日本救急医学会雑誌
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21 巻, 4 号
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総説
  • 岸 泰宏, 黒澤 尚
    2010 年 21 巻 4 号 p. 147-158
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    日本におけるコンサルテーション・リエゾン精神医学と救急医療との関係は非常に深く,救急医療の発展とともに産まれ,発展してきたといっても過言ではない。その救急医療との関わりには様々なスタイルがある(一般的に精神科リエゾンは病棟に精神科医が常駐し,精神疾患に対応する方法を指すことが多い。それに対し精神科コンサルテーションは身体科医からの依頼により精神疾患に対応する方法をいう)。bio-psycho-socialな問題を抱えた複雑な症例が多い救命救急センターでは,リエゾン精神医療が推奨され実践的と捉えられている。臨床場面において,自殺企図患者のケア,せん妄をはじめとした精神症状の緩和など多くの課題があるが,確立した効果的な介入方法は,いまだない。いくつかの身体救急疾患においての臨床研究では精神科介入による様々な利益が示されており,今後臨床に導入されていくであろう。総合病院における精神科医のマンパワー不足も深刻化しており,とくに救急領域では高齢化を含めてpsycho-socialな面で複雑な症例が増加しているため,多職種を巻き込んだ効果的なコンサルテーション・リエゾン・チームの構築が必要である。救急医療現場では,臨床ならびに研究において,自殺患者の再企図予防,急性身体疾患に伴う様々な精神症状の治療など課題が多い。精神医療が救急医療にさらに強く関与していく必要がある。
原著論文
  • Takeshi Takahashi, Shu Yamada, Chikako Shimizu, Maki Kitada, Toshihiro ...
    2010 年 21 巻 4 号 p. 159-164
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    Background: The appearance of extensive early computed tomography (CT) signs is considered as a contraindication for thrombolytic therapy. However, to date, no report has been published on the timing of the appearance of CT signs. We therefore investigated the time after onset until the appearance of early CT signs in patients with middle cerebral artery (MCA) trunk or common carotid artery (CCA)/internal carotid artery (ICA) embolisms. Methods: The time from onset until an initial CT scan, the subtypes of ischemic stroke and the appearance of early CT signs were investigated in early ischemic stroke patients with lesions of the CCA/ICA or MCA trunk who had been transported to our emergency and critical care center between 2002 and 2007. Results: A total of 104 patients (CCA/ICA, n=23; MCA trunk, n=81) were examined. The results indicated that the rate of the appearance of early CT signs was 0% at less than 0.5 hours after onset; on the other hand, the rate was 100% at 1.5-2 h and 2-3 h after outset. A significant difference in the timing of the initial CT brain scan (p<0.0001 Wilcoxon test) was seen between the group without early CT signs (n=37) and the group with early CT signs (n=67). The boundary line between the two groups apparently occurred 0.5-1.0 hours after the onset period. Thus, most early CT signs appeared 0.5-1.0 hours after onset (p<0.0001 Wilcoxon test). Conclusions: The present results could be useful when making decisions regarding the timing of thrombolytic therapy.
  • 早川 峰司, 和田 剛志, 菅野 正寛, 下嶋 秀和, 上垣 慎二, 澤村 淳, 丸藤 哲
    2010 年 21 巻 4 号 p. 165-171
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    背景:鈍的外傷による早期の死亡は大量出血によるものが大半である。その原因として,臓器損傷や血管損傷による直接的な出血と凝固障害を原因とする出血の2つの側面がある。今回,鈍的外傷患者では治療開始前の搬入直後に線溶亢進が認められ,その線溶亢進が凝固障害による大量出血と関係があるとの仮設を立て,受傷現場から直接搬入された鈍的外傷患者を対象に搬入直後の凝固線溶系の検査結果と大量出血の関係を後ろ向きに検討した。方法:2005年1月1日から2006年12月31日の間に,受傷現場から北海道大学病院先進急性期医療センターに直接搬入となったabbreviated injury scaleが3以上の損傷を含む鈍的外傷症例を対象とした。対象患者の診療録から,患者背景,搬入直後の血液検査結果,輸血量などの情報を後ろ向きに収集し,大量出血群と非大量出血群に分類した。結果:83名が参入基準を満たした。大量出血群は17症例,非大量出血群66症例であった。fibrin/fibrinogen degradation products(FDP)とD-dimerに関しては,両群とも著明な高値を示し,大量出血群が非大量出血群と比較して統計学的な有意差を認めていた。ロジスティック回帰分析ではFDPのみが大量出血の独立した予測変数として選択された。大量出血予測に関するreceiver operating characteristic曲線では,FDPが最も大きな曲線下面積を示した。結語:鈍的外傷患者では,搬入直後にフィブリン/フィブリノゲン分解に伴うFDPの異常高値を示しており,FDP>64.1μg/mlをカットオフ値とすることで,外傷早期の線溶亢進を原因とする大量出血を予測しうることを示した。鈍的外傷患者の搬入直後のFDP値に注目することにより,外傷早期の凝固障害に対して速やかに対応できる可能性がある。
症例報告
  • 田口 博一, 太田 祥一, 大高 祐一, 織田 順, 三島 史朗, 行岡 哲男
    2010 年 21 巻 4 号 p. 172-176
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    冠動脈起始異常は,生来健康な若年者に突然発症することが多いので,突然死の前に医療機関を受診することは少なく,たとえ受診したとしても無症状時の一般的な心電図や心臓超音波検査などで所見が得られにくい。これらの理由から本症が心停止前に診断されることは稀である。今回我々が経験した症例は,生来健康な22歳男性でバスケットボールのクラブ活動中に発症,心肺停止で搬送された。剖検で右冠動脈起始異常が確認され,死因として疑われた。本症例は既往に2回の失神があった。失神は救急外来では比較的頻度の高い症候であるが,受診時に本症のような致死的な原因を鑑別することは必ずしも容易ではない。若年者とくにスポーツ愛好者の反復する失神は,本症を積極的に疑い,マルチスライスCTを行うことで心停止前に本症が診断でき,若年者の突然死が予防できる可能性が示唆された。
  • 尾中 敦彦, 岡 博保, 佐野 秀, 切通 雅也, 松阪 正訓, 当麻 美樹, 塩野 茂
    2010 年 21 巻 4 号 p. 177-184
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    鈍的腎血管損傷の診断におけるmultidctector-row CT(MDCT)の有用性に関する報告は少ない。今回,鈍的腎血管損傷がMDCTで描出された4症例を報告する。症例1:20歳,男性。左腎損傷(日本外傷学会腎損傷分類2008 IIIa (lM) H1),脾損傷,左肺挫傷を認めた。血管造影では血管外漏出像および仮性動脈瘤を認めたが,MDCTでは仮性動脈瘤は描出されなかった。症例2:58歳,男性。左腎損傷(IIIa (lM) H1)を認めた。血管造影およびMDCTでは血管外漏出像を伴うsegmental arteryが描出された。症例3:75歳,女性。左腎損傷(IIIb (lU) H2),胸部大動脈損傷を認めた。血管造影およびMDCTでは血管外漏出像を伴う腎動脈後枝が描出された。症例4:67歳,男性。右腎損傷(IIIb (rM) H2)を認めた。非選択的TAEおよび右腎摘出術を施行した。血管造影およびMDCTでは仮性動脈瘤と血管外漏出像を伴うsegmental arteryが描出された。これら4症例では鈍的腎血管損傷6損傷(血管外漏出像4例,仮性動脈瘤2例)が血管造影で確認された。そのうち仮性動脈瘤1例を除いた5損傷が最初のMDCTでも描出された。治療は全例に動脈塞栓術を行い,症例3と4では動脈塞栓術後に腎摘出術を行った。自験例では,MDCTは鈍的腎血管損傷を描出することが可能であった。
  • 清水 健太郎, 小倉 裕司, 中川 雄公, 松本 直也, 鍬方 安行, 霜田 求, 田中 裕, 杉本 壽
    2010 年 21 巻 4 号 p. 185-190
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    生体肝移植のドナーとしての意思決定に対して家族間で軋轢が生じ,臨床倫理問題について検討が必要であった症例を経験したので報告する。症例は40代,女性。薬剤性肝障害で意識障害が進行するため当院へ転院となった。来院時,肝性脳症III度,PT 19%,総ビリルビン濃度26.6mg/dlであった。集中治療を行ったが患者の意識状態が悪化したため,家族に最後の治療手段として生体肝移植の選択肢を提示した。ドナー候補は離婚した父親だけであった。父親は移植ドナーを希望したが,内縁の妻は手術に反対であった。手術までの過程で家族関係は急激に悪化したが,最終的には医学倫理委員会でドナーの同意権の妥当性を確認した上で,父親の意思を尊重して手術が行われた。患者は,肝不全,敗血症を合併して数カ月後に死亡した。意識障害を伴う難治性の急性肝不全症例では,最後の治療手段として生体肝移植を患者家族に提示した時点で,ドナー候補は,「自由な意思決定」が望まれるが,「時間的制約」の中で心理的圧力を受ける。ドナー候補の意思決定のいかんに関わらず,ドナー候補・家族に対する心理的な支援体制が必要である。
  • 山田 法顕, 中野 志保, 豊田 泉, 吉村 紳一, 岩間 亨, 古井 辰郎, 小倉 真治
    2010 年 21 巻 4 号 p. 191-197
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    妊娠中は非妊娠期に比較し,脳血管障害発症のリスクは決して高くなく,とくに脳梗塞では,むしろそのリスクは低くなる。今回妊娠39週に発症し,早期に診断・治療し得た脳梗塞の1例を経験したので文献的考察を加え報告する。症例は34歳,女性。既往に特記すべきことなし。病歴:妊娠39週2日。14時45分頃に構音障害,左片麻痺を主訴に救急要請。16時16分病院到着。来院時軽度の見当識障害を認めたがvital signは安定。構音障害と左不全麻痺を認めた。初療時National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)は8点。発症2時間後のcomputed tomographyで右中大脳動脈領域において皮髄境界の不明瞭化を認めた。発症2時間30分後のmagnetic resonance imagingでは拡散強調画像にて右中大脳動脈領域に高信号域を認め,脳梗塞と診断し血栓溶解療法の適応と判断した。しかし,妊婦であり,胎児への影響および出産に与える影響を考慮し,種々の治療手段の中から,urokinase動注の選択となった。治療後患者のNIHSSは1点まで改善し,第3病日に帝王切開にて女児(体重2,616g,apgar score 8点)を出産した。その後母児とも問題なく経過し,第17病日に退院した。経過中に膠原病,先天性の凝固異常および血管炎症候群等の検索を施行しているが,明らかな疾患は指摘できなかった。本症例は,34歳という若年で脳梗塞を発症した症例であり,妊娠39週2日での発症であるため胎児と母体双方への影響を考慮しつつ時間的制約をもって治療方針の決定をする必要から,その判断に難渋する症例であった。今後妊婦に対する血栓溶解療法の適応の検討が必要である。
  • 前田 宜包, 樫本 温, 平山 雄一, 山本 信二, 伊藤 誠司, 今野 述
    2010 年 21 巻 4 号 p. 198-204
    発行日: 2010/04/15
    公開日: 2010/06/05
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性。単独で登山中,富士山8合目(海抜3,100m)で突然昏倒した。居合わせた外国人医師が救助に当たるとともに同行者が8合目救護所に通報した。自動体外式除細動装置(automated external defibrillator; AED)を持って出発し,昏倒から30分後胸骨圧迫を受けている傷病者と接触した。AEDを装着したところ適応があり,除細動を施行した。まもなく呼吸開始,脈を触知した。呼吸循環が安定したところでキャタピラ付搬送車(クローラー)で下山を開始。5合目で救急車とドッキングし,約2時間後山梨赤十字病院に到着した。第1病日に施行した心臓カテーテル検査で前下行枝の完全閉塞,右冠動脈からの側副血行路による灌流を認めた。低体温療法を施行せずに第1病日に意識レベルJCS I-1まで回復し,とくに神経学的後遺症なく4日後に退院となった。富士山吉田口登山道では7合目,8合目に救護所があるが,2007年から全山小屋にAEDを装備し,山小屋従業員に対してBLS講習会を施行している。今回の事例はこれらの取り組みの成果であり,healthcare providerに対するBLS・AED教育の重要性が再確認された。
編集後記
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