日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
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21 巻, 3 号
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総説
  • 久志本 成樹, 横田 裕行, 宮内 雅人, 川井 真, 辻井 厚子, 金 史英
    2010 年 21 巻 3 号 p. 101-117
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    敗血症における臓器不全の発現には,侵入病原微生物に対する過剰炎症反応が重要である。しかし,この理論的根拠は,高用量のエンドトキシン(ET)や細菌によるサイトカインストームモデルでの基礎研究結果であり,臨床病態を必ずしも反映しない。過剰炎症反応では説明できない臓器不全の遷延が予後を規定している。敗血症の病態は以下のような視点からの捉えることができる。(1)過剰炎症反応は,従来考えられていたほど長期間に及ばず,早期からの免疫抑制状態の存在が示唆される。剖検で共通してみられる細胞死は,リンパ球と腸上皮細胞のapoptosisであり,免疫担当細胞のapoptosisは急性期からの免疫抑制に関与しうる。(2)組織学的変化では説明のできない臓器機能障害には,ミトコンドリア機能障害が注目されている。細胞死がわずかであるにもかかわらず,臓器機能障害が認められることを支持するものであり,cytopathic hypoxiaとして捉えうる。ETは詳細に研究されている毒素であり,生理的状態の消化管内に約25gが貯蔵されるが,生体への少量の投与により敗血症病態が再現される。従来のETを標的とした抗体による臨床研究では転帰の改善を証明しえたものはない。EUPHAS trialは,腹腔内感染によるsevere sepsis/septic shockを対象として,ポリミキシンB固定化ファイバーによる血液吸着療法(PMX-DHP)による,(1)循環動態,(2)呼吸機能,SOFA(sequential organ failure assessment)score,28日死亡率などを検討したものである。PMX-DHPは循環動態の改善のみでなく,28日死亡率の改善を示し,中間解析にて中止基準を満たしたため64例にて中止された。本治験に関わる疑問点は,(1)ETレベルが測定されていないが,ET除去により効果が得られたものか? (2)治療対象として重要な白血球減少,血小板減少症例が含まれていない,(3)標準療法群では循環動態の改善がないのか? (4)標準療法群の28日死亡率 53%は高すぎないか? (5)ETの完全な除去が重要か? PMX-DHPは免疫抑制状態を改善するか? (6)64例エントリーでの中止は尚早,などが挙げられる。本治験結果は,わが国の診療を再認識するとともに,世界に影響を与える可能性がある。
原著論文
  • Eiji Inagaki, Kayo Nemoto, Norifumi Ninomiya, Saori Ishinokami, Minoru ...
    2010 年 21 巻 3 号 p. 118-125
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    2-arachidonoyl glycerol (2-AG), an endogenous cannabinoid, has been drawing much attention as an early stage mediator at the onset of sepsis. In the present study, we investigated weather rimonabant, one of the CB1 antagonists, alleviated the medical conditions during endotoxemia and measured the level of prostaglandin E metabolite (PGEM). A cylindrical electric transmitter was connected to the transducer via a cable embedded beneath the animal's dorsal skin and sutured in place. Signals from the transmitter were detected by a receiver placed directly beneath the cage via telemetry. We monitored arterial pressure via catheter in the carotid artery and administrated drugs via catheter in jugular vein. We separated animals into three groups. The control group received lipopolysaccharide (LPS, 0.3 mg/kg, i.v.) and vehicle i.v. Experimental animals received LPS and rimonabant (1, 3 mg/kg/h) i.v. Ten minutes after the injection of the vehicle or rimonabant, LPS (0.3 mg/kg, i.v.) was administered. The prostaglandin E metabolites (PGEM) levels were measured by EIASA. In the control group, LPS induced intestinal paralysis and the decline in blood pressure peaked 1-3h after administration of LPS. In rimonabant-treated group, rimonabant inhibited LPS-induced intestinal paralysis and hypotension. Levels of PGEM in guinea pig was increased by LPS-administrate, rimonabant inhibits PGEM increase. The results suggest that rimonabant was effective against LPS-induced endotoxemia in guinea pigs.
症例報告
  • 大間々 真一, 吉田 雄樹, 小笠原 邦昭, 遠藤 重厚
    2010 年 21 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    経皮的気管切開術は,簡便かつ迅速に気管切開を行うことができるが,皮下気腫,縦隔気腫,気胸など気腫合併症を起こすことが報告されている。我々は経皮的気管切開術を行い,大量の皮下気腫,縦隔気腫,および気胸を合併した1例を経験し,その合併症の予防策について考察したので報告する。症例は急性硬膜下血腫,脳挫傷,肺挫傷の56歳の女性で,呼吸状態が安定し人工呼吸器より離脱後,経口気管チューブを抜管したが,その後呼吸障害が出現したため再挿管した。再挿管翌日にBlue Rhino法により経皮的気管切開術を行ったが,術中に経口気管チューブを先に抜去してしまい,術直後から頸部と前胸部に大量の皮下気腫,縦隔気腫,右気胸を認めた。術中の不十分な上気道確保と気管切開チューブ挿入操作中に頸部の皮膚切開部がチューブにより閉塞したため,咳嗽で生じた高圧の呼気が排出されず,気管切開部より皮下に進入して気腫が発生したと考えられた。Blue Rhino法は気管穿刺部を拡張し気管切開チューブを挿入する際に気道確保が不十分であると,咳嗽反射等により気道内圧の上昇を起こしやすい。適切な鎮静や気管切開チューブ挿入完了まで経口気管チューブを抜去せずに術中の気道を確保することが,気腫合併症回避に重要であると思われた。
  • 松尾 崇史, 菅 健敬, 大塚 康義, 宇城 敦司, 嶋岡 英輝, 日野 秀樹, 山上 啓子
    2010 年 21 巻 3 号 p. 131-136
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    近年胃管潰瘍は,食道癌術後合併症のひとつとして認識されてきている。胃管潰瘍の穿孔は致命的であり,消化器以外の症状にも注意しなければならない。症例は72歳の男性で,過去に食道癌に対し食道亜全摘と後縦隔再建を行っていた。入院6か月前より胃管潰瘍を認め,保存的加療するも悪化していた。入院当初は肺炎として加療していたが,画像上で心嚢水が貯留,発熱と炎症反応高値が続き,精査中に突然のショックとなり,ICUに入室となった。入室後は抗菌薬,昇圧薬と輸血で一時ショックから離脱できたが,最終的に出血性ショックで永眠された。病理解剖で胃管潰瘍からの右心房穿孔が判明した。今回の症例を通して,食道癌術後合併症として,胃管潰瘍が重篤な状態を惹起することを十分認識し,潰瘍側が心嚢に接している場合や保存的加療に抵抗性のときは,心タンポナーデや心房穿孔に対する診断,治療の時機を失しないことが肝要である。
  • 村井 謙治, 吉田 健史, 林下 浩士, 有元 秀樹, 鍜冶 有登
    2010 年 21 巻 3 号 p. 137-142
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性。鬱病で入院中,呼吸困難のため他院に搬送され,肺炎に対して気管挿管,人工呼吸管理が行われ,第13病日に抜管,呼吸状態は安定していた。第18病日に元の病院へ帰院,軽度の嗄声を認めた。帰院後10日目に他病院外来を受診し,軽症の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。18日目から安静時呼吸困難が出現し,吸気時および呼気時の狭窄音を聴取し喘息と診断された。23日目には喘鳴,奇異呼吸,胸郭の陥凹を認め,別病院で上気道狭窄または閉塞が疑われた。同日,努力性陥没呼吸が出現,心肺停止となり,当センターへ救急搬送された。その後,自己心拍は再開したが,気管挿管チューブが18cmより進まず,CTで甲状腺下端レベルから約2.5cmにわたり気管壁が全周性に肥厚した気管狭窄を認めた。気管切開し,呼吸管理を開始したが,翌日,血圧が低下し死亡した。病理組織検査では肥厚部分は肉芽組織であり,肺炎治療時の挿管に起因すると考えられた。挿管歴のある呼吸困難症例では,挿管後気管狭窄を念頭に置き診断・治療を進める必要がある。
研究速報
編集後記
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