日本救急医学会雑誌
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16 巻, 7 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 長嶺 貴一
    2005 年 16 巻 7 号 p. 283-288
    発行日: 2005/07/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    近年,来院時心肺停止例(CPAOA)の蘇生においては心蘇生の成功はもちろんのこと,脳蘇生に重点をおく包括的医療が推進されている。CPAOAでは患者搬入時に十分な発症状況や時間経過が不明なことも多く,とくに心肺機能停止持続時間の把握は重要であるにも関わらず,目撃者のあるCPAにおいてでさえも時間経過が曖昧であることが多い。今回,筆者は救急初療時において心肺機能停止持続時間が推測可能となりうる客観的指標について検討を行った。対象は1996年4月から2003年3月まで当院に搬入された目撃者のある内因性心原性院外心肺停止例225例(男性128例,女性97例)であり,初療時のアンモニア値と心肺停止確認から,来院時までの時間(CPA-arrival time)の相関について統計学的に検討した。初療時のアンモニア値とCPA-arrival timeとは正の相関を認め,さらに社会復帰となった群においては非社会復帰群と比較し初療時のアンモニア値が有意に低値であった。また初療時アンモニア値が180μg/dl以下の症例で多くの社会復帰例を認めた。以上よりアンモニア値が心肺機能停止持続時間や,脳蘇生を含む神経学的予後を推測するうえでの一助となる可能性があることが考えられた。
  • 兼子 晋, 森脇 寛, 田中 啓司, 土肥 謙二, 三宅 康史, 新藤 正輝, 有賀 徹
    2005 年 16 巻 7 号 p. 289-293
    発行日: 2005/07/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    爆傷による身体への影響は一次から四次までの四相の衝撃による損傷を特徴とし,一次衝撃による損傷は,爆発の際に生じる爆風が身体に直接的に作用することで生じる損傷である。一次衝撃による腹腔内損傷では,腸管が最も損傷を受けやすいと報告されている。また,爆傷では爆風による一次衝撃の損傷機序のみならず飛来物による二次衝撃,爆風により飛ばされて生じる三次衝撃,熱などによる四次衝撃をも考慮した診療と治療を行うことが重要である。今回,われわれは金属パイプ内で発生した爆風による一次衝撃の受傷機転から右胃大網動脈損傷を来したまれな爆傷症例を経験したので報告する。
  • 豊田 泉, 小倉 真治, 森 義雄, 高橋 宏樹, 浅井 精一, 岡田 眞人
    2005 年 16 巻 7 号 p. 294-300
    発行日: 2005/07/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    ドクターヘリの目的は,搬送手段の短縮のみならず,現場に医師による質の高い医療を提供することである。今回われわれは,静岡県西部地区にて,傷病者多数の交通事故発生の事案において,救急隊とともに現場医療活動を行った。その際,最重症患者をトラウマバイパスとして,救命救急センターに,軽症者に対しては,それぞれの状態に応じて病院選定,搬送手段の決定などを行った。これらのemergency medical dispatchから始まり,現場,搬送,医療トリアージなどの活動は,出動までの時間が長い消防防災ヘリコプターでは限界があり,ドクターヘリが有用な可能性が高い。時間については,災害時には重要な問題であり,近い将来起こりうる東海地方での大地震の際にも,ドクターヘリが有効利用できるような準備を各方面で検討すべきであると思われた。
  • 早川 峰司, 丸藤 哲, 星野 弘勝, 上垣 慎二, 大城 あき子
    2005 年 16 巻 7 号 p. 301-306
    発行日: 2005/07/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    肝コンパートメント症候群を併発した鈍的肝損傷に対し,経動脈的塞栓術(transarterial embolization; TAE)と慎重な経過観察により保存的に治療可能であった2症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。〔症例1〕交通事故にて受傷した40歳の女性。造影computed tomogram (CT)にて,肝右葉実質内の巨大血腫と,その血腫内への造影剤の血管外漏出を認めたためTAEを施行した。血腫のある肝右葉にのみ遠肝性の門脈血流を認めた。左葉は左肝動脈から肝静脈に流れる正常血流であった。その後,順調な経過で退院となった。6ヶ月後の血管造影では,肝血流は正常化していた。〔症例2〕階段から転落し受傷した73歳の男性。造影CTにて,肝右葉実質内に巨大血腫を認め,TAEを施行した。肝右葉にのみ遠肝性の門脈血流を認めた。左葉は正常血流であった。その後順調な経過で退院となった。高齢のため,フォローアップの血管造影は施行していないが,肝機能に異常はなく,腹水も認めていない。考察:肝コンパートメント症候群とは,血腫の増大により肝皮膜下の内圧が高まり,肝血流に異常を来した状態である。初期の段階では,皮膜下の血腫により内圧が高まり,肝静脈への血流が阻害され,遠肝性の肝動脈-門脈血流を認める。血腫の影響を受けていない他の部位では,正常の肝血流を示す。血腫が更に増大すると,肝虚血や,肝静脈の圧迫によるBudd-Chiari症候群へ進展する可能性もある。このため,肝コンパートメント症候群の治療では,初期にTAEにより血腫増大を防止することが重要である。また,その後も,肝逸脱酵素や肝機能などを慎重に経過観察し,肝虚血やBudd-Chiari症候群の兆候が出現した場合は,外科的な血腫除去等による減圧を行う必要があると考える。
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