日本救急医学会雑誌
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20 巻, 6 号
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原著論文
  • 並木 淳, 山崎 元靖, 船曵 知弘, 堀 進悟, 相川 直樹
    2009 年 20 巻 6 号 p. 295-303
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    【目的】救急患者の意識レベル評価に際し,わが国で広く用いられているJapan Coma Scale(以下JCS)による誤判定の要因を明らかにする。【方法】当救急部で3年間に取り扱った救急車搬入の患者データベースから,頻度の高い8通りの意識レベルをGlasgow Coma Scaleのeye, verbal, motor(以下EVM)スコアに基づいて選択し,模擬患者が演ずる意識レベルを標準的な手順で診察するシミュレーションビデオを作製した。経験の少ない医療従事者として 1 年目初期臨床研修医94人を対象に,ビデオを用いたJCSによる意識レベルの判定テストを行い,その解答結果を解析した。【結果】JCSの誤判定率は, 8 つの設問の平均で19 ± 15%(平均±標準偏差)。JCS 0, 300の誤判定は稀だったが,JCS 2, 10, 200は20%以上の誤判定率であった。設問のJCSスコアと誤判定されたJCSスコアを対比すると,意識レベルを良い方に誤判定する傾向が示され,とくに軽度~中等度の意識障害でその傾向が強かった。設問でシミュレーションされたEVMスコアと誤判定されたJCSスコアを比較した結果,JCS誤判定の主な要因は次の3点であった。1)最良運動反応の「M4:逃避(正常屈曲)」を 「JCS 100:はらいのけるような動作」とする誤り。2)発語反応の「V4:会話混乱(見当識障害)」を「JCS 0:意識清明」とする誤り。とくに最良運動反応が「M6:命令に従う」の場合に「JCS 0:意識清明」と誤判定される。3)開眼反応における「E3:呼びかけによる」をJCS 1 桁とする誤り。とくに発語反応が「V4, 5:会話可能」な場合にJCS 1 桁と誤判定される。【結論】JCSによる救急患者の意識レベル誤判定の主な要因は,逃避と疼痛部位認識の運動反応の区別,見当識障害と意識清明の区別,呼びかけによる開眼反応の判定である。
症例報告
  • 藤野 靖久, 藤田 友嗣, 井上 義博, 小野寺 誠, 菊池 哲, 遠藤 仁, 遠藤 重厚
    2009 年 20 巻 6 号 p. 304-310
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    除草剤のラッソー乳剤®を自殺目的で服毒し、短時間のうちに塩化ベンゼンによると考えられる全身痙攣,循環不全等を呈して死亡した症例を経験した。症例は52歳の男性で,うつ病のため通院中であった。自宅で倒れているところを発見され,救急要請。近くに空のラッソー乳剤® 500 ml入りの瓶が落ちており,服毒自殺による急性薬物中毒の疑いで搬送された。意識レベルはJCS 200,GCS 4(E1V1M2)であった。胃洗浄,活性炭・下剤を投与し,輸液等にて加療開始したが,発見から約12時間後より全身痙攣を発症し,痙攣のコントロール困難となり,頭部CTでは著明な脳浮腫を認めた。更に血圧低下を認め,昇圧剤にも反応しなくなり,発見から約22時間後に死亡した。当科搬入時のアラクロールの血清中濃度は8.0μg/ml,塩化ベンゼンは17.8μg/mlであった。ラッソー乳剤®は主成分がアニリン系除草剤であるアラクロール(43%)で,溶媒として塩化ベンゼンが50%含有されている。アニリン系除草剤中毒ではメトヘモグロビン血症を起こすことが知られているが,本症例では認められなかった。溶媒である塩化ベンゼン中毒では,肝・腎障害の他に脳障害や循環不全がある。本症例のように早期に死に至る大量服毒例では,塩化ベンゼンによる脳障害や循環不全が主な死因になると推測された。
  • 繁光 薫, 高畑 隆臣, 新田 泰樹, 野崎 哲, 三村 哲重
    2009 年 20 巻 6 号 p. 311-316
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    虚血性腸炎の重症型である壊死型虚血性腸炎は,術前診断が困難なことが多く,死亡率も高いとされている。今回,緊急手術を施行し,救命し得た壊死型虚血性腸炎の 3 例を経験した。症例は, 3 例とも高齢女性で高血圧の既往があり,CTにてS状結腸の狭窄及び広範な結腸壊死を疑う所見を認め,緊急手術を施行した。症例 1 は上行結腸近位側から下行結腸まで,症例2・3は横行結腸肝彎曲部から下行結腸S状結腸移行部まで,一部島状に正常粘膜を残して広範な壁肥厚ならびに粘膜壊死を認めたが,病変の肛門側端に器質的狭窄はみられなかった。 3 例ともに結腸亜全摘・上行結腸人工肛門造設術を施行し,術後経過良好にて軽快退院した。病理組織学的に壊死型虚血性腸炎と診断したが,症例1は高度の便秘,症例2・3はOgilvie症候群が契機になった可能性が疑われた。高齢者のイレウスでは本疾患を念頭に置き,腸管壊死が疑われた場合は躊躇せず緊急手術を行うべきである。
  • 庄古 知久, 大友 康裕, 磯谷 栄二, 相星 淳一, 加地 正人, 登坂 直規, 白石 淳
    2009 年 20 巻 6 号 p. 317-324
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    Epstein-Barr(EB)ウイルス感染の経過中に脾臓破裂を来した 1 例を経験し,手術摘出標本におけるEBウイルスに対するin situ hybridization(ISH)法により脾臓への感染を証明し得たので報告する。症例は29歳の女性。 3 週間前より感冒様症状あり。 4 日前より心窩部痛が出現し,近医を受診したが症状は改善しなかった。前医にて腹部CT検査を施行し,脾臓破裂の診断にて当院ERセンターに紹介された。来院時CTにて脾下極にextravasationがあり, 2 度にわたる動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization; TAE)にて脾動脈分枝をコイルで塞栓止血した。入院 3 日目に不穏行動あり,血液検査にて貧血が進行し,超音波検査にて腹腔内出血が増量していたため緊急に開腹術を施行した。脾臓は下極に 3 cmの裂創があり,下 3 分の 2 の被膜が剥がれて,同部からの出血が持続しており,脾全摘術を施行した。術後経過良好にて入院11日目に退院。入院初日の血清EBウイルス特異抗体結果などにより,初感染急性期と診断した。脾臓の病理診断は,白脾髄の辺縁や被膜下の赤脾髄に腫大したリンパ球が多く存在し,免疫染色とISH法の結果,このリンパ球はEBウイルスによる反応性T cellと判明し,脾臓へのEBウイルス感染を直接証明できた。被膜下血腫を主体とした特発性脾臓破裂症例では伝染性単核球症(infectious mononucleosis; IM)を原因の一つとして念頭に置くべきである。TAEなどの保存的治療を目指すべきであるが,被膜下血腫が広範囲に及ぶ場合は,循環動態が安定していても手術療法を考慮すべきである。
  • 矢澤 和虎, 梶川 昌二, 小川 新史, 木口 雄之, 河埜 道夫, 代田 廣志
    2009 年 20 巻 6 号 p. 325-330
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    重症肝損傷の治療において,循環動態が安定していれば保存的治療が選択されることも多いが開腹時期を逸してはならない。開腹の決め手に3 dimension drip infusion cholangiography CT(3D-DIC-CT)が有用であったIIIb型肝損傷の 1 例を経験したので報告する。症例は30歳の男性。マウンテンバイクでダウンヒル中に立ち木に衝突し,右腰背部を打撲した。約 2 時間後にパトロール隊に発見されて,近医に搬送された。血圧90mmHg台であったが初期輸液に反応を示し,その後当院へ転院搬送となった。来院時,血圧125/57mmHg,脈拍66bpm,SpO2 100%(O2 5L)。X線では右多発肋骨骨折と血気胸を認め,focused assessment with sonography for trauma(FAST)で腹腔内液体貯留が認められた。造影CTでは肝後区域主体のIIIb型損傷と診断され,更に右腎上極の挫滅,第2-4腰椎横突起骨折を認めた。循環動態は安定していたため,胸腔ドレーン留置後,保存的治療で経過観察した。血液検査でAST,白血球数は漸減し,腹腔内出血の増悪はなかった。しかし,経時的な腹腔穿刺で血性腹水中のBil値(D-Bil優位)の上昇と,受傷 3 日目に施行した3D-DIC-CTで胆汁の漏出と肝後区域枝胆管の途絶を認めたため,同日緊急開腹した。約2,200mlの血液貯留と肝後区域の挫滅を認め,肝後区域切除を行った。術後経過は良好で術後18日目に退院となった。3D-DIC-CTの画像を再構築することで胆道系損傷の正確な評価が可能であり,手術適応判断に有用である。
  • 大倉 隆介, 小縣 正明, 白鳥 健一, 郡山 健治
    2009 年 20 巻 6 号 p. 331-337
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の女性。下肢外傷で他院入院中に発熱および血液検査で炎症所見があり,皮膚感染症が疑われ抗菌薬を投与されたが改善しなかった。更に腰背部に広範に皮疹が出現し,黒色便を認めたため当院に転院となった。来院時,体温38.1°C,血圧125/69 mmHg,脈拍95/min,呼吸数24/min,室内気にてSpO2 95%。意識レベルはGlasgow Coma Scaleで13点(E4V4M5)。両側腰背部から下肢外側を中心に紅斑を認めた。血液検査では白血球増多,好酸球増多,軽度の貧血,血小板増多,CRP高値などを認めた。腹部CT検査では腰背部の皮下に広範囲に浮腫を伴う炎症所見を認め,MRI検査でも腰背部の皮下組織に広範囲に炎症所見を認めた。上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎を認めた。心臓超音波検査では肺動脈圧の軽度上昇を認めた。皮疹は部位を変えながら持続し,経過中に手指の関節痛と手指および足趾の皮膚硬化を認めた。各種感染症の検体検査を行ったがすべて陰性であった。逆流性食道炎および肺高血圧の所見,更に抗セントロメア抗体陽性であったことから限局型全身性強皮症と診断した。CT像では間質性肺炎の所見は認めなかった。第10病日よりプレドニゾロン20 mg/dayの投与を開始したところ,速やかに解熱し皮疹も著明に改善した。第17病日に急性心筋梗塞を起こし,著明な心機能の低下を認めたが,全身状態より保存的治療を選択して病状は安定した。以後はプレドニゾロンを漸減し,意識も次第に清明となり,第66病日に退院となった。来院時の発熱は全身性強皮症の増悪によるもの,また浮腫性紅斑は抗菌薬による薬疹によるものと考えられた。膠原病やアレルギー性疾患の急性期は感染症との鑑別に苦慮するが,プロカルシトニンを用いた速やかな感染症の除外が有用と考えられた。
臨床医のための疫学シリーズ:地域中核病院で行う臨床研究
  • 小松 裕和, 鈴木 越治, 土居 弘幸
    2009 年 20 巻 6 号 p. 338-344
    発行日: 2009/06/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    論文の読み方(批判的吟味critical appraisal)は研究を行う上で基本的な技術であり,最近ではEBMの実践にあたり臨床医にも求められる能力になっている。論文を読むことを苦手とする臨床医は非常に多いが,筆者らは疫学の基本的知識と論文の書き方について勉強することが,論文を読む技術を習得する一番の近道ではないかと考えている。疫学の基本的知識としては,曝露(治療)のアウトカムへの影響を定量的に推定するために必要な疫学指標と効果指標についての理解,バイアスを考えるのに必要な研究デザインについての理解が非常に重要である。一方,論文の読み方に関しては,論文の段落構造を理解し,段落ごとに読んでいく「パラグラフリーディング」が行えるようになれば,論文を読む効率は飛躍的に向上する。そして,論文の書き方に関する各種ガイドラインを参考にしながら,論文を読んでいくことは一番のトレーニングである。
Letter to the Editor
編集後記
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