【目的】本邦の救急医療体制は循環器救急疾患を有する患者の診療に対して,質の高い医療を保障する体制として適切か否かは明らかにされていない。質の高い救急医療を提供するには,対象病態の医療需要を調査し,対応する体制の構築を検討する必要がある。本研究の目的は救急搬送された急病患者において,循環器疾患に関連する症候を主訴に来院する患者の頻度と,循環器系疾患患者の頻度を明らかにすることである。【方法】外因による救急患者を除外した急病の救急患者21,213人(対象:1989年から12年間,全救急搬送患者の63.9%,高齢者28.3%)のうち主訴に胸・背部痛,呼吸困難,動悸および一過性意識障害が含まれる患者の頻度と,循環器系疾患の診断を受けた患者の頻度を,救急診療部門の患者データベースを用いて検討した。【結果】循環器疾患に関連する4症候のいずれかを認めた患者は5,661人(26.7%)であった。症候ごとの患者数は胸・背部痛1,262人(5.9%),呼吸困難1,252人(5.9%),動悸450人(2.1%),一過性意識障害2,716人(12.8%)であった。また,それぞれの症候のうち,循環器系救急疾患の診断を受けた患者数は,胸・背部痛において607人(48.1%),呼吸困難において177人(14.1%),動悸において142人(31.6%)であった。一過性意識障害のうち,失神は2,140人(78.8%)を占め,そのうち心原性失神は120人(4.4%)であった。【結語】循環器疾患に関連する症候を主訴に来院した救急患者は急病の救急患者の25%以上であった。しかし,これらの症候を主訴に救急搬送された患者が器質的心疾患と診断された割合は,50%未満であった。
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