日本救急医学会雑誌
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18 巻 , 7 号
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原著論文
  • 林下 浩士, 吉本 昭, 松浦 康司, 宮市 功典, 韓 正訓, 鍜冶 有登, 宮本 覚
    2007 年 18 巻 7 号 p. 283-290
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    今回, 敗血症に続発したacute lung injuryまたはacute respiratory distress syndrome (ALI/ARDS) 症例に対して, 好中球エラスターゼ阻害薬 (sivelestat sodium hydrate) の投与が肺血管の透過性亢進を抑制するか否かを検討した。敗血症に続発したALI/ARDS生存22例のうち, Sivelestat投与群11例 (投与群) と非投与群11例について, 入室時 (0h), 24時間後 (24h) 及び48時間後 (48h) のPaO2/FiO2 ratio, SOFAスコア, PEEP値, 血清乳酸値, base excess値, 24時間ごとの体液バランス, 入室直後に挿入したPiCCO (pulse contour cardiac output) モニタリングシステムを用いて測定した肺血管外水分量係数 (EVLWI), 胸腔内血液容量係数 (ITBVI) 及び肺血管透過性係数 (PVPI) の推移を比較検討した。2群間に年齢, 性別, 感染巣 (肺もしくは肺外) の分布, SOFAスコア及びPaO2/FiO2 ratioに差は認められなかった。SOFAスコア, PaO2/FiO2 ratio, PEEP値及びbase excess値の推移では, 非投与群では変化が認められなかったが, 投与群では有意に改善していた。肺血管の透過性の指標となるPVPIの推移は, 投与群では0hと比較し48hで有意に (p<0.05) 改善傾向が認められた。0hから48hの体液バランスは, 投与群ではマイナスであるのに対して, 非投与群ではプラスであり, 非投与群で観察された体液貯留は投与群では改善していた。体液バランスがネガティブであった投与群の胸腔内血液容量の指標となるITBVIの推移では, 投与群では0hと比較し48hで有意に (p<0.05) 増加傾向が認められた。また, 投与群にのみEVLWIとPaO2/FiO2 ratioとの変化に相関関係が認められた。以上より非致死的敗血症に続発したALI/ARDS症例に対するSivelestatの投与は, 肺血管の透過性を抑制し酸素化能を改善させる可能性及び肺以外の血管透過性を抑制する可能性が考えられた。
症例報告
  • 小島 直樹, 佐々木 庸郎, 石田 順朗, 稲川 博司, 岡田 保誠, 尾崎 公彦, 北条 浩
    2007 年 18 巻 7 号 p. 291-296
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    我々は総腸骨動脈瘤破裂により動静脈瘻が形成され, 術前心肺機能停止に陥ったが救命し得た症例を経験した。症例は65歳の男性, 既往はとくになかった。突然の胸背部痛を自覚し, 急性心筋梗塞疑いで当院へ搬送された。心電図及び心臓超音波検査により急性心筋梗塞を否定したが, 外来処置中に心肺機能停止状態に陥った。心肺蘇生法を行いながら施行した腹部超音波検査により腹部大動脈瘤を確認したため, 出血性ショックを念頭に大量輸液を含めた心肺蘇生法を行い続けたところ心拍再開を得た。しかし, 頸静脈は一貫して怒張しており出血性ショックが心肺機能停止の原因とは考えにくい身体所見であった。心拍再開後, 循環動態の維持が可能となったので, 腹部骨盤造影CTを撮影し腎動脈下に右総腸骨動脈瘤下大静脈瘻が確認され, これが心肺機能停止状態の原因と考えられ緊急手術を行った。手術は動脈瘤を開放し, 瘻孔にバルーンカテーテルを挿入し, 出血を制御しながら縫合閉鎖し人工血管置換術を施行した。術後, 多臓器不全のため6日間ICUに滞在したが, 第31病日退院した。本病態は総腸骨動脈下大静脈瘻のなかでもその瘻孔が1.5cmと比較的大きく急激に拡大したために急速に心肺機能停止状態に陥ったと考えられた。大動脈瘤の合併症の中には稀ながら動静脈瘻の形成という病態が存在し, なかでも本症例のように急激に循環不全に陥る可能性があることを念頭におく必要があると考えられた。
  • 今村 友典, 柳川 洋一, 木村 民蔵, 前原 正明, 岡田 芳明
    2007 年 18 巻 7 号 p. 297-302
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    74歳の男性がオートバイ運転中に転倒し, 腹部を打撲。腹痛が軽減せず, 腹部CT撮影にてStanford B型の胸腹部大動脈解離が判明した。腹痛は翌日には消失し, 画像上解離腔の増大もなく, 臓器虚血症状も出現しなかったため第15病日に退院となった。しかし第81病日に腹痛が出現し, 腹腔・上腸間膜動脈分岐部の大動脈の真腔が拡張した偽腔により圧迫され, 狭小化していたため, 左総腸骨動脈-上腸間膜動脈bypass術を施行し, 術後は症状が消失し, 独歩退院となった。外傷性腹部大動脈解離は稀ではあるが, 見落とせば破裂や臓器虚血症状により死亡する可能性もある疾患であり, 注意深い診断が必要である。
  • 岩瀬 史明, 松田 潔, 松園 幸雅, 宮崎 善史, 松本 学, 遠山 敬司, 神崎 健仁
    2007 年 18 巻 7 号 p. 303-308
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    結節性多発動脈炎 (PN) は, 中小動脈を侵すまれな血管炎症候群であり, 特異的な臨床症状や検査所見がないため診断に苦慮することが多い。診断の遅れによる未治療のPNの予後は非常に悪い。今回われわれは腎周囲血腫により出血性ショックとなり緊急血管造影を行い診断しえた症例を経験したので報告する。症例は60歳代の男性。一過性黒内障と左上肢の麻痺のため近医に入院となった。症状はすぐに自然軽快したが, 入院時発熱・腎機能障害を認めたため原因精査を行っていた。入院中に突然腎周囲血腫を発症しショックとなったため当院救命救急センターに転送となった。腎動脈造影により微小動脈瘤を多数認めたため, PNと診断しステロイドパルス治療を開始した。状態は改善し, しばらく安定していたが, その後脳出血と心筋梗塞を発症し, 入院63日目に死亡した。PNは微小動脈瘤形成など腎臓を侵すことが多いが腎周囲血腫の合併はまれである。PNの予後はステロイド・免疫抑制剤の治療により改善されてきているが, 治療開始後も血管炎の悪化もみられるため厳重な経過観察が必要である。
  • 小出 竜雄, 鍬方 安行, 角 由佳, 藤中 俊之, 田崎 修, 塩崎 忠彦, 杉本 壽
    2007 年 18 巻 7 号 p. 309-314
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    頭部外傷後の ‘talk and deteriorate’ は硬膜外血腫を除けば高齢者に多く, 若年者には比較的稀である。今回, 我々は16歳の ‘talk and deteriorate’ 例を経験し, その発症機序を推察する興味深い画像所見を得た。症例は, バイク走行中の転倒事故で受傷した。来院時, 意識レベルはGCSでE4V4M6, 頭部CTで左のシルビウス裂を中心とした外傷性クモ膜下出血と, 左前頭葉の脳挫傷, 右後頭骨には横静脈洞と交差し大後頭孔に及ぶ約6cmの線状骨折を認めた。外傷性血気胸・大腿骨骨幹部骨折, 及び左第2, 3, 4肋骨骨折も合併していた。来院4時間後に意識レベル低下とともに瞳孔不同が出現した。頭部CTの再検で, 左前頭蓋底部に硬膜下血腫と挫傷内出血の増量を認めた。血腫量は約30mlであったが, 脳腫脹が著明であり脳底槽の消失と脳幹の圧迫所見が認められたため, 直ちに開頭血腫除去術を施行した。しかし, 意識レベルの回復はみられず, 第42病日, E4VTM4の意識レベルで転院となった。来院時に撮影した造影CTで, 右後頭骨の骨折線に接して横静脈洞の造影不良と, 右内頸静脈の陰影欠損を認めた。この陰影欠損は第14病日のfollow up CTでは消失しており, 右側が内頸静脈の優位側であったことが判明した。以上より, 外傷に伴う血栓形成による静脈還流障害が, 頭蓋内圧亢進の一因となった可能性があると考えられた。
  • 阿部 良伸, 池上 之浩, 長谷川 有史, 塚田 泰彦, 阿部 正幸, 田勢 長一郎
    2007 年 18 巻 7 号 p. 315-320
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    症例は22歳の男性。高さ約2mの台から墜落した際, 長さ160cm, 直径7mm, 先端が鈍のステンレス製の棒が右臀部から刺入した。受傷直後に前進したところ刺入異物が抜けてしまった。初診時, 強い腹痛を訴えており, 臀部杙創による直腸損傷や骨盤内臓器損傷を疑い, 直ちにFAST及び腹部造影CTを実施したが腹水貯留やfree airを指摘できなかった。また, 異物が遺残しておらず異物走行と臓器の解剖学的位置関係を診断の助けにすることができず対応に苦慮した。刺入の深さは不明であったが, 問診からは20cm程度腹腔方向に刺入したと考えられたため診断的開腹術に踏み切った。下腹部正中切開にて開腹したところ, 直腸腹膜翻転部右側縁から約5cm外側に異物の腹腔への刺入痕を認めた。幸い, 下部消化管損傷及び骨盤内臓器損傷を認めなかったが, 十二指腸球部に貫通性損傷を認め修復した。本症例は臀部杙創であり下部消化管損傷や骨盤内臓器損傷を強く疑ったが, 上部消化管損傷は全く想定していなかった。開腹時後壁損傷部は膵周囲脂肪織で, 前壁損傷部は血餅と大網で覆われたことから消化管内ガスが腹腔に漏れ出しにくい状況であったと考えられる。直腸や他の骨盤内臓器損傷を合併しなかった要因として, 1) 異物の径が細く, 先端が鈍であったため周囲組織への影響が少なかったこと, 2) 材質がアルミニウムでたわみやすかったため体内へ侵入した後に抵抗の少ない経路へ迂回したことなどが考えられる。臀部杙創に対する開腹術の適応基準は存在していない。しかしながら, 下部消化管損傷に対する治療の遅れは致命的となる危険性があり, 迅速な対応が必要である。不安定な循環動態を示す症例では可及的速やかに開腹術を実施すべきであり, 初診時に循環動態が安定していても受傷機転, 画像検査所見, 異物の材質, 創部の状態及び刺入の深さなどから慎重に開腹術の適応を考慮すべきである。
  • 野島 洋樹, 井谷 史嗣, 石川 隆, 石井 賢造, 岸本 朋宗, 金 仁洙, 宮庄 浩司
    2007 年 18 巻 7 号 p. 321-326
    発行日: 2007/07/15
    公開日: 2009/02/27
    ジャーナル フリー
    64列Multidetector Computed Tomography (以下MDCTと略す) を用いたCT angiographyが診断と治療方針の決定に有用であった外傷性回腸仮性動脈瘤の1例を報告する。症例は86歳女性。交通事故による骨盤骨折と出血性ショックのため, 当院に搬送となった。造影CTで少量の腹腔内出血に加えて腸間膜に直径7mmの造影される腫瘤影と周囲の浮腫状変化を認めたが, 造影剤の血管外漏出はなく循環動態も安定したことから保存的加療とした。受傷から12時間後, 貧血の増悪を認めたためMDCTを用いたDynamic CT Studyを行ったところ, 腸間膜の腫瘤影は直径15mmに拡大しており, early phaseから濃染されdelayed phaseでは周囲の血管と同程度の造影効果を認めたため動脈瘤と診断した。CT angiographyを構築したところ動脈瘤は上腸間膜動脈の末梢に存在しており, 増大傾向を認める外傷性腸間膜仮性動脈瘤と診断し緊急開腹手術を行った。術中所見では, 回腸末端から40cm口側の腸間膜に拍動性の腫瘤と同部位を中心に扇状に挫滅した腸管, 腸間膜を認め, 損傷腸管と動脈瘤を含めた腸間膜の切除を行い端端吻合で腸管の再建を行った。術後軽度の肺炎を併発したものの腹部合併症は認めず, 受傷から17日目に骨盤骨折に対するリハビリ目的で転院となった。組織学的には瘤の外壁に動脈としての層構造を認めない仮性動脈瘤であった。文献上, 上腸間膜動脈分枝の外傷性仮性動脈瘤は自験例を含めて8例と極めて稀である。治療法としては手術や経皮的動脈塞栓術 (transcatheter arterial embolization; TAE) などが考えられるが, 自験例ではCT angiographyの結果から動脈瘤が腸管に近くTAEでは腸管虚血壊死の危険があると判断したため, 手術を選択した。MDCTを用いたCT angiographyは非侵襲的かつ詳細に動脈瘤の部位や形態が判断でき, 治療方針の決定に非常に有用であった。
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