在宅療養中の嚥下障害は, 普段の食事が嚥下しにくくなった程度の段階から, 誤嚥性肺炎等で入院加療ののち, 経口摂取不可とされて経管栄養のみを行っている段階までさまざまな状態が見られる. 地域の診療所にはこれらさまざまな状態の嚥下障害患者が受診するが, これらの診療所での診療の包括的な実態の報告は渉猟する限りでは認められない. その観点から在宅療養中の嚥下障害患者の特徴と耳鼻咽喉科診療所における嚥下障害診療の特色を明らかにすることを目的とし, 本研究を行った.
平成20年4月~令和元年9月までの11年間に, 神戸市内の耳鼻咽喉科診療所4カ所を受診した嚥下障害患者, 計361例を対象とした. 患者の食事摂取の在り方, 代替栄養法, 原因疾患, 肺炎の有無, 紹介元, 嚥下リハビリテーション, 介護認定等の諸点につき, その相互関係を含めて考察を行った.
結果, 361例中137例 (38%) では従来からの食事 (いわゆる普通食) は摂取できていない状況にあり, このうち51例では胃瘻造設がなされていた. そして在宅医療関連職種から紹介を受けての受診が166例と半数近くに認められた. 原因疾患としては認知症, パーキンソン症候群, 脳血管障害の3疾患が多く認められた. また在宅でのリハビリテーション (以下リハビリ) については訪問看護の中で言語聴覚士によって行われている例が多かった.
在宅療養においては看護・介護が入院中に比して手薄である. 耳鼻咽喉科医の役割は, 各段階の嚥下障害において適切な食事内容と食事の仕方を, 主に外来診療で指導していくことになる. また地域医療関連職種との協働が必要であり, 特にリハビリについては在宅では介護保険の活用が必要となる場合が多い.
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