日本救急医学会雑誌
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18 巻, 5 号
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原著論文
  • 早川 峰司, 生駒 一憲, 大城 あき子, 星野 弘勝, 丸藤 哲
    2007 年 18 巻 5 号 p. 169-178
    発行日: 2007/05/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    背景・目的 : 高次脳機能障害のため, 社会復帰を果たせない患者の問題が社会的に注目され, 行政的な対応や疫学調査などが行われているが, これらの調査は慢性期の症状が安定した患者を母集団とした調査が中心であった。救急医療施設からの転院や退院の後に, 高次脳機能障害を呈するも外来経過観察から脱落し社会的に困窮している患者群が存在しているとの仮説を立て, そのような状況に至った問題点を明らかにすることを, 本研究の目的とした。対象 : 2000年1月から2003年12月の4年間に北海道大学病院救急部に, 受傷現場から直接搬入となり生存退院もしくは転科となった鈍的外傷患者204症例。方法・結果 : 2回のスクリーニング用紙による調査や外来診察, 入院精査の結果より高次脳機能障害患者の発生数を調査し, その受傷時の状態, 検査の施行状況, 退院までの経過などに関して検討を行った。対象患者204症例のうち, 79症例から1次スクリーニング調査に回答があった。最終的に6症例, 全体の約3%が高次脳機能障害と診断された。本調査により新たに診断された症例は3症例であり, いずれも高次脳機能障害とは関わりの少ない診療科からの退院であった。頭部外傷に対する診断に関しては, 急性期治療の必要性を判断するために頭部CTが82% (79症例中, 65症例) で施行されていた。頭部CTや意識レベルなど臨床的に問題を認めない症例に対し, 微細な脳損傷を否定するためにMRIなどの検査を施行している症例は認められなかった。考察・結論 : 救急領域における高次脳機能障害患者の見逃しは, 頭部外傷患者における脳損傷に対する検査・診断方法の感度の問題と, 高次脳機能障害の疾患自体の認知不足にあると考えられた。
  • 関根 和彦, 北野 光秀, 山崎 元靖, 清水 正幸, 松本 松圭, 吉井 宏, 相川 直樹
    2007 年 18 巻 5 号 p. 179-187
    発行日: 2007/05/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    背景 : 循環動態が安定した肝損傷患者には非手術的治療 (nonoperative management; NOM) が考慮されるが, IIIb型肝損傷に対するNOMの適応は十分に検討されていない。目的 : 輸液療法に反応してNOMを施行したIIIb型肝損傷患者において, 手術的治療を要した症例を検討し, NOMの限界を明らかにする。対象と方法 : 1988年から16年間に慶應義塾大学病院または済生会神奈川県病院に救急搬送された鈍的腹部外傷患者のうち, 即時手術を回避し, 初期治療での輸液・輸血療法 (1~2Lの急速静注) によって安定した循環動態が得られ, 腹部造影CT検査でIIIb型肝損傷と診断された連続34人を対象とした。全対象患者をNOMの治療方針で経過観察し, 経過中に開腹手術を要した症例は, その手術目的にかかわらずNOM非成功例と定義した。NOM成功群と非成功群に分類し, 搬入時のバイタルサインや画像検査所見 (肝損傷の損傷範囲, 肝静脈損傷の有無) を比較した。さらに全対象症例における受傷80日後までの累積開腹手術率から, 肝損傷の画像検査所見と開腹手術時期との関連を検討した。結果 : NOM非成功例は5例で, その開腹適応は, 肝臓からの腹腔内出血増大による循環不全3例と保存的治療に抵抗性の腹腔内感染症2例 (肝膿瘍1例, 急性胆嚢炎1例) であった。NOM非成功群は, 搬入3時間後の収縮期血圧はNOM成功群との差を認めなかったが, 搬入時に有意な低収縮期血圧と頻脈を呈し, 肝損傷の範囲が広く, 肝静脈損傷の疑いが高かった。受傷後の累積開腹手術率は, 肝静脈損傷を疑った患者で急性期に極めて高く (p<0.0001), 損傷範囲が4区域以上の患者で感染期に高かった (p=0.002)。結論 : 輸液療法に反応したIIIb型肝損傷患者に対するNOMの限界に関して, 肝静脈損傷は急性期の決定的要因であり, 4区域以上の損傷範囲はNOMの適応を慎重に考慮すべき要因であると考えられた。
症例報告
  • 田口 茂正, 清水 敬樹, 横手 龍, 五木田 昌士, 勅使河原 勝伸, 関井 肇, 清田 和也
    2007 年 18 巻 5 号 p. 188-195
    発行日: 2007/05/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の男性。自殺目的に炭酸カリウムを主成分とする強アルカリ性の現像液を約300ml服用し, 上腹部痛・嘔気を主訴に当救命救急センターへ搬送された。病着時に腹膜刺激症状は認めなかった。腐食性物質の服用を疑って施行した上部消化管内視鏡では食道, 胃, 十二指腸に出血性びらんと粘膜壊死を認めた。入院後カリウム吸収による高カリウム血症から心室細動を発生したが速やかに心拍再開が得られ, 後遺症も残さなかった。第3病日には腸管浮腫によりabdominal compartment syndrome (ACS) となりICUで減圧開腹術を施行し, 全層性に壊死した小腸を170cm切除した。第13病日に胃穿孔が疑われ再手術を施行, 胃に広範な全層壊死と穿孔を認め, 胃全摘と消化管再建術を行った。以降, 集学的治療を行うも全腸管壊死, 汎発性腹膜炎に陥り, 第26病日に死亡した。炭酸カリウムの服用による中毒例の報告は渉猟し得た範囲では1例のみである。強アルカリの服用では消化管の融解壊死が問題となり, 十二指腸より遠位の障害の報告例は少ない。本症例では胃, 小腸が短期間に漿膜まで壊死に陥るほど重篤な障害が生じた。強アルカリの大量服用では上部消化管だけではなく, ACSの発生を含めた小腸, 大腸の障害の可能性を念頭に置いた管理と対処が必要である。
  • 今井 崇裕, 北川 朋子, 西部 俊哉, 西部 正泰
    2007 年 18 巻 5 号 p. 196-201
    発行日: 2007/05/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    爪楊枝誤飲による消化管穿孔はまれで, 患者が誤飲を自覚していないことが多く, 爪楊枝がX線透過性であることから術前診断は困難とされる。今回われわれは術前診断が可能であった手術症例を経験した。患者は73歳の男性, 1週間前に義歯 (上顎, 総義歯) と一緒に何かを飲み込んだと自覚。3日後, 臀部周囲の熱感, 疼痛が出現したが放置していた。39度の高熱, 臀部及び陰嚢部の腫脹が増強したため救急車で搬送された。受診時下腹部に圧痛を認めたが, 腹膜刺激症状は認めなかった。入院時の血液検査では高度の炎症所見を認めたが, 単純X線, US及びCT検査では異物様の陰影を認めなかったものの, 直腸周囲から膀胱の辺縁を介して恥骨の前面に貯留したエアー像を確認した。皮下のエアー像は左側腹部脾臓レベルまで上行していた。肛門指診したところ直腸内に異物を触れ, これを用手的に摘出したところ約6cmの爪楊枝であった。爪楊枝誤飲による直腸穿孔と考え, 同日緊急に全身麻酔下でドレナージ, 洗浄及び人工肛門造設術施行した。以後, 全身管理, 創部の洗浄及びドレナージを繰り返し, 経過は良好である。今回, 本邦では非常にまれな爪楊枝誤飲による直腸穿孔の1例を経験したので報告する。
  • 小坂 至, 光定 誠, 若山 達郎, 松浦 篤志, 新井 浩士, 横山 春子, 田中 道雄
    2007 年 18 巻 5 号 p. 202-207
    発行日: 2007/05/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    界面活性剤の大量内服後に多発小腸潰瘍・穿孔を来した1症例を経験したので報告する。症例は45歳の男性。自殺企図にて界面活性剤を大量に内服し, 急性薬物中毒にて当院入院となった。経過中に下血及び持続する右下腹部痛が出現した。上下部消化管内視鏡検査・腹部血管造影などにより, 小腸潰瘍からの出血と考えられ, バゾプレシンの持続動注を行い, 一時的な止血が得られた。その後腹膜炎症状及び再下血を認め, 小腸潰瘍による穿孔性腹膜炎の診断にて緊急手術を施行した。約1.6mの空腸を残し回盲部切除術を行った。術後も残存小腸の潰瘍からと思われる下血を繰り返したが, 諸検査にて明らかな出血源は指摘できず, 保存的加療にて改善し, 術後55日目に軽快退院した。界面活性剤による中毒では, 腸管からの排泄と共に, 中毒症状が改善することが多い。しかし, 閉塞機転による腸管内の停滞などを契機に本症例のような重篤な経過をたどることもあり, 慎重な経過観察が必要である。
  • 高橋 洋子, 須崎 紳一郎, 勝見 敦, 原田 尚重, 諸江 雄太, 蕪木 友則, 中澤 佳穂子
    2007 年 18 巻 5 号 p. 208-215
    発行日: 2007/05/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    消火器に含まれる消火薬剤による高カリウム血症が原因と思われる心停止の事例を経験した。症例は68歳の男性。統合失調症で他院入院中, 消火器を自ら口にくわえて噴射した。その直後より, 全身の発汗, 四肢の冷感が出現。ショック状態のため, 当院救命センターへ転院搬送となった。来院時, GCS E3V5M6で不穏状態で, 収縮期血圧60mmHg, 心拍数99/min, SpO2 99%であった。生化学検査で血清K濃度が10.3mEq/l, 心電図上でテント状T波を認めた。入室より38分後, 心肺停止状態となったが, 2時間以上にわたる心肺蘇生の後, CHDF等の集中治療を行い, 救命することができた。本症例で使用された消火器は, 主成分が炭酸カリウムであり, 内容物中のカリウムが体内に吸収され高カリウム血症となり, 心停止に至ったものと考えられた。一般に, 消火薬剤は低毒性と考えられているが, 致死的中毒を引き起こす危険性があることは広く認知されるべきである。
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