背景:鈍的外傷による早期の死亡は大量出血によるものが大半である。その原因として,臓器損傷や血管損傷による直接的な出血と凝固障害を原因とする出血の2つの側面がある。今回,鈍的外傷患者では治療開始前の搬入直後に線溶亢進が認められ,その線溶亢進が凝固障害による大量出血と関係があるとの仮設を立て,受傷現場から直接搬入された鈍的外傷患者を対象に搬入直後の凝固線溶系の検査結果と大量出血の関係を後ろ向きに検討した。
方法:2005年1月1日から2006年12月31日の間に,受傷現場から北海道大学病院先進急性期医療センターに直接搬入となったabbreviated injury scaleが3以上の損傷を含む鈍的外傷症例を対象とした。対象患者の診療録から,患者背景,搬入直後の血液検査結果,輸血量などの情報を後ろ向きに収集し,大量出血群と非大量出血群に分類した。
結果:83名が参入基準を満たした。大量出血群は17症例,非大量出血群66症例であった。fibrin/fibrinogen degradation products(FDP)とD-dimerに関しては,両群とも著明な高値を示し,大量出血群が非大量出血群と比較して統計学的な有意差を認めていた。ロジスティック回帰分析ではFDPのみが大量出血の独立した予測変数として選択された。大量出血予測に関するreceiver operating characteristic曲線では,FDPが最も大きな曲線下面積を示した。
結語:鈍的外傷患者では,搬入直後にフィブリン/フィブリノゲン分解に伴うFDPの異常高値を示しており,FDP>64.1μg/mlをカットオフ値とすることで,外傷早期の線溶亢進を原因とする大量出血を予測しうることを示した。鈍的外傷患者の搬入直後のFDP値に注目することにより,外傷早期の凝固障害に対して速やかに対応できる可能性がある。
抄録全体を表示