冬期東シナ海という限られた時期と海域における漁船の操業中の船体応答運動のうち,roll.およびpitch.についてスペクトル解析により周波数応答特性について考察し次の知見を得た。(1)roll.応答運動の周期は,波浪との相対針路および出合い周期に関係なく船の固有周期に等しい。(2)操業中における漁船の波浪を入力としたroll.応答の線形性はhead seaでは悪いが他の針路では良好である。(3)roll.応答のamp. gain (deg/m)は相対針路により異なり,最も高いのはquarteringおよび,following seaで次いでbeam seaであった。スペクトラムの卓越した周期T_<02>(ゼロクロス周期)におけるamp. gainの平均値は前報での応答の短期予測に用いた回帰方程式の回帰係数とほぼ一致し,周波数領域からの考察によっても応答の平均値は定量的に予測が可能となった事が確認できた。(4)roll.応答の位相特性は,波高計測処理時の積分回路およびフィルターの位相誤差が若干あるが,傾向としては,横および前方からの波浪に対しては遅れ,後方からの波浪に対しては,わずか進む事が認められた。(5)pitch.の応答周期は波浪の出合い周期によく一致しており,その周期におけるコヒーレンシイも高く線形性が認められた。(6)pitch.応答周期にはroll.周期が現われその明りょうな針路は,bow seaである。(7)しかし,amp. gainの絶対値は小さくbeam seaでは1.7(deg/m)でほとんど有意性は無視してよいと考える。最も大きい針路はfollowing seaの4.2(deg/m)で次いでhead sea (2.9)であった。(8)位相特性については,スペクトラムの卓越周期帯域では誤差も考慮する必要があるが全ての針路で進んだ傾向が認められた。(9)amp. gainの絶対値は小さいがroll.応答と同様,平均値としては回帰係数と一致し,定量的に予測は可能と考えられる。(10)今後の問題点として,操業中の耐航性という事から漁具との関係,とりわけワープ張力の影響について検討する必要がある。(11)最後にコレプログラムについては論じなかったが,スペクトル解析は応答特性について多くの構造的情報が得られ,有効な手法である事が確認できた。
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