気管支造影の試みは, 1905年Jacksonが次炭酸蒼鉛を使用したのに始まつたが副作用が強いため普及しなかつた. 1922年SicardとForestierが副作用の少い沃化油を使用して以来, 漸く臨床的に普及されるようになつた.
肺結核外科の発達に伴い肺結核症に対する気管支造影が現在のように盛んに行われるようになり, 現今では, 肺葉切除術, 肺区域切除術あるいは空洞切開術というような肺結核に対する直達療法の施行の際の適応及び術後の効果判定のために必須の検査法となつている.
更に近来結核病理の解明に伴い, 肺結核症の進展, 予後および治療において, 気管支の病変あるいはその性状が重要視されるに及んで, 単に肺結核外科手術の術前・術後の検査だけにとどまらず本法の適応範囲はますます拡大する傾向にある.
このように気管支造影法が重要視されるに従い, 造影剤の具備する条件というものについて関心を新にする必要が生じて来た.
一般に気管支造影剤の理想的条件として, (1) 刺戟・副作用のないこと, (2) 比黒度の良いこと, (3) 残溜像を残さないこと, が挙げられている. 特に従来のヨード化油のように半永久的な肺胞残溜像を示す場合は爾後の肺病巣の診断の妨げとなり, 上述のような条件を満足させることは出来ず, ただ手術前後の検査として普及されるにとどまつたのである.
1948年Fisherは水溶性造影剤Joduron Bを創製して, この障壁を破ろうとしたが, 刺戟性の点において, いささか難点があつた. 又スルファミン懸濁モルヨドールによる造影が試みられたが, なお月余にわたる残溜像をみることが屡々であつた(1949 Dormer). またConway Don, W. S. Holden, C. Cummins, G. McKechnie, 渡辺, 篠原等はDionosil及びDionosil oilyを使用してい. るが, 外国製品であつて高価なため, 臨床的に普及するには程遠いものがある.
しかるに三上・中村・小池等は60%油性ウロコリン(第一製薬)が上記3条件を満足させる造影剤であることを報告している.
我々は60%油性ウロコリン(以下「ウ」と略す)を用い, 特に臨床的に人員, 設備および所要時間等を考慮に入れて, 撮影設備さえあれば, 気管支造影が簡易に行われ, しかも診断に必要な諸条件を具えた造影写真を得る方法を検討した.
抄録全体を表示