情報メディア研究
Online ISSN : 1349-3302
Print ISSN : 1348-5857
ISSN-L : 1348-5857
9 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • -次元の相違の議論との関連に着目して-
    後藤 嘉宏
    2010 年 9 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2010/09/16
    公開日: 2010/09/16
    ジャーナル フリー
    本稿では三木清の読書論を精読志向と濫読志向の矛盾という観点から読み解こうとした.三木には精読の対象を知るために濫読が必要であるという論と,多読する対象をみる目を養うために精読が必要という逆の発言がある.また三木は古典志向であり,その限りでは当然精読の方に親和的になる.その反面,三木の古典志向は『パスカルにおける人間の研究』での次元の相違の議論や,その延長上にあるスタンダールの結晶作用に由来し,本来他のものが古典に選ばれる可能性があった点を強調しうる.その意味で,古典研究の際,精神のオートマティズムを避けるには古典の周囲に埋もれた作品を読む必要もあり,多読志向は古典を読む際にも必要とされるという議論も成り立つ.さらに三木は古典のみを読む研究者と現代社会を批評する評論家を対比させる際には,後者を現代においてものを作る人として評価する.精読対濫読,古典対現代物,ゆっくり読む対速読という対立項は三木の相互のテキストにおいて矛盾しがちであるが,これは戸坂潤の常識の二側面にも対応する.さらに『パスカルにおける人間の研究』の次元の相違の議論を,時間軸,空間軸それぞれの異質性へと展開するならば,いいかえると知識人が古典を精読することも現代物を濫読することも,知識人としての限界を越える営みと捉えるならば,これらの矛盾は一貫したものとして捉えうる点を,本稿は明らかにし,共通感覚の問題と読書論との繋がりを示した.
  • - <文庫> の時代から <文学館> の時代へ-
    岡野 裕行
    2010 年 9 巻 1 号 p. 15-35
    発行日: 2010/11/01
    公開日: 2010/11/01
    ジャーナル フリー
    文学館に関する図書は,ガイドブック (日本全国の文学館の概略紹介) の形態で,これまでに 18 点出版されている.それらの収録内容を,独立系文学館,依存系文学館,転用系文学館,非文学館の 4 形態に分類して個々の特徴を見いだし,その結果を比較検討すると,その歴史的変遷は大まかに 4 期間 (1980 年代以前,1980 年代~1990 年代初頭,1990 年代中頃,1990 年代末~現在) に分けられる.それらは <文庫> という一般名詞で呼ばれていた「<文庫> の時代」, <文庫> と併記する形で <記念館> という用語が用いられた「<記念館> の時代」, <文庫> という用語の使用例が減少し, <文学館> という用語が普及し始めた「<文学館> の時代の到来と <文庫> の時代の終焉」, <文学館> という用語が一般名詞として確立された「<文学館> の時代」というような,4 段階の発展を見せている.すなわち, <文庫> の代わりに <文学館> という用語が一般名詞として広く使用されるようになったのは,わずかにここ十数年間の出来事と見なすことができる.
  • ―長期的/短期的利益志向 : 普遍的/同時代的価値志向の比較を通じて―
    片山 ふみ
    2010 年 9 巻 1 号 p. 37-58
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2010/11/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,児童書出版社がどのような利益や価値を志向しているのかを,事業内容の差(児童書専門の出版社か総合出版社の児童書部門か)に着目して明らかにすることを試みた.具体的には,次の手順によって分析した.
    (1) 長期的利益志向 vs. 短期的利益志向,普遍的価値志向 vs. 同時代的価値志向の2つの軸によって作られる座標軸の象限を提示する.
    (2) どのような出版社が,(1)のどの象限を志向するかを示す仮説を設定する.
    (3) 児童書出版社に対する聞き取り調査の回答と仮説とを比較検証することによって,現状を把握する.
    以上の作業から,次の結論を導いた.児童書出版社の多くは,長期的利益かつ普遍的価値の象限および短期的利益かつ同時代的価値の象限を志向していた.その際,児童書専門の出版社は販売ルートによって,総合出版社は読者の年齢層によって志向する象限を区別するという違いがあった.
  • ―性格と感情状態の関連性をもとに―
    三和 義秀
    2010 年 9 巻 1 号 p. 59-76
    発行日: 2010/12/21
    公開日: 2010/12/21
    ジャーナル フリー
    本研究では,130 名の被験者の性格を主要 5 因子性格検査とMMPI(ミネソタ多面性格検査)を用いて測定した.そして,性格測定とは独立して同じ被験者に6 点の素材(短編小説)を読んでもらい,それぞれに読む前と読んだあとの感情状態について多面的感情状態尺度で測定し,性格と感情状態の変化との関連性について分析した.その結果,単相関分析と重回帰分析の両方において,相関係数と決定係数の値は全体的に低かったが,主要 5 因子性格検査では 5 点の素材,MMPI では 6 点のすべての素材において感情状態と有意な相関をもつ性格尺度が存在した.このことから,性格の個人差を基に検索者ごとに異なる読後の一部の感情状態の強さを予測できる図書検索システムを開発できる可能性を示唆した.
feedback
Top