三次救急施設に搬送された重度交通外傷患者の損傷形態や死因を受傷機転別に比較検討した。対象は,救急隊員により三次救急施設に選別搬送された交通外傷286例である。まず,患者母集団のISS重症度分布を解析した後,ISS≧16の交通外傷222例を重度交通外傷として選別し,交通手段により,(1)自動車群46例,(2)二輪車群108例,(3)歩行者群68例に分類した。また,ISS≧16の墜落外傷87例を比較対照として付加した(墜落群)。以上の4群で,重度損傷(AIS≧3)の部位別頻度とその内容,また死亡例については死因の解析を行った。ISS分布は,ISS≧16の範囲で,ISSと患者頻度に負の相関関係が認められ,重症患者が三次救急施設におおむね選別搬送されていた。プレホスピタルにおいて高次救急施設への搬送を選択する大きな基準として,受傷時の意識障害の有無が考えられた。これは飲酒による意識障害が救急隊員の患者選別を不正確にする要因であったこと,また,いずれの交通手段においても,頭部外傷の頻度の高さと重篤性が特徴的であったことから推察された。受傷機転別にみると,自動車群では腹部外傷の頻度が39.1%と他群に比して高く,とくに重度肝外傷の頻度が高かった。一方,歩行者群では骨盤骨折の頻度が39.7%と高く,とくに重篤な骨盤環破砕型骨折の頻度が高かった。また歩行者群の損傷様式は,脊椎損傷を除き,墜落群と類似していた。死因の検討では,各群とも頭部外傷による脳死と出血死が死因の大半を占めたが,致死的な出血が高頻度に発生する部位は群間で異なり,自動車群では腹部,歩行者および墜落群では骨盤であった。三次救急施設に搬送される交通外傷患者の多くは意識障害を伴い,もっとも優先的に治療を進めるべき出血部位の同定に苦慮することが多い。受傷時の交通手段を参考にして,初期治療に当たることは有用と考えられる。
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