日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
16 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 高橋 毅, 大礒 洋, 原田 正公, 橋本 聡, 吉岡 明子, 小堀 祥三, 宮崎 久義
    2005 年 16 巻 3 号 p. 103-108
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    年々増加し重症度も高まっている救急患者に対し,効率的でしかも質の保証された医療を提供するにはクリティカルパスの使用が大変有用である。そこで,当院に緊急入院となった救急患者に実際に使用されたパスの調査を行い,救急医療に必要とされているクリティカルパス群の検討を行った。現在当院は296種のクリティカルパスを有しており,病院全体での使用率は40-50%であるが,緊急入院となった救急患者へのクリティカルパス使用率は32.4%にとどまった。使用率が高かった診療科は,検査用クリティカルパスや手術用クリティカルパスを有する循環器科(49.4%),整形外科(80.5%),心臓血管外科(100%)で,逆に低かった診療科は内科(21.8%),精神科(15.9%)であった。もっとも多く使用されたパスは,経過観察入院用パスであり救急医療を行うにあたって大変有用であることがわかった。重症患者が入院する救命救急センター内でのクリティカルパスの使用率はさらに低く22.4%であり,その中でも多く使用されたのは出血性脳血管障害用クリティカルパス,心臓カテーテル検査用クリティカルパスであった。クリティカルパスの導入により,根拠に基づく医療の実施,業務の効率化,チーム医療の向上,インフォームドコンセントの充実,在院日数の短縮,コスト削減の効果が得られ,入院における良質で効率的な医療を提供することができる。今後,診断群別包括払い制度が救急病院へ導入される前に救急疾患群に対するクリティカルパスを整備しておく必要がある。
  • 喜屋武 玲子, 升田 好樹, 今泉 均, 鬼原 史, 名和 由布子, 江副 英理, 浅井 康文
    2005 年 16 巻 3 号 p. 109-114
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    消化管穿孔による後腹膜膿瘍が,大腿輪を経て左側腹部から下腿に波及したために生じた壊死性筋膜炎のまれな1例を経験した。症例は65歳の女性。左側腹部から大腿部にかけての疼痛と皮膚壊死を認めたため壊死性筋膜炎を疑い,当院高度救命救急センターに搬入された。搬入時,呼吸,循環動態は安定していたが,左躯幹から大腿部,外陰部の浮腫,紫斑,硬結,皮膚壊死を認めた。搬入後直ちに,躯幹から下肢にかけての皮膚の壊死部分を筋膜上までdebridementし人工真皮にて被覆した。術中,左鼠径靭帯下部に便の付着と後腹膜方向の交通部があった。開腹したところ結腸脾湾曲部の後腹膜腔への穿孔があり,後腹膜腔には膿瘍が充満した状態であったため,結腸左半切除を行った。穿孔部結腸の病理組織検査では憩室や悪性所見はなかった。術中,術後にわたりショック状態や臓器不全に陥ることなく順調に経過し,第5, 10病日に人工真皮による被覆を行い,さらに第20病日と32病日には,autograftによる植皮術を施行し欠損部を被覆した。下肢壊死性筋膜炎の原因として後腹膜腔への腸管穿孔は非常にまれであるが,原因の一つとして常に可能性を念頭に置く必要がある。本症例では早期かつ広範に壊死した皮膚や皮下組織,筋膜を徹底的にdebridementし,その原因となった腸管に対して処置し得たことが,その後の敗血症の発症や,臓器障害への進展を防止できたと考えられた。
  • 杉野 繁一, 七戸 康夫, 黒田 浩光, 土屋 滋雄, 奥田 耕司, 浜田 弘巳, 並木 昭義
    2005 年 16 巻 3 号 p. 115-120
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は73歳の男性。大量下血による出血性ショックのため来院した。腹部造影CT,血管造影にて内腸骨動脈瘤の破裂とその下部消化管穿破を疑い,止血と再破裂を防ぐために経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を2度,施行した。5日後,腹部造影CTにて腹腔内遊離ガスが認められたため緊急開腹術を施行した。術中所見で直腸前壁に穿孔を認めたため,同部位を切除し,直腸断端を閉鎖して人工肛門を造設した(Hartmann手術)。この穿孔部位が血腫の消化管への穿破部位と考えられた。さらに4日後,腹腔内ドレーンから便臭を伴う多量の排液が観察されたため,再開腹下に直腸を再切断し,腹腔内洗浄ドレナージ術を施行した。その後,数度の腹腔内膿瘍を繰り返したが,第48病日に外泊可能となった。しかし外泊中に右下腹部痛が出現し,第50病日には救急車で搬送され,センター到着時は心肺停止であった。内腸骨動脈瘤再破裂による出血性ショックと思われた。心肺蘇生法を行ったが心拍再開せず,永眠された。近年,内腸骨動脈瘤破裂にTAEが有効な治療として用いられているが,消化管穿破例ではTAEのみでは生命予後を改善しないと考えられる。
  • 八木 正晴, 黒木 啓之, 三原 結子, 森脇 寛, 田中 啓司, 新藤 正輝, 有賀 徹
    2005 年 16 巻 3 号 p. 121-125
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    症例:57歳の女性。発熱,下痢,嘔吐を主訴に近医を受診し,補液などの治療を受けたが症状が改善しないため,紹介にて当院救急外来を受診した。来院時意識障害,発熱,項部硬直を認め,両下腿に紫斑を認めた。原因不明の感染症として入院し,第3病日両手指・足趾・足底に壊死が出現した。入院時の血液検体中からA群β溶連菌が検出されたことにより,toxic shock like syndromeの診断が強く疑われ,救急医学科へ転科となった。壊死部を切開しても,筋膜壊死や感染徴候を認めないことから,敗血症により,播種性血管内凝固(DIC)を生じ,symmetrical peripheral gangrene (SPG)となっていることが考えられた。敗血症に対し,ABPC 8g/dayとγ-グログリン投与,抗DIC療法(低分子ヘパリン,AT製剤,FFP)を行った。第6病日にはDICは改善し,第94病日に両手指(左第1指を除く)と両下腿の切断術を施行し,義足にてリハビリテーション後退院となった。考察:SPGとはDICによって生じた微小塞栓が微小循環を閉塞させるなどして末梢組織の壊死を起こすもので,敗血症によるものが多い。SPGとなる例は非常にまれであり,その発生には,基礎疾患(Raynaud's syndrome,動脈硬化,糖尿病など)の存在の他にスーパー抗原の関与が示唆されている。本症例では,ステロイド投与中であったこと以外には基礎疾患はなく,感染源も不明であった。
  • 藤田 基, 山下 進, 河村 宜克, 鶴田 良介, 笠岡 俊志, 岡林 清司, 前川 剛志
    2005 年 16 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,典型的な症状を伴わず,受傷後早期に著明な血小板減少を来したマムシ咬傷の1例を経験したので報告する。症例は72歳の女性。右下腿をマムシにかまれ受傷した。近医を受診したが,吐血,眼瞼結膜からの出血,全身の皮下出血を認めたため,受傷約2時間後に当センターへ転院となった。来院時,右下腿の腫脹は軽度で,咬傷部を中心に出血斑を多数認めた。全身の皮下出血,眼瞼結膜からの出血,吐血および胃管からの血性排液を認めた。血小板0.3×104/mm3と著明な血小板減少を認めたが,凝固系の検査所見は正常であった。直ちにマムシ抗毒素6,000単位を点滴静注し,濃厚血小板20単位を輸血した。その後血小板数の上昇を認め,抗毒素投与4時間後には16.7×104/mm3と著明な改善を認めた。血小板の上昇とともに,眼瞼結膜・胃管からの出血も改善した。その後経過良好であり,第14病日に転院となった。マムシ咬傷において局所の腫脹が顕著でなく,著明な血小板減少を来す症例は非常にまれであり,「血小板減少型」と定義される。このような「血小板減少型」のマムシ咬傷は,マムシ毒素が血管内に注入された結果生じると考えられ,早期にマムシ抗毒素の投与を考慮する必要がある。
  • 宮内 崇, 本田 真広, 金子 唯, 藤田 基, 益田 道義, 岡林 清司, 前川 剛志
    2005 年 16 巻 3 号 p. 131-135
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    患者は55歳の男性。数日前から心窩部痛を自覚しており,その後大量の下血を来したため近医を受診した。入院加療されていたが大量下血を繰り返し,出血性ショックにより一時心肺停止状態となった。原因不明であり,出血のコントロールも不良であるため精査加療目的で当院高度救命救急センターへ紹介となった。当院へ入院後に腹部CT,上部・下部消化管内視鏡検査,血管造影,出血シンチグラフィーを施行し,小腸からの出血が予測されたが,原因疾患,出血源の特定はできなかった。入院後は大量の下血は認められなかったが,再度大量出血を来す可能性が高いと判断し,同日緊急開腹術を施行した。術中所見により回腸に結節状病変を認めた。同部は易出血性であり,責任病変と判断し,病変部を含む回腸を切除した。術後の病理組織診断により結節内にアニサキス虫体,その周囲に好酸球浸潤を認めたため,小腸アニサキス症と診断した。術後経過は良好であった。緊急手術による迅速な原因検索と治療が救命につながったと考えられた。アニサキスによる寄生虫疾患の90%以上は胃への寄生によるものであり,小腸に寄生する小腸アニサキス症はまれな疾患である。しかし,時に本症例のような大量出血を来し,致死的な状態に発展する可能性があるため,急性腹症を来す疾患のひとつとして常に留意すべき疾患であると再認識した。
  • 海野 直樹, 三岡 博, 犬塚 和徳, 相良 大輔, 今野 弘之, 青木 克憲
    2005 年 16 巻 3 号 p. 136-141
    発行日: 2005/03/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性。意識消失にて近医脳神経外科に緊急入院した。脳梗塞の既往歴,心房細動を伴っていたことから脳梗塞の再発を疑われ抗凝固療法が施行された。翌日になり腹部膨満が出現,腹部CTにて破裂性腹部大動脈瘤(rAAA)と診断された。抗凝固療法による凝固時間の延長,血液型がAB型であり十分な輸血の確保が難しいことから,開腹人工血管置換術は困難と判断された。Stent-graft (SG)内挿術を目的として当科に紹介され救急車にて搬送された。来院時収縮期血圧60mmHgとショック状態であり,直ちに手術室に移動し全身麻酔で手術を開始した。2チームに分かれ,1チームが大腿動脈を露出する間に他の術者がSGを自作した。術中血管造影から破裂はFitzgerald 4型と判明した。aorto-rt. uniiliac SG+交叉バイパス手術を行い,左総腸骨動脈をコイル塞栓した。手術時間2時間1分,出血量60mlにて手術終了。4POD抜管,6POD経口摂取再開,12POD退院となった。SG内挿術は動脈瘤の腎動脈分枝部からの距離や腸骨動脈の性状などの制約を受けること,またエンドリークなどの合併症や,長期のデータがないことなど,人工血管置換術に比し欠点も多い。しかし,症例によっては本症例のようにSGでなければ救命できないものもあり,今後rAAA治療の選択肢の一つとして考慮すべき術式と考えられた。
feedback
Top