環境要因が養成魚の成長や生残あるいは栄養品質に与える影響を調べる試みが、養殖成績の向上の見地から長年にわたり大きな関心を集めている。本研究では、幼期の成長段階にあるナイルティラピア(
Oreochromis niloticus, 5.93 ± 0.51 g)を用いて、市販の配合飼料を用いた長期の給餌試験後の成長、生残、魚体の一般組成と脂肪酸組成に与える飼育水塩分濃度の影響を検討した。飼育試験は2回実施し、0 ppt(淡水)を対照区として9、18、27 ppt(実験I)および5、10、15 ppt(実験II)の4実験区をそれぞれ設け評価した。両実験共に、体重の平均増重率は0 ppt区で最も高く、他区はそれより低い値を示した。生存率に関しては、実験Iの最も高い塩分区(27 ppt)で継続的な大量の斃死が観察されたが、他区については実験Iでは83.0-93.3%、実験IIでは97.0-100%の高い生存率が得られた。また、飼育水塩分が魚体のタンパク質および脂質含量に逆相関の影響を与えることが強く示唆され、0 ppt区でそれらの含量が最も高くなった。さらに0 ppt区で飼育された魚は重要な栄養成分である高度不飽和脂肪酸の魚体中の含量が高塩分区と同じかやや高くなる傾向を示した。今回の一連の飼育試験の結果は、幼期のナイルティラピアにおいて良好な飼育成績および高い栄養的品質を得るためには、0から5 pptの淡水からごく低い塩分の範囲の飼育水が好適であることを示している。
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