老年者(65歳以上)の入浴中の突然死の発生機序を明らかにするため,秋田県内および秋田市と同等の都市規模を有する11の消防本部が,入浴中に発生したイベントにより医療機関に救急搬送した患者の実態調査を行った。また,これらのうち4都市については入浴環境および入浴習慣等についても調査した。さらに秋田市在住の健康高齢者(60歳以上)を対象に,入浴中の循環動態の変動(血圧,心拍数)を検査し室温や湯温との関連性を検討した。入浴中に救急要請のあった救急患者477人中,260人が心肺停止であり,そのうち老年者は210人であった。老年者の入浴中の心肺停止は冬季,自宅での発生が多く,大半は家族との同居形態であった。老年者の地域別発生率(管内の老年者人口10万人当たりの発生数)では青森が最多の41.6,最低は宮崎の11.0であった。対象とした都市のうち旭川市以外は,冬季の脱衣所の温度が居間や浴室よりも低かった。また,脱衣場での血圧は居間や浴室内よりも高い傾向にあった。入浴習慣と血圧変動では42℃以上の熱い湯に浸かる場合や湯に浸かる前に体を洗う場合の方が浴槽内での血圧低下の度合いが大きかった。以上から,冬季に多く発生する老年者の入浴中の心肺停止を防止するには,脱衣所の保温に注意し,適正な湯温での入浴など老年者の急激な血圧変動を来さないような配慮が必要である。また,複数での入浴や,家族による頻繁な声かけは早期発見につながる。したがって,老年者の入浴に際しては急激な血圧の変動を来さないような入浴環境の整備および入浴方法の啓発が重要である。
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