日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 9 号
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総説
  • 佐藤 公則
    2017 年 120 巻 9 号 p. 1133-1139
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー

     喉頭科領域の外来診療では, 以下のような工夫を行っている.

     1. 気道, 嚥下, 発声に関与する喉頭科領域をオールラウンドに診療する.

     1) 上気道疾患を総合的に診療する.

     耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は上気道の専門医である. 上気道疾患に対し良質の医療を提供できる.

     2) 嚥下障害を総合的に診療する.

     口腔期・咽頭期・食道期の嚥下障害の原疾患の診断と嚥下機能の評価を的確に行う. 嚥下機能評価に基づく根拠のある嚥下機能訓練の指導と評価, 手術適応の決定を行う.

     3) 音声・言語障害 (ことばの障害) を総合的に診療する.

     ことばの障害 (言語障害, 構音障害, 音声障害, 吃音などの特殊なもの) を総合的に診療する. 器質性音声障害のみならず機能性音声障害, 痙攣性発声障害の診療も行う. 職業歌手の音声障害の診療も行う.

     2. 疾患名から診た診断・治療だけではなく, 病態から診た診断・治療を行う.

     声帯の器質的病変だけが音声障害の原因ではない. 声帯を振動体としてとらえ, 病態を考え, 病態に応じた診断・治療を行う.

     3. 病態・患者の希望に応じた集学的治療 (内科的・外科的治療) を行う.

     音声障害の治療には, 薬物療法 (内服, 注射), 処置, 音声治療, 手術などがある. 保存的・手術的治療, 内科的・外科的治療などの多くの治療選択肢を病態に応じて患者に提示し, 病態・患者の希望に応じた集学的治療を行う.

      耳鼻咽喉科・頭頸部外科に求められていることは, 他診療科で得られない良質の医療である.「耳鼻咽喉科で治療を受けるとよく治る」,「頸から上を総合的に診てくれる」, このような診療実績の積み重ねにより, 患者の信頼, 他科からの信頼を得ることができ, 患者の主体的・積極的な治療参加が得られる.

  • 平野 滋, 中野 宏, 松井 雅裕, 新井 啓仁
    2017 年 120 巻 9 号 p. 1140-1146
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー

     この数年来, 甲状腺癌に対する薬物治療が激変している. かつて放射性ヨウ素 (RAI) 不応の再発・転移分化型甲状腺癌に対しては, 1970年代にドキソルビシンが治療選択肢として提唱されたが定着せず, その後長きに渡り RAI 不応甲状腺癌に対する有効な薬物治療法はなかった. 髄様癌や未分化癌について有効な薬物療法がなかったのは言うまでもない. 2014年に multi-target kinase inhibitor (m-TKI) であるソラフェニブ (sorafenib) の有効性が証明され, 日本でも保険適応となり, その後, レンバチニブ (lenvatinib), バンデタニブ (vandetanib) が相次いで登場し日常臨床における治療オプションがさらに充実するようになった. ソラフェニブは第3相ランダム化試験である DECISION 試験で, レンバチニブは同じく SELECT 試験において, RAI 不応分化型甲状腺癌に対しプライマリーエンドポイントである無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善させた. その後, ソラフェニブは髄様癌に対する適応も取ったが, レンバチニブは分化型甲状腺癌,髄様癌, 未分化癌のすべてに適応を追加した. 分化型甲状腺癌における分子標的薬の適応は, 切除不能再発・転移病変で, RAI 不応かつ病勢進行の早いものとされるが, 開始のタイミングを逸すると効果が得られないので症例ごとの検討が必要である. また多彩な副作用が発生し得るが, 適切にコントロールすることで長期的な腫瘍制御は可能と考えられる. 慎重投与として大血管近傍, 気管・食道近傍, 皮膚浸潤などが指摘されており, 腫瘍縮小にともなう動脈出血が報告されている. 多くは未分化癌であるが, 従来治療困難な癌に対し優れた効果を認めており, 合併症対策を検討することが重要である. 分子標的薬使用中の手術についても創傷治癒遅延の懸念が示されているが, 十分な検討はなされていない. 大きな期待を持たれて登場した分子標的薬であるが, まだ十分に使いこなせているとは言えず, 外科医目線の検討が今後必要と考えられる.

原著
  • 山本 哲夫, 朝倉 光司, 白崎 英明, 亀倉 隆太, 氷見 徹夫
    2017 年 120 巻 9 号 p. 1147-1154
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー

     はじめに: シラカバ花粉アレルギー例では, 共通抗原性のため, 果物や野菜を食べた時に, 口腔や咽頭の過敏症 (口腔アレルギー症候群, oral allergy syndrome, OAS) を示す例が多いが, 一部の食物ではヨモギ花粉なども原因となると言われている. 一方, 札幌ではシラカバ花粉の飛散が多く OAS 例も多いが, ほかの花粉の単独感作例は少なく, シラカバ以外の花粉などの影響を調べることは必ずしも容易ではない. 今回シラカバ感作例も含め, 多変量解析を用い, ほかの花粉などの感作が加わることによって問診上の口腔咽頭過敏症の頻度が変化する食物があるかを検討した.

     方法: 対象は4種の特異的 IgE (シラカバ, カモガヤ, ヨモギ, ダニ) のいずれかが陽性の2,364例で, 口腔咽頭過敏症の診断は問診により, 特異的 IgE は ImmunoCAP (以下 CAP) を用いた. 各食物に対する口腔咽頭過敏症の有無を従属変数とし, 性別, 年齢階層, 4種の CAP クラスを説明変数としたロジスティック回帰分析を行った.

     結果: ヨモギ感作例はメロン, スイカ, トマトとセロリによる症状発現が多かった. カモガヤ感作例はメロンによる症状発現が多く, 豆乳による症状発現が少なかったが, メロンによる症状発現に対する影響はシラカバやヨモギより弱かった. ダニの感作例はサクランボとイチゴによる症状発現が少なかった.

     結論: シラカバ以外の花粉などの感作にともない, 口腔咽頭過敏症の頻度が変化する食物があった.

  • 荻野 枝里子, 廣芝 新也, 岩永 迪孝
    2017 年 120 巻 9 号 p. 1155-1164
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー

     鼻副鼻腔炎に対する治療効果を評価する際の QOL 調査票として, 海外では Sino-Nasal Outcome Test (SNOT-22) を用いた研究報告が多くみられ, 異言語, 異文化間妥当性があるとされている. われわれは SNOT-22 の日本語版を作成し, これを当院で行っている内視鏡下副鼻腔手術 (ESS) の前後での自覚症状・QOL 調査に用い, 調査票としての信頼性, 妥当性, 治療反応性に関する検討を行った. 対象は当院で ESS 施行前に SNOT-22 を行った患者97名と健常者22名とし, 内部整合性, 再現性, 判別有効性, 治療反応性, 臨床解釈可能性につき解析した. 結果, Cronbach's α 係数は0.86と高い内部整合性を示した. 再テスト法による級内相関係数は0.82であり, 再現性を確認した. 患者97名の術前総スコアは37.5±17.2 (平均±SD), 健常者は6.5±5.8であり, 判別有効性を認めた. ESS 施行前後の両時期に調査を施行した85名の総スコアは術前36.0±16.1から術後11.7±11.6と変化し, 治療反応性を認めた. 臨床解釈可能性の指標である「臨床における最小重要差 (MID)」は15.7であった. これらの結果より, SNOT-22 日本語版は鼻副鼻腔炎に関する自覚症状・QOL 調査票として信頼性, 妥当性, 治療反応性を持つことが示された.

  • 青木 由香, 清水 啓成, 篠原 宏, 吉田 沙絵子, 仲間 秀幸
    2017 年 120 巻 9 号 p. 1165-1172
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/10/03
    ジャーナル フリー

     Marfan 症候群は, 特徴的な長い四肢, 高身長などを有する常染色体優性遺伝の全身性結合組織疾患である. 今回われわれは, Marfan 症候群の頭蓋顔面の骨格系異常により蝶形骨洞後壁を形成する斜台の骨欠損から, 髄膜瘤および髄液漏を来し気脳症を反復した極めてまれな症例を経験した. 気脳症を繰り返していたため経鼻内視鏡下に経蝶形骨洞アプローチによる髄液漏閉鎖術を施行し髄液漏, 気脳症の再発を止めることができた. 本症例は Marfan 症候群に起因した骨格異常と副鼻腔の発育拡大により頭蓋底の脆弱化や菲薄化が生じたことに加え, 頭蓋底に拍動性に髄液圧がかかることによって斜台の一部に骨欠損を来し, 硬膜が菲薄化し髄膜瘤を形成し髄液漏, 気脳症を反復したものと考えられた.

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