本研究の目的は,押し込み動作の種類と作業条件が全身の姿勢や動作時の身体負荷,作業のしやすさに与える影響を評価し,押し込み動作の条件と全身の姿勢生成の関係および動作時の身体負担を明らかにすることである.被験者10名を対象に,右手により把持対象を50Nの力で押し込む課題を行ってもらった.実験条件は,押し込み動作の種類2条件(瞬発的,持続的),押し込み方向2条件(前方,下方),作業点の高さ3水準(肩高,腰高,膝高)を組み合わせ,計12条件とした.その結果,押し込み動作の種類が全身の姿勢に与える影響は肩高や腰高で小さく,膝高で大きくなった.前方・膝高の条件では,持続条件で蹲踞の姿勢を取る割合が瞬発条件よりも大きく,膝関節の屈曲をさらに動員させて身体を上下に調整させるとわかった.また,押し込み方向が姿勢に与える影響は大きくなかったものの,前方押し込み動作では腰部椎間板圧縮力が大きく,下方の作業動作は肩関節トルクや肘関節トルクが大きくなる等の身体負荷の差は明確に示された.作業点の高さによる姿勢の違いは顕著にみられており,肩高では上肢を前方に挙上させて上肢動作によって力発揮を行うのに対し,膝高では膝関節の屈曲や体幹の前傾を利用して中腰や蹲踞の姿勢より押し込み動作を行うとわかった.また,押し込み力自体は作業点が下がるにつれて増加しており,膝高の値が肩高よりも20Nほど大きくなることが確認された.さらに,全ての作業条件で瞬発動作の値が持続動作よりも約20Nも大きく,これに伴い瞬発動作の上肢負荷や腰部椎間板圧縮力は持続動作よりも増加することから,作業動作の種類が身体負荷に影響を与える因子であると示された.
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