日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
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20 巻, 12 号
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総説
  • 射場 敏明, 真弓 俊彦, 小倉 真治, 石倉 宏恭, 小谷 穣治, 松田 直之, 横田 裕行
    2009 年 20 巻 12 号 p. 915-922
    発行日: 2009/12/15
    公開日: 2010/03/01
    ジャーナル フリー
    重症セプシスに対する強化インスリン療法やショックに対するステロイド投与,更に活性化プロテインC投与などの項目は,いずれも初版Surviving Sepsis Campaign(SSC)ガイドラインにおける目玉とされていた。しかしその後の追試により,これらの治療効果には疑問符が付けられ,推奨が引き下げられることとなっている。一方SSCガイドラインにはとりあげられていないにもかかわらず,本邦で広く実施されている治療として,ポリミキシンB固定化カラムによるエンドトキシン吸着療法(PMX-DHP),disseminated intravascular coagulation(DIC)に対する抗凝固療法,更にacute respiratory distress syndrome(ARDS)に対するシベレスタットナトリウムの投与などがある。このうちPMX-DHPについては,最近イタリアで実施されたrandomized controlled study(RCT)において有効性が確認され,一躍注目されるところとなった。一方アンチトロンビンのように海外では投与を控えるよう推奨されている薬剤が,国内ガイドラインでは投与を推奨されていたり,シベレスタットナトリウムのように海外試験で効果が否定された後に国内で実施された市販後臨床試験で効果が再確認されるなど,いわゆるねじれ現象もみられる。このような状況下で我々臨床医は,国内で広く実施されている治療に明確なエビデンスが存在しなかったり,あるいはいわゆるグローバルスタンダードと称されるような治療においてすら,そのエビデンスには不確実なものが多数含まれていることを認知しておくことが必要である。エビデンスに基づく治療の重要性は言うまでもないが,こと重症セプシスにおける治療法の選択に際しては,人種差以外にも国ごとに異なる医療事情や歴史的背景をも理解しておくことが必要である。そして臨床応用に際しては,個々の症例ごとにエビデンス以外にも知識や経験を総動員し,更に施設の対応状況なども加味したうえで,テーラーメード診療をめざすことこそ重要であり,画一的にガイドライン診療を適応するのはむしろ慎むべきであると考える。
症例報告
  • 大谷 尚之, 井上 一郎, 河越 卓司, 石原 正治, 嶋谷 祐二, 栗栖 智, 中間 泰晴
    2009 年 20 巻 12 号 p. 923-928
    発行日: 2009/12/15
    公開日: 2010/03/01
    ジャーナル フリー
    症例は31歳の男性。来院2日前からの前胸部痛を主訴に当院に救急搬送となった。来院時12誘導心電図における胸部誘導でのST上昇に加え,血液検査上,炎症反応の上昇および心筋逸脱酵素の上昇を認めた。臨床経過,検査所見より急性前壁心筋梗塞を疑い冠動脈造影を行った所,左冠動脈前下行枝#7が完全閉塞していた。カテーテルを用いた血栓吸引等により再開通を試みたが奏効しなかった。翌日,来院時提出していた血液培養よりStreptococcus intermediusが検出された。心臓超音波検査にて僧帽弁逆流に加え,僧帽弁前尖に疣腫と思われる腫瘤影を認めたため,感染性心内膜炎,およびそれに伴う冠動脈塞栓と診断した。その後,僧帽弁逆流の悪化に伴い急速に心不全症状が進行したため,来院3日目に僧帽弁置換術を行った。感染性心内膜炎は高率に塞栓症を引き起こすことが知られており,頻度は低いものの本邦でも冠動脈塞栓合併の報告がある。しかしながら,症例は少なく未だ治療方針は確立されていない。報告ごとに様々な治療が行われているのが現状であるが,治療を誤れば重篤な合併症を引き起こすこともある。心筋梗塞のうち,動脈硬化のリスクファクターがない若年例,感染症状併発例などでは,感染性心内膜炎に伴う冠動脈塞栓の可能性を考え診療に当たり,血管内治療等に関しては疾患に応じた慎重な治療法の選択が必要である。
  • 佐藤 洋子, 関根 和彦, 安倍 晋也, 林田 敬, 佐藤 幸男, 葉 季久雄, 堀 進悟
    2009 年 20 巻 12 号 p. 929-934
    発行日: 2009/12/15
    公開日: 2010/03/01
    ジャーナル フリー
    背景:気道異物は,一般に気管支鏡に鉗子や吸引を併用して摘出が行われるが,摘出に難渋することも多い。また,軟らかい異物の場合は,把持鉗子やバスケット鉗子では異物を剪断もしくは破砕してしまうため,気道閉塞や無気肺,肺炎といった呼吸器合併症を起こす可能性がある。食事摂取中に生じた気道異物を自作透明フードを用いて一括摘除し得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。症例:パーキンソン病の既往がある64歳の女性で,嚥下障害により食事中の誤嚥を頻繁に起こしていた。自宅でうどんを摂食中にむせ込み,その後も 1 時間近く咳嗽が続くため救急要請した。来院時のバイタルサインは,GCS15 (E4V5M6),呼吸数30/分,心拍数66/分,血圧106/71 mmHg,酸素飽和度96%(6Lマスク)であった。口腔内に異物を認めなかったが右下肺野に吸気時優位のラ音を聴取した。その他,身体所見上明らかな異常を認めなかった。胸部単純X線像では異常所見を認めなかったが,胸部CT検査で気管から右外側肺底枝に0.5 cm直径 × 10 cm長のiso density areaを認め,気道異物が疑われた。 8 mm気管内チューブで気管挿管後,気管支鏡により気管から右気管支の末梢にかけて位置する気道内異物を確認した。現病歴と合わせ,うどんによる気道異物と診断した。気管支鏡および細径喉頭ファイバーでの吸引や,バスケット鉗子による除去を試みたが,異物を摘出できなかった。そこで,消化管内視鏡検査で用いる透明フードのように,吸引カテーテルを10 mm長の管状に切断したものを気管支鏡先端に装着し,異物の片端を吸引しながら気管支鏡を抜去することにより,異物を摘出できた。結語:気道異物の診断において,胸部単純X線像には異常所見を認めなかったが,胸部CT検査により確定診断に至った。うどんによる気道異物は,自作透明フードを使用することにより容易に一括除去することが可能となった。
  • 菊池 忠, 今村 浩, 望月 勝徳, 北村 真友, 岩下 具美, 堂籠 博, 岡元 和文
    2009 年 20 巻 12 号 p. 935-940
    発行日: 2009/12/15
    公開日: 2010/03/01
    ジャーナル フリー
    症例は73歳の女性,突然の意識障害にて某医に救急搬送され,右小脳出血および閉塞性水頭症の診断にて穿頭血腫除去術を受けた。その後意識レベルは回復したが,数日後より再び低下した。頭部CTおよびMRIにて意識障害の原因となる病変を特定できなかった。その後ショック状態を呈したため当院へ紹介となった。血液検査にて,腎機能障害,肝機能障害,高ナトリウム血症および著明な高カルシウム血症を認めた。直ちに大量輸液を開始し,次いでフロセミドおよびカルシトニンの投与を開始した。血清カルシウム値が低下するにつれ,意識レベルは徐々に改善した。本症例の高カルシウム血症クリーゼは副甲状腺腫による副甲状腺機能亢進症が主因と考えられた。口渇が生じると通常は飲水する。しかし,本症例は小脳出血に伴う意識障害が存在していたため飲水することができず,さらに脱水が進行し著しい高カルシウム血症を呈したと考えられた。脳卒中患者などが説明できない意識障害を呈した場合には,その一因として高カルシウム血症を考慮する必要がある。
  • 佐藤 孝幸, 中川 隆雄, 仁科 雅良, 須賀 弘泰, 高橋 春樹, 出口 善純, 小林 尊志
    2009 年 20 巻 12 号 p. 941-947
    発行日: 2009/12/15
    公開日: 2010/03/01
    ジャーナル フリー
    カフェインは嗜好品の他,感冒薬や眠気予防薬として普及しているため,過剰摂取が容易である。大量服用から致死的中毒を来した2症例を救命した。〈症例1〉34歳の女性。市販感冒薬を大量服用後,心室細動から心静止状態となり救急搬送された。感冒薬成分中の致死量のカフェインが心肺停止の原因と考えられた。〈症例2〉33歳の男性。自殺企図にて市販無水カフェイン(カフェイン量24g)を内服,嘔吐と気分不快のため自らの要請で救急搬送となった。いずれも大量のカフェイン急性中毒例で,薬剤抵抗性の難治性不整脈が特徴であった。早期の胃洗浄,活性炭と下剤の使用,呼吸循環管理により救命することができた。とくに症例2では,早期の血液吸着により血中濃度の減少と症状の劇的な改善を認めた。これは血液吸着の有用性を示す所見と考えられる。
Letter to the Editor
編集後記
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