自殺の目的或は誤飲の結果としてしばしば見られる急性燐中毒は, その多くは数時間の潜伏期を経て, 心窩部に熱感及劇痛を覚え, 暗処で輝く吐物, 吐血, 頭痛, 腹痛, 下痢があり, 次で2, 3日後症状はさらに増悪し, 黄疸, 肝臓・腎臓の腫大, 皮膚および粘膜の出血, 発熱, 徐脈, 意識混濁等をおこし遂には1~2週間後に不幸な転帰をとるのがほとんどである.
報告する症例はネコイラズ約8g(致死量1g)を服毒し, 内科医により治療を受けていたが, 鼻出血がひどいので, 服毒後約2週間して私共の科を訪れたのであるが, その後の入院加療の経過も思わしくなく, 鼻出血の他に潰瘍性出血性口内炎, 両側化膿性耳下腺炎, さらには強度の貧血, 全身衰弱, 意識混濁を来し服毒後約1ヵ月を経て死亡した例である. すなわち烈しい鼻出血が続いたことゝ経過が1ヵ月もの長期に渡つた事は比較的稀な症例と思われるのでこゝに報告する次第である.
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