中耳粘膜及び耳管における神経ペプチド分布を蛍光抗体法及びPAP法により観察した.中耳粘膜については, SP, VIP, APP, GRP, 各ペプチド神経線維の分布を調べた.神経線維のほとんどは微小血管に沿ってみられたが,中には独立して走行する神経線維もみられた. SP, VIP, APP, 3種のペプチド神経線維は,中耳粘膜において多く分布していたが, GRP神経線維については, その分布は全体的に少なかった.中耳腔内分布において, 4種のペプチド神経線維は,耳管鼓室口附近に多く鼓室口より遠ざかるにつれて,その分布は少なくなる傾向がみられた.
耳管におけるペプチド神経線維の報告はすでにVIPそしてAPPに関して調べられているが, 今回著者らは蛍光抗体法及びPAP法により耳管におけるSP神経線維分布を調べ得たので報告した. SP神経線維は耳管鼓室口より中央部にかけて少なく, 耳管咽頭口附近に多く分布していた. 粘膜下そして血管周囲にその分布を多く認めたが, 耳管腺周囲には少なかった.
上頸神経節除去により中耳粘膜におけるAPP神経線維は消失したが, SP, VIP, GRP, 各神経線維は影響を受けなかった. 中耳粘膜及び耳管に見出された各ペプチド神経線維は血管拡張, 血流増加作用及び分泌亢進作用があると言われており, それらは従来のアドレナリン作動神経線維, コリン作動神経線維と共同して耳管を通しての通気性の維持をして中耳における感染防禦及び異物除去作用などに影響しているものと勘案した.
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