本研究では人の手による触覚検査作業を対象として,検査精度に影響を与える要因に着目し,上肢負担と検査精度の関係を明らかにすることを目的とした.被験者は健常な成人10名とし,高さが異なる凸を有する検査対象面の触覚検査作業を実施した.評価項目は不良の見落とし率である第二種過誤率,および検査対象面に対して垂直にかけた力である操作力の2項目とした.実験の結果,手関節の負担が大きい検査条件においては操作力が小さくなり,それに伴い検査精度が低下することが明らかになった.さらに先行研究の結果を用いて,上肢負担と検査精度の両方を考慮した検査条件の導出を行った.結果として,検査者の右上肢の正面かつ胸部の高さで検査を行うことで上肢負担の軽減と検査精度の向上の両立が可能であることが明らかとなった.
ロールボックスパレット(RBP)は4輪キャスターを有する人力荷役機器であるが,作業現場ではRBPの移動中に手部を負傷するなどの災害が発生している.本研究では,手部を保護しながらRBPの操作性を担保する外付けハンドルの開発に向け,RBPを円弧状に移動させた際の操作性について,RBP初動時の加速度および主観評定を用いて評価した.実験は6名の作業未経験者および6名の作業経験者を対象とし,縦型ハンドルの間隔を40cm,50cm,60cm,80cmの4条件,積載質量を0kg,50kgの2条件で変化させた際の,RBPの初動加速度を三次元的に評価した.本実験の結果から,作業経験者と未経験者では異なる加速度パターンを示すことが示唆され,経験者は未経験者よりも大きな前後方向の加速度を発揮することで,積載質量の影響を受けにくい操作をすることが明らかとなった.また経験者は,縦ハンドルの幅が80cmと広い場合に,左右方向への加速度が大きくなり,操作性も高いと評価することがわかった.
多くの人が日常的にスマートフォン等の高性能なタッチパネルを搭載した製品を使用しており,ユーザのタッチパネルの操作感に対する要求は高度化している.コスト等の関係から現状では高性能なタッチパネルを搭載していない製品でも,将来的にはユーザの満足する操作感を実現する必要性がある.本研究では,タッチパネルの操作感を改善するため,ユーザの高度化する要求を把握し,それを製品設計に反映させる方法を提案した.提案方法により,現行製品の性能にとらわれずに,ユーザが満足する操作感を実現するための条件を明らかにできる.実際に,プリンターのタッチパネルを改善した結果,スマートフォンと同等の操作感を実現できた.
本論文は,人工現実感技術を用いて選別作業適性を容易に推定する手法を提案するものである.本手法では,まず,実コンベアおよび人工現実感技術(VR)を用いて,選別作業に関する実験を行う.次に,クラスター分析を用いて実コンベアで得られたデータ(選別作業時間)を基に,被験者を複数の選別作業適性グループに分ける.その後,交差検証法を用いて,人工現実感装置で得られたデータ(選別作業時間)から実コンベアでの選別作業適性を推定するためのモデルを作り,モデルに基づき,作業員の選別作業適性を推定する.さらに,本論文では,選別作業適性と人員配置との関係も考察した.
本研究では視覚情報処理を伴う作業を対象に,作業者による主作業を妨げずに有効視野範囲を評価する手法を提案することを目的とし,視認行動における眼球・頭部協調運動に着目した実験を実施した.実験では,作業者の有効視野範囲をコントロールした条件下において眼球運動,頭部運動の計測を行った.結果として,視対象に対する眼球・頭部協調運動は有効視野範囲の影響を受け,有効視野内の視対象に対する視認行動では眼球運動が先行し,有効視野外の視対象に対する視認行動では頭部運動が先行することを定量的に明らかにした.さらに視対象までの視角距離と眼球運動と頭部運動の生起時間差の関係から有効視野の狭窄を検出できる可能性を示唆した.
加齢による歩行機能の低下を補う歩行車に制御機能を組み入れ,歩行支援機能を高めた製品が開発されている.本研究では,センサとモータによるロボット技術を搭載した歩行車の歩行アシスト効果を,歩行速度と歩行車に作用する加速度,ユーザの筋負担の観点から検証した.70~81歳の高齢者を対象に,ロボット技術搭載歩行車と従来製品を用いて,2つのハンドル条件で,上り坂,平坦路,下り坂を歩く実験を行った.人力に加えてロボット技術による推進力や制動力が付加されることで,上り坂だけでなく下り坂でも歩行速度が速くなるが,下肢や体幹の筋負担を軽減させていた.坂道などでの歩行をサポートすると同時に,身体負担を軽減させる効果のあることがわかった.
デザイン活動の作業プロセスに関する研究が多く行われている.デザイン活動には顧客の問題とニーズが所与である受託的タスクのデザイン活動と,所与でない自作的タスクのデザイン活動がある.先行研究は主に前者を対象としており,後者の作業プロセスは対象でない.そこで本研究では自作的タスクの作業プロセスの特徴を明らかにするため,コンテンツデザイナーを対象とした作業プロセスの実証的調査を行った.具体的には作業中の定期的な質問表示と回顧法を用い両タスクの作業プロセス中の5つの行動(問題分析,解決策構想,解決策実装,解決策評価,その他)の構成を調査,比較した.調査の結果,自作的タスクでは行動は順序立って現れること,問題分析が殆ど行われないこと,プロット(成果物のアウトライン)作成後の解決策構想の割合が受託的タスクの場合より大きいことが明らかになった.以上より,自作的タスクのデザイン活動の作業プロセスの特徴として,構造化可能性,自己嗜好中心性,アウトラインの未決定性,継承性が示唆された.得られた知見はデザイナーの作業を支援する実務的施策やツールの策定に有用であると考える.