われわれは劇症肝炎(FH)に対しartificial liver support (ALS)を施行しているが,ALSを含む集中治療のみでは救命できない症例が存在する。当科では日本急性肝不全研究会肝移植適応基準に加え,亜急性型もしくは肝萎縮の認められる症例についても肝移植の適応とみなしている。今回FH症例における生体肝移植に関する問題点を明らかにし,対策を考える目的で,肝移植を実施した症例と移植適応ではあったが実施しなかった症例について検討した。最近5年間に経験した22例のFH症例のうち移植適応と判断されたのは19例で,このうち6例(31.6%)に生体肝移植を実施した。2例は術後重症感染症により死亡したが4例を救命した。当科の移植適応基準におけるpositive predictive value (PPV)は0.79, negative predictive value (NPV)は1.00, sensitivityは1.00, predictive accuracy (PA)は0.81といずれも肝移植適応ガイドラインより良好で,specificityは0.40で同値であった。King's College Hospitalの移植適応基準は,sensitivityが0.09と低い値を示し,わが国のFHの病態に即していないと考えられた。また,与芝の式を用いるとPPV, specificityが良好だったが,NPV, sensitivityは0.56で,すでに劇症化した症例には当てはまらないと考えられた。一方,適応基準を満たしたが移植を実施しなかった14例のうち3例は集中治療によって救命し得たが,11例が死亡した。移植を実施できなかった理由として,重症感染症4例,コントロール不能な出血4例などのrecipient側の因子によるものだけでなく,ドナー不在,家族の反対などの社会的,経済的な因子によるものも5例認めた。以上より,FHに対する生体肝移植の問題点として,移植適応基準,ドナーの確保,移植を行えない症例に対する治療の3点が明らかとなり,移植適応基準の再検討,生体肝移植におけるガイドラインや法律の整備を含めたシステムの構築が必要であると考えられた。
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