日本救急医学会雑誌
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20 巻, 5 号
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原著論文
  • 池田 勝紀, 金 弘, 薬丸 洋秋, 境田 康二, 箕輪 良行
    2009 年 20 巻 5 号 p. 243-251
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS)の最大の予後決定因子は早期の再灌流療法である。American Heart Association Guideline 2005(G2005)では早期トリアージのために病院前心電図診断を行うことが推奨されている。著者らは船橋市ドクターカー(FDC)に12誘導心電計を搭載し,ACSが疑われる患者に対して現場での心電図記録を行い,その所見を加味して病院前診断を試みた。2005年 2 月 1 日から2007年 1 月31日までの 2 年間に,市民からの救急要請内容が「胸痛,冷汗,40歳以上」のkey profileを満たす例にFDCを出動させ,臨床所見に12誘導心電図所見を加味した病院前診断を行った226例を対象とした。平均年齢は,66.9 ± 13.0歳,男女比は160:66であった。226例中,同乗医師により146例が病院前にACSと診断されたが,このうち入院後もACSと確定診断された例は,100例(68.5%)であった。また病院前にACSでないと診断された80例中,入院後 5 例がACSと確定診断された。病院前の診断特性は感度95.2%,特異度62.0%であった。ST上昇群,ST低下群及び非ST変化群に分けると,その感度はそれぞれ96.3%,100%,92.9%,特異度はそれぞれ18.1%,40.0%,69.0%であった。ACSと確定診断された105例中,92例(87.6%)が直接percutaneous coronary intervention(PCI)可能施設に搬送されていたが,2002年に行われた船橋市救急隊による搬送例の転帰調査では,直接PCI可能施設へ搬送された症例はACS386例中281例(72.8%)のみであり,PCI可能施設への搬送率に有意の差が認められた(p<0.01)。医師による臨床所見に12誘導心電図を加味したACSの病院前診断の感度は高く,スクリーニングに有用と考えられる。一方特異度は十分ではなく,その向上には心電図診断の精度向上が必要であり,感度の低下を招かないような工夫が必要と考えられる一方,心電図所見を基にした現場診断の限界を示すものと思われた。
  • 佐藤 誠, 阪本 亮平, 五十嵐 知規, 佐々木 勇人, 仲澤 順二, 菊谷 祥博, 神垣 佳幸
    2009 年 20 巻 5 号 p. 252-257
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    目的:ST-segment elevation myocardial infarction(STEMI)の症例ではdoor-to-balloon time(DTBT)を短縮することが重要である。地方都市の 1 病院において 1 年間に緊急percutaneous coronary intervention(PCI)を施行したSTEMI症例のDTBTを調査し,DTBTの短縮方法を検討する。対象と方法:2007年 4 月から2008年 3 月の 1 年間に中通総合病院救急外来を受診し,STEMIの診断で緊急PCIを施行した18症例を対象とし,DTBTを調査した。また日中搬送例と夜間搬送例,心不全非合併例(Killip I)と合併例(Killip ≥ II),更にPCIのアプローチ部位別に橈骨動脈穿刺例と大腿動脈穿刺例において,それぞれのDTBTを比較検討した。結果:DTBT平均値は76 ± 13分であった。またDTBT90分未満であった症例が89%であった。日中搬送例(71 ± 11分)と夜間搬送例(79 ± 13分),心不全非合併例(Killip I)(79 ± 13分)と合併例(Killip ≥ II)(69 ± 13分),更にPCIのアプローチ部位別に橈骨動脈穿刺例(76 ± 14分)と大腿動脈穿刺例(77 ± 10分)と,それぞれのDTBTの比較検討では有意な差はなかった。結語:当院での2007年度STEMI症例のDTBT平均値は76分であり,初期及び 2 次救急医療を扱う地方病院としては,許容範囲内の結果であった。DTBTの短縮のために,迅速な診断のみならず,スタッフ呼び出しシステムの簡素化,心カテ室から救急部への検査結果のフィードバックなどが有効と考えられた。
症例報告
  • 酒井 智彦, 田崎 修, 松本 直也, 鵜飼 勲, 別宮 豪一, 高橋 幸利, 杉本 壽
    2009 年 20 巻 5 号 p. 258-264
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    フェノバルビタール大量療法で難治性痙攣をコントロールし得た 1 例を経験した。患者は50歳の男性。熱発・全身倦怠感で発症し, 4 日後に,脳髄膜炎を疑われ,前医へ入院となった。入院後から痙攣発作を認めるようになり,痙攣の持続時間は数十秒から30分程度であった。原因検索を行うと同時に,各種抗痙攣薬で痙攣のコントロールが試みられたが,痙攣の頻度は変わらず,前医第 9 病日に当センターへ転院となった。ミダゾラム,サイアミラール,プロポフォールなどの静脈麻酔薬を併用しつつ,抗痙攣薬で痙攣のコントロールを試みたが,痙攣は消失しなかった。経過中,血清中の抗グルタミン酸受容体IgM-ε2抗体が陽性であることが判明し,自己免疫介在性脳炎が強く疑われた。ステロイドパルス療法が著効しなかったため,フェノバルビタールの投与量を段階的に1,200mg/dayまで増量したところ,血中濃度が60μg/mlを超えたところで痙攣が消失した。その後,他の抗痙攣薬を順次中止し,フェノバルビタールの単剤投与としても,痙攣が再発することはなく,第76病日の脳波でも棘波は消失した。痙攣のコントロールに難渋する症例に対して,フェノバルビタール大量療法は効果の期待できる治療法であると考えられた。
  • 山際 武志, 守田 誠司, 大塚 洋幸, 中村 直哉, 中川 儀英, 山本 五十年, 猪口 貞樹
    2009 年 20 巻 5 号 p. 265-269
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    Segmental arterial mediolysis(SAM)は腹部内臓動脈瘤の成因の一つとして近年確立された概念である。急性腹症や出血性ショックで発症することが多く,腹部内臓動脈に数珠状の動脈瘤が多発し,冠動脈や頭蓋内に動脈瘤を合併することも報告されている。病理組織学的に確定診断された報告(会議録は除く)は自験例を含み本邦23例と比較的稀な疾患である。症例は83歳の男性。心窩部痛にて他院入院中に,突然の意識障害とショック症状を呈し当院救命救急センターにドクターヘリ搬送となった。搬送中に心肺停止(心静止)となったが急速輸液及び心肺蘇生により 4 分後に心拍再開し当院に到着した。来院時の循環動態は安定していたため,腹部造影CT検査を施行したところ腹腔内に多量の液体貯留を認め,緊急血管造影を行った。下腸間膜動脈造影にて脾彎曲部に造影剤の血管外漏出所見を認め,脾動脈には数珠状の不整な拡張を認めた。以上からSAMを強く疑ったが,腸管虚血を考慮して緊急開腹手術へ移行した。術中所見では中結腸動脈左枝に出血を伴う動脈瘤の形成を認め,動脈瘤切除を施行した。病理組織学的検査にて,動脈瘤壁に島状の中膜残存所見を認めSAMと確定診断した。術後経過は良好で,第33病日に転院となった。術後 2 年に施行した腹部CT検査で未治療の脾動脈・下腸間膜動脈の数珠状変化はほぼ消失しており,現在まで破裂することなく 2 年 4 か月が経過している。原因不明の腹部内臓動脈瘤に対してはSAMを鑑別疾患の一つとして念頭に置く必要があると考えられた。
  • 秋元 寛, 阿部 紘一郎, 加藤 雅也, 橘高 弘忠, 喜多村 泰博, 西原 功, 大石 泰男
    2009 年 20 巻 5 号 p. 270-274
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    心肺蘇生に伴う胃破裂は稀な合併症である。今回我々は,バイスタンダーによる心肺蘇生(CPR)が原因と考えられる胃破裂の 1 例を経験したので報告する。症例は77歳男性で,朝食摂取中に窒息状態となったため用手的に異物除去した後,呼吸停止に対し胸骨圧迫,マスク換気を行い,心拍再開したため近医へ救急搬送された。胸部単純X線写真にて多量の腹腔内遊離ガス像を認めたため特発性食道破裂の疑いにて当センター転送となった。当センター来院時,バイタルサインは安定していたものの腹部は著明に膨満し気腹状態であった。腹部造影CT検査にて胃体上部小弯側から小網内及び大動脈周囲に遊離ガス像を認めたため,胃噴門部の穿孔と診断し緊急開腹術を行った。開腹すると,食道胃接合部直下から小弯に沿って 7 cm長の全層性裂傷を認め,同部を縫合閉鎖した。術後経過は良好で7日目に他院転院となった。心肺蘇生に際し,不適切な換気による胃拡張状態はそれのみでも胃破裂を来す可能性があるが,胃拡張状態に加えて胸骨圧迫を行うことにより急激に胃内圧の上昇が起こり胃破裂の危険性が高まることを十分注意しておく必要がある。心拍再開後は,循環動態が安定していれば胃破裂を迅速に診断し手術療法を行うことで死亡率を軽減させうると考えられた。
  • 幸部 吉郎, 平澤 博之, 織田 成人, 志賀 英敏, 仲村 将高, 石毛 聡, 小林 英一
    2009 年 20 巻 5 号 p. 275-281
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    症例は58歳の男性。生活保護下で自立支援センターに入所中であった。入所中の同僚と口論になり,顔面や胸部を数箇所にわたりナイフで刺されたため当院に救急搬送された。来院時,右眼球破裂,右前額部切創,両手指切創,右前胸部切創を認め,頭部CTにてクモ膜下出血を認めた。ICUに入室後,右角膜・強膜縫合,眼瞼縫合術を行った。第5病日より歩行時のふらつき,左片麻痺,右眼窩の血管雑音を認め,頭部CTにて右多発脳梗塞を認めた。脳血管撮影にて右内頸動脈海綿静脈洞瘻と診断された。右内頸動脈海綿静脈洞瘻に対し血管内治療による瘻孔塞栓術を 2 回施行するも瘻孔の閉鎖は困難であったため,第26病日に右前頭側頭開頭にて瘻孔部trapping術を施行した。術後経過は良好で血管雑音の消失,左片麻痺の改善を認め,独歩可能となり第75病日に転院となった。経眼窩的穿通性損傷の際には経過中に外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻に伴う神経症状が出現しないか注意深く観察する必要がある。
  • 佐々木 輝夫, 吉田 雄樹, 大間々 真一, 菊地 康文, 小笠原 邦昭, 遠藤 重厚, 小川 彰
    2009 年 20 巻 5 号 p. 282-287
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    外傷性椎骨動脈閉塞は交通事故によるものが多いが,近年スポーツに伴う報告が散見される。相撲の稽古中に発症した 2 例を報告する。症例 1 は17歳の男性で相手の胸に前額部を強打し頭痛・嘔吐を主訴に来院した。magnetic resonance imaging(MRI)で右posterior inferior cerebellar artery(PICA)領域の多発性脳梗塞,magnetic resonance angiography(MRA)・脳血管撮影検査で右椎骨動脈閉塞を認めた。症例 2 は16歳の男性で張り手を顔面に受け,後頸部痛と回転性のめまい,左上下肢のしびれが出現したため受診した。MRIで右延髄外側の脳梗塞,MRA・脳血管撮影検査で右椎骨動脈閉塞を認めた。 2 症例とも外傷性椎骨動脈閉塞に伴う脳梗塞の診断でエダラボンの点滴加療を行い,神経学的脱落症状なく自宅退院した。頭頸部の回旋,過伸展に伴う外傷性椎骨動脈閉塞はスポーツに伴う若年者の閉塞性血管障害の原因の一つであり,スポーツ医学の見地から救急医に注意を喚起する意味で報告する。
臨床医のための疫学シリーズ:地域中核病院で行う臨床研究
  • 小松 裕和, 鈴木 越治, 土居 弘幸
    2009 年 20 巻 5 号 p. 288-293
    発行日: 2009/05/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    わが国においても臨床研究の重要性の認識は確実に高まってきているが,未だ地域中核病院を中心として行われる臨床研究は量的に少なく,質的にも英文での論文化に耐えうるものはほとんど見受けられない。これは臨床医の多くが統計学的な知識を重視するあまり,疫学的視点が不十分であるために起きている現象である。検定やp値を重視する傾向,バイアスについて十分な考察ができていないこと,治療や曝露の影響を定量的に推定しないことなどは,その好例である。臨床研究を行う上で,母集団と標本,サンプルサイズの計算,基本属性の比較,交絡要因の多変量解析による調整などに用いられる統計学の知識はあるに越したことはないが,臨床研究を実施するにあたっては疫学の知識がかなりの程度必要であることが多くの臨床医に理解されていない。とくに研究仮説の明確化,コントロール群の設定,解析モデルの構築,研究結果とバイアスの考察において,疫学的視点がなければ質の高い臨床研究は行うことができないのである。
編集後記
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