背景 : 循環動態が安定した肝損傷患者には非手術的治療 (nonoperative management; NOM) が考慮されるが, IIIb型肝損傷に対するNOMの適応は十分に検討されていない。
目的 : 輸液療法に反応してNOMを施行したIIIb型肝損傷患者において, 手術的治療を要した症例を検討し, NOMの限界を明らかにする。
対象と方法 : 1988年から16年間に慶應義塾大学病院または済生会神奈川県病院に救急搬送された鈍的腹部外傷患者のうち, 即時手術を回避し, 初期治療での輸液・輸血療法 (1~2Lの急速静注) によって安定した循環動態が得られ, 腹部造影CT検査でIIIb型肝損傷と診断された連続34人を対象とした。全対象患者をNOMの治療方針で経過観察し, 経過中に開腹手術を要した症例は, その手術目的にかかわらずNOM非成功例と定義した。NOM成功群と非成功群に分類し, 搬入時のバイタルサインや画像検査所見 (肝損傷の損傷範囲, 肝静脈損傷の有無) を比較した。さらに全対象症例における受傷80日後までの累積開腹手術率から, 肝損傷の画像検査所見と開腹手術時期との関連を検討した。
結果 : NOM非成功例は5例で, その開腹適応は, 肝臓からの腹腔内出血増大による循環不全3例と保存的治療に抵抗性の腹腔内感染症2例 (肝膿瘍1例, 急性胆嚢炎1例) であった。NOM非成功群は, 搬入3時間後の収縮期血圧はNOM成功群との差を認めなかったが, 搬入時に有意な低収縮期血圧と頻脈を呈し, 肝損傷の範囲が広く, 肝静脈損傷の疑いが高かった。受傷後の累積開腹手術率は, 肝静脈損傷を疑った患者で急性期に極めて高く (p<0.0001), 損傷範囲が4区域以上の患者で感染期に高かった (p=0.002)。
結論 : 輸液療法に反応したIIIb型肝損傷患者に対するNOMの限界に関して, 肝静脈損傷は急性期の決定的要因であり, 4区域以上の損傷範囲はNOMの適応を慎重に考慮すべき要因であると考えられた。
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