耳鼻咽喉科臨床

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聾唖ノ成因ニ2種アリ先天性聾唖及後天性聾唖ナリ. 兩者ヲ鑑別スルハ聾唖ノ發生豫防乃至治療問題上緊要ナルハ言ヲ俟タザルモ, 聾唖ノ診斷ガ實際臨床上極メテ困難ナル場合尠カラズ. 余ハ三重縣地方在住ノ聾唖ニ就キ, 家族的關係, 失官原因其他ニ關スル統計的觀察, 臨床的觀察及ビ聽器ノレ線學的觀察ヲ行ヒ就中先天性聾唖ト後天性聾唖トニツキ特別ノ注意ヲ拂ヒ次ノ如キ結果ヲ得タリ.
第一篇家族的關係及ビ既往歴ノ調査成績. 先天性聾唖ノ大部分ハ遺傳性ニシテ Mendel ノ單劣性遺傳ノ法則ニ從フモノナルハ諸家ノ認ムル所ニシテ, 余ノ調査セル先天性聾唖中約半數ハ家系中ニ聾唖ノ多發セルヲ證シタリ. 又先天性聾唖ハ後天性聾唖ニ比シ家系ニ遺傳變質性疾患ヲ有スルモノ多シ. 次ニ兩親ノ血族結婚者ハ先天性聾唖中52.17%ヲ占メ本邦血族結婚頻度ニ比シ遙ニ高率ナリ. 兩親ノ飲酒及ビ喫煙ハ先天性聾唖ノ直接原因トハ認メ難ク, 又兩親ノ結婚年齡兩親ノ年齡差, 聾唖出生時兩親ノ年齡, 父母結婚ヨリ聾唖出生ニ到ル年數及ビ出産順位ト先天性聾唖發生トハ特記スベキ關係ヲ認メズ. 後天性聾唖ハ傳染性疾患ニ基因スルモノ最モ多ク67.39%ニシテ, 中耳化膿症ヲ認メタルモノハ45.65%アリ. 而シテ後天性聾唖ハ2歳以下ニ發現セルモノ最モ多ク年齡ノ増加ト共ニ遞減ス.
第二篇臨床的觀察. 耳鼻咽喉科領域ニ於ケル畸形トシテ懸壅垂破裂8.41%, 先天性耳瘻孔1.40%ノ外, 兩側小耳症, 兩側先天性外聽道閉鎖及ビ懸壅垂破裂ヲ併有セル先天性聾唖1名ヲ認メタリ. 後天性聾唖ハ先天性聾唖ニ比シ鼓膜ニ病變ヲ有スルモノ多シ.
聽覺ハ Bezold-Edelmann ノ連續音叉ヲ以テ檢セルニ殘聽ヲ證セルモノ比較的多ク91.01%ニシテ, 完全聾ハ僅ニ8.69%ナリ. 而シテ殘聽耳數ハ先天性聾唖ニ多ク, 反之完全聾耳ハ後天性聾唖ニ多シ. 特ニ後天性聾唖ニ於テハ先天性聾唖ニ比シ片耳完全聾者著シク多シ. 前庭機能ハ10秒10廻轉ノ廻轉刺戟ニ反應セザルモノ11.49%, 體温下20℃ノ冷水刺戟ニ反應セザルモノ26.85%ナリ. 而シテ後天性聾唖ハ先天性聾唖ニ比シ前庭機能障碍ヲ有スルモノ多ク又片側前庭機能ノミ脱落セルモノハ先天性聾唖ニ皆無ナリキ. 又完全聾ハ殘聽ヲ有スルモノニ比シ前庭反應發現スルモノ尠ク, 且ツ此關係ハ先天性聾唖ニ比シ後天性聾唖ニ於テ特ニ差顯著ナリ. 次ニ聽覺及ビ前庭機能共ニナキモノハ先天性聾唖ヨリモ後天性聾唖ノ方遙ニ多ク, 聽覺及ビ前庭機能ノ殘存セルモノ, 並ニ聽覺全クナキモ前庭機能ノ殘存セルモノハ先天性聾唖ニ多ク, 反之聽覺殘存セルモ前庭機能ナキモノハ後天性聾唖ノ方高率ナリ. 身體平衡機能ハ靜的並ニ動的檢査ニ於テ後天性聾唖ハ先天性聾唖ニ比シ機能障碍ヲ有スルモノ多キヲ認メタリ. 黴毒血清反應ヲ檢セルニ陽性ナルモノ1名モナク, 又臨床上先天性黴毒ノ徴候ヲ認メタルモノナシ.
第三篇聽器ノレ線學的檢査. 乳嘴蜂〓ノ發育セザルモノ聾唖兒ニテハ19.08%ニシテ健康兒ノ8.33%ヨリ多キモ, 蜂〓ノ發育度中等度ナルモノ及ビ蜂〓ノ發育度正常ナルカ或ハ正常以上ニ良好ナルモノニ於テハ兩者間ニ著差ヲ認メズ. 又蜂〓發育度ノ甚大ナルモノハ先天性聾唖ニ多ク, 發育度ノ甚小ナルモノハ後天性聾唖ニ多シ. 蜂〓構成態ハ聾唖兒ト健康兒トノ間ニ著差ナキモ先天性聾唖ト後天性聾唖トヲ比較スルニ, 構成態不正ナルモノ前者ハ42.72%, 後者ハ79.31%ニシテ著シク高率ナリ. 又蜂〓發育度ト構成態トノ關係ヲ觀ルニ, 蜂〓發育度ハ同程度ナルモ構成態正規ナルモノハ先天性聾唖ニ多ク, 左構成態不正ナルモノハ後天性聾唖ニ多シ. 含氣型ノ左右一致セルモノハ聾唖兒ト健康兒トノ間ニ大差ナキモ, 先天性聾唖ト後天性聾唖トヲ比較スルニ, 左右一致セルモノハ前者ノ方高率ナリ. 錐體蜂〓ノ發育度ハ聾唖兒ト健康兒トノ間ニ大ナル差異ナキモ, 蜂〓發育ノ良好ナルモノハ先天性聾唖ニ多ク, 蜂〓ノ全ク發育セザルモノハ後天性聾唖ニ多シ. 又錐體蜂〓發育度ノ左右一致セルモノハ先天性聾唖ノ方稍々高率ヲ示セリ. 聾唖兒並ニ健康兒共乳嘴蜂〓ノ發育度ト錐體蜂〓ノ發育度トハ大略比例スルモノナリ. 次ニ迷路レ線像ノ病的ナルモノハ先天性聾唖52名中1名, 後天性聾唖29名中7名ヲ認メタリ. 而シテ此等迷路レ線像ト内耳機能所見トハヨク一致セリ.
上記家族歴, 既往歴, 臨床所見及ビ聽器レ線所見ヲ併セ考察スルコトハ聾唖診斷上極メテ意義深キヲ信ズ.

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