日本救急医学会雑誌
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16 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 市川 政雄, 中原 慎二, 若井 晋
    2005 年 16 巻 4 号 p. 149-156
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    全国の救命救急センターと大学病院救急部における外傷登録の現状とそのデータベース化における問題点を検討するため,アンケート調査を実施した。上記全224施設に調査票を郵送し,84施設から回答を得た(回収率38%)。調査票の内容はおもに各施設における診療記録のデータベース化の現状とその問題点,日本外傷学会が試案した外傷登録データベース「日本外傷データバンク(JTDB)」に対する期待,参加予定についてである。回答施設のうち47施設(56%)が診療記録をデータベース化しており,そのうち入力スタッフを有していたのは9施設であった。データベース化におけるおもな問題点として,入力に伴う負担と入力情報の質の問題が挙げられた。その対策として入力スタッフの確保・育成,人件費の予算化,入力作業と入力項目の簡素化などの必要性が指摘された。JTDBへの参加は61施設が予定しており,JTDBに対しては医療の質の向上,病院間・地域間格差の是正,スタッフの外傷に対する意識の向上,救急隊との情報の共有,事故防止の観点から期待が寄せられていた。JTDBは医療の質の監査だけでなく,入力負担の軽減や入力情報の質の向上にも資することから,その普及が望まれる。
  • 金子 直之, 加地 辰美, 岡田 芳明
    2005 年 16 巻 4 号 p. 157-162
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    中心静脈穿刺に伴う内胸動脈損傷はきわめてまれであるが,われわれは緊張性血胸・出血性ショックに陥り動脈塞栓術で救命した1例を経験したので報告する。症例は43歳の女性。食思不振と腹水を主訴に当院に入院。高カロリー輸液目的で中心静脈穿刺が行われた。当初,右頸静脈アプローチで行われたが失敗し,その後患者は胸痛を訴えていた。1時間後,今度は右鎖骨下静脈アプローチで行われ,血管確保はできたがカテーテルは十分に挿入できなかった。この時点で患者は既に意識低下を来していた。その後,透視下で入れ替えの時点で医師は右肺が虚脱していることに気付き,CTを撮影したところ大量の血胸を認めたため当科に依頼となった。患者は既に深昏睡の状態であった。急速補液による蘇生,気管挿管,胸腔ドレナージを速やかに行い,ドレナージのクランプ・デクランプと輸液速度の調整により収縮期血圧を80-90mmHgに保った。その後の血管造影で右内胸動脈から造影剤漏出を認め,コイルを用いて塞栓術を施行した。その後患者は全身状態が改善し,意識も清明になった。中心静脈穿刺の合併症には,致命的動脈損傷があることを常に念頭に置くべきである。われわれが渉猟した限りでは,本邦では中心静脈穿刺に合併した内胸動脈損傷の報告はない。
  • 黒田 浩光, 土屋 滋雄, 杉野 繁一, 七戸 康夫, 山根 真央, 升田 好樹, 今泉 均
    2005 年 16 巻 4 号 p. 163-168
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    急性膵炎と急性肝不全に陥った急性バルプロ酸(valproate sodium; VPA)中毒の1例を経験した。症例は53歳の男性で妻とともに倒れているところを発見され,当院に搬入された。搬入時意識レベルはJCS 300で嘔吐,尿失禁がみられた。血液検査では,高ナトリウム血症と高乳酸血症,高アンモニア血症があった。搬入8時間後に妻がVPAを処方されていたことが判明し,搬入6時間後のVPA血中濃度1,555(治療域100μg/ml以下)μg/ml,アセチルサリチル酸(acetylsalicylate; ASA)濃度114μg/ml(治療域150-300μg/ml)だった。臨床症状と併せて急性VPA中毒と診断し,搬入15時間後に直接血液灌流を施行した。第2病日には膵酵素と肝逸脱酵素の上昇,DICを認めた。腹部造影CT上,肝部分壊死と重症急性膵炎であることが判明した。患者は多臓器不全が進行し,第3病日死亡した。他院に搬入された妻も搬入6時間後のVPA血中濃度は1,534μg/mlだった。搬入8時間後に直接血液灌流を施行し,意識レベルの改善がみられた。経過中,膵酵素の上昇,DICがみられたものの肝障害や急性膵炎の所見は認めず,順調に回復し第18病日ICUを退室した。本症例のようにVPAの大量服用にASAを同時に服用した場合には,VPAの中毒症状が増強される可能性が示唆された。また,重症急性VPA中毒では早期の血液浄化が救命に繋がるのではないかと考えられた。
  • 石井 仁平, 田中 信孝, 糟谷 美有紀, 野村 幸博, 永井 元樹, 脊山 泰治
    2005 年 16 巻 4 号 p. 169-174
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    外傷性大量気道内出血に対し,一般的なシングルルーメン気管チューブを用いて健側主気管支に挿管(片肺挿管)し,救命に成功した症例を経験したので報告する。症例は16歳の男性,バイク事故により受傷し当院に救急搬送された。来院時,左側気道からと考えられる大量気道内出血を呈していた。われわれは,シングルルーメン気管チューブを意図的に健側である右主気管支に挿管した。右主気管支内でカフを膨らませることによって,患側左主気管支から溢れた血液が右肺へ流入するのを阻止し,症例は血液ガス分析および胸部X線写真上の劇的な改善を示した。片肺挿管下でも肺内シャントによる低酸素血症は来さず,他の止血操作を待たずに止血を得た。これには低酸素性肺血管収縮が関与していると考えられる。また片肺挿管下では,患側気管支は気管壁と気管チューブの間隙を通じて咽喉頭に開放されているため,片肺挿管後いったんは患側肺に充満した血液は,翌日気管チューブのカフを気管に移す前におおむね消失し,凝血塊による無気肺やその他の合併症は生じなかった。大量気道内出血症例の救命は難しく,ダブルルーメンチューブその他の特殊な道具を用いた方法が知られているが,依然として致命率が高い。われわれは,通常の気管挿管に使用される一般的なシングルルーメンチューブを用いた片肺挿管法は,迅速・簡便かつ有効な方法であると考える。
  • 伊関 憲, 市川 一誠, 永野 達也, 栗原 正人, 堀 寧, 土田 浩之, 川前 金幸
    2005 年 16 巻 4 号 p. 175-181
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    今回われわれは定性反応によりメタノール中毒と診断し,早期の血液透析により救命できた1例を経験した。本症例ではMRIによりメタノール中毒による被殻病変についての知見を得たので併せて報告する。24歳の男性が2日前の夜,容器に入れたアルコールを飲み物に混ぜて飲酒した。気分不良のため,近医受診した。意識レベルの低下と高度の代謝性アシドーシスを認め当院救急部に転院搬送となった。尿中アルコール定性検査で陽性であり,メタノール中毒と判断し血液透析を2回行った。頭部CTを施行したところ,脳腫脹と両側被殻のLDAとその拡大を認めた。MRI上ではFLAIR像で被殻とその周囲に高信号域を,拡散強調像では被殻の高信号域を認めた。この所見から被殻での細胞の浮腫と被殻周囲の細胞外組織の浮腫があることが判明した。さらにSTIRでは視神経の浮腫が判明した。意識レベルは徐々に上昇し,退院前には手動弁を認識できるまで視覚は改善した。退院前のMRIでは被殻の細胞死を認めた。後日,血清中のメタノールおよびギ酸の血中濃度をGC/MSを用いて測定したところ,それぞれ2.7mg/ml, 969.0μg/mlと致死量であった。本症例では北川式アルコール検知管と代謝性アシドーシスによりメタノール中毒を同定することができた。また,MRIで拡散強調像とFLAIR像を比較することで被殻の状態を詳細に評価できた。
  • 長田 博光, 横尾 直樹, 北角 泰人, 吉田 隆浩, 北村 好史, 塩田 哲也, 安田 勝太郎
    2005 年 16 巻 4 号 p. 182-186
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の男性。既往歴は44歳時に外傷性小腸穿孔のため手術施行。48歳時より発作性心房細動にて内服治療中であった。2002年6月午前11時頃,作業場で小型重機運転中に横転し,一時的に小型重機の下敷きとなった。その際,操作レバーにて上腹部を強打し,上腹部激痛を主訴に午前11時45分当院へ救急搬送された。来院時は意識清明,血圧130/80mmHg,脈拍70/min・整であり,顔面は苦悶状でやや蒼白であった。腹部は剣状突起下でゴルフボール大の隆起を認め,自発痛・圧痛は著明であった。腹部造影CTで,胃の背側に多量の液体貯留像を認めるとともに,胃前庭部背側で造影剤の血管外漏出像を認めた。短時間のうちにショック状態となったため,来院2時間後に緊急開腹術を施行したところ,上腹部の腹直筋筋膜は断裂し,皮下に一部大網の脱出を認めた。網嚢内に大量の血腫と右胃動脈からの出血を認めたため右胃動脈を結紮止血した。術後経過としては,再出血などの合併症は認めず,第14病日に退院した。腹部鈍的外傷による右胃動脈単独損傷が原因の稀有な腹腔内出血を経験したので報告する。
  • 2005 年 16 巻 4 号 p. 188-202
    発行日: 2005/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
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