エネルギー・環境問題に関するこれまでの情報提供では,人々が情報を熟慮的かつ論理的に処理することを前提としてきた。しかし,このような従来の方法には限界があると指摘されており,自動的かつ直感的な情報処理にも着目することが必要となる。本稿では,そのような情報処理を誘発し得る情報として,物語型・鮮明型・エピソード型と呼ばれる形式に焦点を当て,それぞれに関連するコミュニケーション研究を横断的にレビューした上で,その活用可能性を検討することを目的とする。各々の情報形式に関する知見は異なる領域で蓄積されてきたが,共通点も多いため分野を横断して俯瞰することが重要になる。ここでは上述の形式の情報がもつ機能を,処理の動機づけ,疑似体験の誘発,話題の「自分事」化,感情の喚起,の4つに整理している。これらは独立して作用するのではなく,互いに関連しあいながら,従来用いられてきたような情報とは異なる影響を受け手に与えると考えられる。既往研究の整理を踏まえて,非従来型情報の4つの機能をエネルギーコミュニケーションにおいてどのように活用することができるかを議論している。
近年,太陽光発電(PV)を中心として再エネの導入が進んでいるが,電力系統の調整力不足が指摘されている。それに対して需要家が需要を変化させるデマンドレスポンス(DR)が需給調整に貢献することが期待されている。本研究の目的は昼間にPVの余剰電力が発生する時に電力需要を創出するDRに着目し,分散型電源がDR に対応したときの省エネ性やPVの出力抑制削減量などを定量的に評価する。具体的にはPV出力が余剰となるタイミングでコージェネを停止し,空調熱源機を燃料式から電気式に切り替えることで空調機能を維持した上で電力需要を増やす運用を複数の業務用建物で評価した。建物単体での評価結果と地域に存在する建物延床面積から地域全体の出力抑制削減量を評価する。評価する地域はPVの導入が特に進んでいる九州電力と東北電力管内を対象とした。評価の結果,いずれの地域においても最大で出力抑制電力量の40%以上の電力をDRで活用できる可能性が示された。