や切除マージンを統一した検討が必要である.
    メタ解析では鼻副鼻腔癌の27%で HPV 感染がみられるが, データに大きなばらつきがあることが報告されている. HPV 陽性の鼻副鼻腔癌は非角化型の組織像を示し予後が良好な特徴を有することが近年報告された. HPV 陽性鼻副鼻腔癌の所見は HPV 関連中咽頭癌の所見と一致し, 今後多数例で検討していく必要がある.
    IP と癌病変が混在する病理を時に経験するが, HPV 感染が果たす役割は不明の点が多い. 自験例では, HPV 感染をもつ癌病変を伴った IP ではインテグレーションを示し, また感染している HPV 量も IP より増加する傾向を認めた. このことから, IP の癌化に HPV 感染が関与する可能性も考えられる. しかし, 検出されたウイルス量は HPV 関連中咽頭癌と比較すると極めて少なく, さらに慎重な検討が必要である.
  • ―鼻科領域におけるナビゲーション手術の現状と今後の展望―
    鴻 信義
    2014 年 117 巻 6 号 p. 775-781
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    鼻副鼻腔の構造は複雑で, 個人差や左右差などのバリエーションが多く, また眼窩, 前頭蓋, 視神経などの重要臓器に囲まれているため, 鼻科領域手術では術中に眼窩や頭蓋などを損傷するリスクがある. そこで1990年代から, より安全な手術を目的に内視鏡下鼻内手術 (ESS) にナビゲーションシステムが応用されるようになった. 2008年に下鼻甲介と鼻中隔手術を除くほとんどの鼻科領域手術に対してナビゲーション加算が認められたことも相まって, 現在は本邦でもかなり普及している.
    ナビゲーションシステムが特に威力を発揮するのは, 1) 慢性副鼻腔炎再手術例や術後性副鼻腔嚢胞など, 副鼻腔形態が既往の手術や病変自体の進行によって変貌しているため, 一般的な副鼻腔解剖の知識のみでは十分な対応ができない症例, 2) 前頭洞病変や上顎洞病変など, 前方斜視鏡下の手術操作が必要な症例, 3) 後部篩骨洞や蝶形骨洞など副鼻腔深部に病変がある症例, 4) 高度病変のため術野からの出血が多い症例, などである.
    近年, 頭蓋底病変や眼窩内病変も ESS の適応と考えられている. このような手術ではナビゲーションシステムが欠かせない. 一方, 現行のシステムが表示する画像は, 術前に撮影した CT や MRI 画像に基づいており, 術中に除去された病変部分やその周囲臓器の位置変化 (brain shift,orbital shift) 情報は画像に反映できない. そこで最新の術中画像更新システムでは, 術中に適宜 CT を撮影し, 新たに再構築した画像を用いてナビゲーションを行える. また現在われわれは, 立体内視鏡画像に患者副鼻腔および周辺臓器の3次元グラフィックモデルを重畳表示するステレオナビゲーションシステムを開発・改良し, 術野のオリエンテーションが直感的に認識できるようにした.
    ナビゲーション手術の今後の課題は, ナビゲーションを用いることが術後成績の向上や手術時副損傷の軽減に寄与しているかどうか評価・検討することである.
  • ―耳鼻咽喉科一般外来における嚥下指導と嚥下訓練―
    唐帆 健浩
    2014 年 117 巻 6 号 p. 782-787
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    「飲み込む際にむせる」 「飲み込みにくい」 という嚥下障害を疑うような症状の患者は, 耳鼻咽喉科を受診することが多い. 日本耳鼻咽喉科学会が編集した 「嚥下障害診療ガイドライン」 には, 耳鼻咽喉科一般外来で行う嚥下障害の診療指針が示されており, 診療所などの耳鼻咽喉科一般外来を担当する医師が自ら, 基本的な診察と嚥下内視鏡検査を経て, 嚥下障害患者への対応を決めることを推奨している. すなわち, 自身で嚥下指導・訓練を行うか, より専門的な医療機関へ紹介するかを判断することになる. 一般外来で施行が可能な嚥下指導や嚥下訓練にはかなりの制限があるが, 対象を絞ることで対応は可能となる. 一連の診察および検査を行った結果, 嚥下内視鏡検査で何らかの異常を認めるが明らかな誤嚥がなく, 精神・身体機能は嚥下指導を行う上で十分に維持されている患者, 例えば, 液体嚥下の際に, 軽度の喉頭流入を認めるだけの, 認知症のない高齢者などが対象となる. 加齢により, 嚥下動態にはさまざまな変化がみられ, これらが相互に作用して, 代償ができなくなる高齢者は少なくない.
    嚥下指導とは, 食事に適した食事環境, 姿勢・頭位や食形態の工夫など一般的な誤嚥予防や対応策を説明することである. 嚥下訓練とは, 嚥下動態を考慮して機能の改善を図り, 安全な経口摂取を目指す訓練である. 嚥下指導や訓練は, 条件を満たせば診療報酬を算定することが可能である. 医師の指導のもとに看護師や准看護師が, 口腔ケアや嚥下指導を行う場合にも摂食機能療法として算定できる.
    一般外来で嚥下障害のトリアージを行い, 自身で嚥下指導と訓練を行うには, 知識と技量がある程度必要である. 経験が不十分であれば, 日耳鼻嚥下障害講習会等にて, 嚥下機能評価や嚥下訓練の手技を学ぶことが望ましい. 耳鼻咽喉科一般外来で, 嚥下障害診療が広く行われるようになることを期待したい.
原著
  • 矢部 多加夫, 岡田 和也
    2014 年 117 巻 6 号 p. 788-793
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    乳突洞開放型術後耳に対する外耳道再建型鼓室形成術では, 骨および軟骨で再建した外耳道後壁を安定した状態に保つことが術後の要点になる. 再建した外耳道後壁を有茎側頭筋膜組織弁および骨膜組織弁で被覆することで, より安定した再建外耳道後壁が確保され, また良好な移植鼓膜の生着が得られる. 有茎組織弁の血流をみるためにレーザードップラー法を用い, 耳漏が続く乳突洞開放型術後耳20例で有茎側頭筋膜組織弁・骨膜組織弁血流を測定した結果, ともに確実な血流を有することが確認された. 有茎側頭筋膜組織弁作成後血流には有意な改善傾向が認められ, 有茎側頭骨膜組織弁血流よりも有意に良好であった. 再建外耳道後壁を血行が保たれた有茎側頭骨筋膜組織弁および骨膜組織弁で被覆することにより, 術後治癒機転の促進, 術後感染症の回避が可能で, 安定した再建後壁, 術後聴力を獲得する上で有効な手術手技と考えられた.
  • 間多 祐輔, 越塚 慶一, 伊原 史英, 植木 雄司, 今野 昭義
    2014 年 117 巻 6 号 p. 794-801
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    2009年4月から2013年5月までに放射線併用超選択的動注化学療法を施行した頸部リンパ節転移を有する新鮮頭頸部扁平上皮癌32例を対象として病理組織学的治療効果と臨床的治療効果を検討した. 転移リンパ節の臨床的治療効果は CR が16例, PR が16例であった. 症例に応じて頸部郭清術またはリンパ節生検を行い, 病理組織学的治療効果を検討した. 転移リンパ節の病理組織学的治療効果を検討した32例のうち, N3 症例では9例中7例で腫瘍細胞の残存を認めたが, 7例で根治切除は可能であった. N1, N3 症例を除いた22例の頸部リンパ節の病理組織学的 CR 率は63.6%であった. N1, N3 症例を除く, 転移リンパ節へ直接動注した13例の病理組織学的 CR 率は76.9%であり, 一方, 原発巣が大きいために原発巣のみに動注した9例の病理組織学的 CR 率は44.4%であった. したがって, N3 症例や N2b, N2c 症例の頸部リンパ節転移に対しても放射線併用超選択的動注化学療法は有効と考えられた. 治療後の臨床的評価で CR と判断したが病理組織検査では viable な癌細胞の残存を認めた症例が25%にみられたことから, 転移リンパ節の残存を疑う場合には頸部郭清術を行い, CR と評価した場合にも転移リンパ節の生検を行い, 病理組織学的治療効果を確認する方がよいと思われる.
  • 河野 敏朗, 松浦 省己, 石戸谷 淳一, 折舘 伸彦
    2014 年 117 巻 6 号 p. 802-808
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    【目的】 全身ステロイド療法で, 聴力改善が得られなかった難治性突発性難聴に対し, 鼓室内ステロイド療法の効果を検討した.
    【対象と方法】 対象は全身ステロイド療法で, 聴力改善のなかった難治性突発性難聴症例とした. 2003年6月から2010年7月までは全身ステロイド療法と高気圧酸素療法の2者併用療法を31症例 (A群) に行った. 2010年8月から2012年3月までは, 全身ステロイド療法と高気圧酸素療法に鼓室内ステロイド療法を追加した3者併用療法を29症例 (B群) に行い, 2群に分けて治療効果を比較した. さらに, 治療前後での聴力レベルを比較した. また, 治療効果に影響を及ぼす因子を多重ロジスティック回帰分析にて検討をした.
    【結果】 A群 (31例) では, 著明回復1例 (3.2%), 回復6例 (19.4%), 不変24例 (77.4%) であった. B群 (29例) では治癒5例 (17.2%), 著明回復3例 (10.3%), 回復14例 (48.3%), 不変7例 (24.1%) であり, B群の治療効果が良好であった (p<0.05). 聴力レベルが治療前後でA群では7.0±12.0dB の改善で,B群では21.8±18.7dB の改善であり, B群が良好であった (p<0.05). また, 3者併用療法が治療効果に良好な影響を与えていた (p<0.05).
    【結論】 鼓室内ステロイド療法は, 難治性突発性難聴の追加併用療法として, 有効であると考えられた.
  • 佐藤 公則
    2014 年 117 巻 6 号 p. 809-814
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    1. 歯科修復治療 (インレー修復) 後の歯が原因歯である歯性上顎洞炎を報告した.
    2. 齲蝕の進行が歯髄腔・歯髄に及んでおらず, 歯髄腔・歯髄に操作が加えられておらず, 象牙質という物理的バリアが介在している歯科修復治療 (齲蝕切削・窩洞形成・インレー修復) により, たとえ露髄していなくても根尖病巣を来し, 歯性上顎洞炎の原因歯になり得る病態が存在する.
    3. 歯科で修復治療 (インレー修復) された歯でも歯性上顎洞炎の原因歯になり得ることを念頭に置き, 日常臨床で歯性上顎洞炎の診療を行う必要がある. すなわちたとえ歯科処置後の歯で口腔内所見上齲歯がなくても, 歯性上顎洞炎の原因歯として疑うことが非常に大切である.
  • 松尾 美央子, 力丸 文秀, 檜垣 雄一郎, 益田 宗幸
    2014 年 117 巻 6 号 p. 815-820
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    基底細胞母斑症候群は, 発達上の奇形と高い発癌性を併せ持つ常染色体優性遺伝性疾患で, 基底細胞癌, 角化嚢胞性歯原性腫瘍などの腫瘍性疾患と, 皮膚や骨格などの先天奇形の合併を特徴とする. この症候群自体が比較的まれであるが, 今回われわれが経験したのは, 皮膚の基底細胞癌ではなく口腔の扁平上皮癌を発症したさらにまれな症例で, 検索し得た範囲では世界で5例目であった. 症例は33歳の女性で, 初診時に硬口蓋扁平上皮癌と基底細胞母斑症候群が認められた. 硬口蓋癌に対する手術の後, 化学放射線治療を行い現在無病生存中である. 基底細胞母斑症候群は低量の紫外線やX線の暴露で腫瘍化が起こりやすいため, 術後の放射線治療は可能な限り限局して行った. 今後は扁平上皮癌の再発のみならず, 基底細胞癌の発症にも注意深い経過観察を行う予定である.
  • 冨藤 雅之, 荒木 幸仁, 上出 大介, 田中 伸吾, 田中 雄也, 福森 崇之, 塩谷 彰浩
    2014 年 117 巻 6 号 p. 821-826
    発行日: 2014/06/20
    公開日: 2014/07/12
    ジャーナル フリー
    喉頭全摘術は古くから確立された術式であるが, 高齢者や合併症の多い症例においては手術時間はなるべく短いほうが好ましい. リニアステープラーを用いた喉頭全摘術は海外においては多くの報告例もあり, 手術時間の短縮効果も報告されている.
    喉頭癌症例に対して本術式を3例に施行した. 手術内容としては Skeletonization と呼ばれる喉頭の剥離操作を行い, リニアステープラーを用いて喉頭摘出と同時に咽頭の器械縫合を行った. 症例数が少なく統計学的解析には不十分であるが, 30分程度の手術時間の短縮効果がみられた. 喉頭全摘例のすべてに応用できるものではないが, 短時間での手術が望ましい場合には有用な手術手技と思われる.
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