GJB2 遺伝子変異は遺伝性難聴の中で最も多い原因である. 千葉県こども病院において聴覚管理を行っている難聴症例のうち, 2008年12月~2016年12月までに難聴の遺伝学的検査を実施した231例中, GJB2 遺伝子変異が検出された64例を対象とし臨床経過と保険診療における遺伝学的検査に関して後方視的に検討した.
64例中59例は GJB2 遺伝子変異による難聴, 5例は保因者と診断した. 聴力レベルとしては中等度難聴が最も多く, また聴力の左右差が 10dB 以内の例が多かったが, 左右差 30dB 以上の例も3例認められた. 新生児聴覚スクリーニング (NHS) を受けていた28例中6例は両側あるいは一側パスの例であり, そのうち少なくとも3症例は難聴が進行した可能性が高いと考えられた症例であった. 5年以上聴力経過を追えた例では, 3歳時と最終検査時の聴力の差は平均1dBであった.
NHS で早期に難聴が発見され, 遺伝学的検査で GJB2 遺伝子変異による難聴と診断された乳幼児の場合, 遺伝学的検査は難聴予後の推測には役立つと考えられたが, その結果だけからは難聴の程度の決定は困難であり, 進行例もあること等を考慮する必要もあると考えられた.
進行性核上性麻痺 (progressive supranuclear palsy; PSP) は, 核上性注視障害, 姿勢反射障害, パーキンソニズム等を主症状とする神経変性疾患である. 今回われわれは, 喉頭蓋が吸気時に喉頭腔に引き込まれる floppy epiglottis による上気道狭窄を起こした PSP 症例に対し, 気道確保と誤嚥防止を目的として, 一期的に声門閉鎖術を施行した. 症例は72歳女性. 6年前に易転倒性が出現し PSP と診断された. 嚥下性肺炎を繰り返し, 吸気性喘鳴が続くことから当科に紹介された. floppy epiglottis に対し声門閉鎖術を施行し, 術後は吸痰回数が減少し, 経口摂取が可能となった.
未分化多形肉腫 (UPS) は, 以前は悪性線維性組織球腫と言われていたが2013年の WHO 分類にて未分化/分類不能肉腫の亜型として分類された. 予後不良な腫瘍で, 主に四肢軟部組織に発生し, 頭頸部での発生は比較的まれである. 今回われわれは右上顎洞に発生した UPS 症例を経験したので報告する. 症例は65歳男性. 主訴は鼻閉と開口障害. CT で周囲浸潤性骨破壊を伴う右上顎洞腫瘍を認め, 上顎洞悪性腫瘍が疑われた. 開放生検・減量手術を行い術後病理検査で UPS と診断された. 根治切除不能の右上顎洞原発未分化多形肉腫に対して単独放射線療法 66Gy を施行した. 現在治療後4年11カ月経過し, 再発・転移は認めていない.
眼窩吹き抜け骨折の治療に吸収性骨接合剤のハイドロキシアパタイト・ポリ L-乳酸複合体 (u-HA/PLLA) を用いて良好な経過が得られた症例を経験したので報告する.
症例1は67歳, 女性. 交通事故により受傷, 右眼窩下壁・内側壁吹き抜け骨折を認めた. 複視はなかったが, 眼球陥凹に対して整復術を施行した. 症例2は14歳男性. サッカーの試合中に受傷, 右眼窩下壁吹き抜け骨折による複視があり, 整復術を施行した. いずれも骨折が広範囲であり u-HA/PLLA を用いた.
いずれも術後2年以上経過したが, 特に合併症はなく, 眼窩下壁再建材料として有用と思われた. さらに長期に経過観察して安全性を確認していきたい.
粘膜免疫は消化管において病原微生物の侵入を防ぐ一方で, 生命維持に必要な食物は積極的に体内へ取り込むなど, 抗原に応じて相反する反応を示す. 上気道においても粘膜免疫が生体防御に重要な役割を果たしており, これが破綻することで感染症やアレルギー性炎症が発症する. したがって, 上気道の粘膜免疫を賦活すること, すなわち粘膜ワクチンを用いることでこれらの疾患を予防できると考えられる. 粘膜免疫において主たる役割を担っているのが分泌型 IgA で, ウイルスや細菌の上皮への接着を阻止する. 上気道に抗原特異的分泌型 IgA を誘導するには, 抗原を経鼻投与するのが最も効率的で, 現在, 経鼻ワクチンの開発が進められている. そのワクチンの一つとしてホスホリルコリンがあり, すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれることから広域スペクトラムを有するワクチンになり得ると考えられる. また, 結合化ホスホリルコリンは粘膜アジュバントとしての作用を有しており, これらを用いた新規の経鼻粘膜ワクチンの開発を目指して現在も研究を続けている.