【背景】頭部外傷患者では受傷早期に一過性の血液凝固線溶亢進がみられる。凝固線溶系検査のうち,血漿D-dimer濃度(DD)は脳損傷の重症度を反映し,予後の指標として有用であることが報告されている。しかし,脳実質損傷の形態とDDの関連は明らかにされていない。【方法】単独頭部外傷患者に対するルーチン検査として,受傷後1時間以内の採血により,DD,その他の凝固線溶パラメーターを測定した。このうち,受傷後2週間以内にMRIを施行し得た80名の患者を対象として,MRI所見に基づいた脳実質損傷の群分けを行い,DD,その他の凝固線溶パラメーターについて,群間の差異,および1か月転帰との相関を検討した。【結果】80名の患者は,MRI所見により,びまん性軸索損傷(DAI群,24名),脳挫傷(CON群,47名),明らかな脳実質損傷なし(NIL群,9名)のいずれかに分類された。対象患者に死亡者はなく,1か月転帰はDAI群で不良であった。凝固線溶パラメーターのうち,DDのみ群間で有意差を認め,CON群で高値を呈した。また,CON群において転帰不良例のDDは有意に高値であった。一方,DAI群では,DDは転帰に関わらず概ね低値を示した。【結論と考察】DDは脳実質損傷の形態を反映した。DAI群ではDDは低値であり,CON群ほど凝固線溶が亢進しないことが示唆された。加えて,DAI群ではDDと転帰に関連を認めなかった。
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