ヘリコプターによる患者搬送は,今後救急搬送で重要な位置を占めると考えられる。しかし,ヘリコプターによる飛行が人の凝固・線溶系に及ぼす影響についての報告はまだない。本研究は,ヘリコプターによる飛行が人の血液凝固・線溶系に及ぼす影響を検索する目的であらかじめ研究方法について説明し,同意を得た健康成人10名に,川崎BK-117ヘリコプターで高度600mで30分間の飛行を行い,(1)飛行前,(2)水平飛行開始時,(3)水平飛行終了時,(4)飛行終了時の4回採血し,得られた血漿について,(1) PT, (2) aPTT, (3) von Willebrand因子量,(4) antithrombin-III活性(AT-III), (5) fibrinogen量(Fbg), (6) plasminogen活性(Plg), (7) α
2-Plas-min inhibitor活性(α
2-PI), (8) FDP量,(9)蛋白量,(10)膠質浸透圧(COP)を測定した。得られた成績は,(1) PTは全経過を通じてほとんど変化を示さなかった。(2) aPTTは飛行開始とともに短縮し,着陸後に飛行前値に回復する傾向を示した。(3) von Willebrand因子量は,飛行開始とともに増加し,飛行終了後も飛行前値に比して高値を示した。(4) AT-IIIは飛行中に低下し,飛行終了後にもとにもどる傾向を示した。(5) Fbgは飛行中に減少し,着陸後には飛行前値に回復した。(6) Plgは飛行開始後軽度低下し,飛行終了後には回復する傾向を示した。(7) α
2-PIは飛行開始後より軽度低下し,着陸後には飛行前値に回復した。(8) FDPは飛行開始直後より軽度増加し,飛行終了後にもさらに軽度増加した。(9)蛋白量は飛行開始直後より軽度減少し,飛行終了後に前値に復した。(10) COPは飛行開始直後より減少し,飛行中減少傾向を示し,飛行終了後にもとにもどる傾向を示した。以上の結果はヘリコプターによる飛行がストレスとして働き,凝固を亢進させ,それに対して線溶が働いたことを示唆するものと考えられた。
抄録全体を表示