日本救急医学会雑誌
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21 巻, 7 号
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総説
  • 武山 直志, 田中 孝也, 加納 秀記, 野口 宏
    2010 年 21 巻 7 号 p. 327-342
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    救急集中治療領域で扱う重症疾患は 臓器不全を併発する場合が多く,しばしば高額な医療費が費やされる。また集中治療を要する患者は単一疾患でないこと,全身性の複雑な病態を呈する場合が多いことなどより,治療効果の評価や施設間での比較に際しては,患者対象を層別化する重症度評価法が必要である。ICUにおける死亡率は不全臓器数と各臓器不全の程度に左右されるため,臓器機能障害度指標も重要となる。本稿では年代別に3種類の総合的全身重症度指標と4種類の多臓器不全重症度指標を示すとともに,4種類の個別疾患・臓器重症度指標に関して概説する。正確な重症度判定は,発症早期の重症例の検出と適切な治療法の選択へと繋がり,救命率の向上に寄与する。
症例報告
  • 小林 辰輔, 松田 潔, 岩瀬 史明, 宮崎 善史, 雨森 俊介, 菊地 広子, 中島 雅人
    2010 年 21 巻 7 号 p. 343-350
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    鈍的腹部大動脈損傷は稀な外傷であり,小児発生例は本邦における過去報告例はない。症例は12歳男子で,湖上で水上バイクにぶら下がっていたところ,他の水上バイクが患者の腰部に衝突し,水上バイク間で挟まれて腹部を強打した。近医に搬送後,腹部単純CTにて後腹膜出血を認め,大血管損傷疑いにてヘリコプターで当センター搬送となった。来院時出血性ショック状態で急速輸液・輸血を開始した。造影CTで腹部大動脈損傷と診断した。腹部大動脈造影で,腹部大動脈本幹末端より仮性動脈瘤形成と造影剤の漏出がみられ,選択的動脈塞栓術での止血は困難であった。腹部大動脈に大動脈閉塞バルーンカテーテル(intra-aortic balloon occluder; IABO)を挿入し,バルーンを拡張した後,緊急開腹手術を施行した。腹部大動脈末端後壁に2cm程の縦走する全層性損傷を認め,損傷部を縫合修復し手術を終了した。術後経過良好であり,第16病日自宅退院となった。小児においては,動脈の細さのために挿入に困難を伴うものの,後腹膜開放に先行したIABOによる腹部大動脈遮断は,出血の制御に有用であると思われた。
  • 福井 貴巳, 水井 愼一郎, 桑原 生秀, 日下部 光彦, 高橋 恵美子
    2010 年 21 巻 7 号 p. 351-357
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性。突然の強い右側腹部痛により救急車にて当院救急外来を受診。腹部CTにてS7の肝細胞癌破裂と診断され緊急入院となった。入院後,出血性ショックとなったため化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization; TACE)を施行しショックより離脱した。TACE後3日目より急性間質性肺炎による呼吸不全となったため,人工呼吸器管理,ステロイドパルス療法など施行し改善した。また,TACE後20日目には胆嚢壊死穿孔による胆汁性腹膜炎を発症したが,経皮的ドレナージ術にて改善し退院した。その後,4か月後に2回目,8か月後に3回目のTACEを施行。破裂後約11か月経過したが,肝内転移,腹膜播種を認めないため,当院外科にて肝右葉切除術,横隔膜合併切除術,胆嚢摘出術を施行した。病理所見は中~低分化型肝細胞癌であった。術後経過は良好で,術後18日目に退院となった。現在,術後約2年9か月経過したが,再発徴候は認められない。肝細胞癌破裂による出血性ショックに対して,肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization; TAE)により一時止血を施行し,全身状態が改善後に再度病変の検索,評価を行い,その後に二次的肝切除術を施行すれば良好な予後が得られる可能性がある。
  • 澤村 淳, 早川 峰司, 下嶋 秀和, 久保田 信彦, 上垣 慎二, 丸藤 哲, 黒田 敏
    2010 年 21 巻 7 号 p. 358-364
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    クモ膜下出血は突然死の主要原因の一つである。我々は院外心肺機能停止で発症したクモ膜下出血症例で神経学的予後良好例を報告する。症例は52歳男性。交通事故が発生し,心肺停止が目撃された。すぐにbystandar心肺蘇生法が施行された。ドクターカーを含めた救急隊が要請され,救急医は当院到着まで気管挿管を含めたadvanced cardiopulmonary life supportを施行した。心肺停止発症から23分後に心拍再開し,直後に初療室へ搬入となった。意識レベルはE1VTM5であった。心電図はV1からV5誘導でST上昇を認め,心筋虚血が示唆された。頭部CTの結果,右半球に優位な瀰漫性のくも膜下出血を認めた。脳血管撮影では右中大脳動脈分岐部に嚢状動脈瘤を認めた。World Federation of Neurosurgical Societies分類ではGrade IV,Fisher CT分類ではIII群と診断した。しかし,眼球偏視が消失,対光反射が出現し,上肢の運動も活発に認められたことから,脳動脈瘤頸部クリッピング術を目的に開頭手術を施行した。患者は第18病日に神経脱落症状なく独歩で退院した。Bystandarによる発症直後からの心肺蘇生法や集中治療は院外心肺停止で発症したクモ膜下出血症例の生存率や機能的予後を改善する可能性がある。
  • 中尾 彰太, 渡部 広明, 松岡 哲也
    2010 年 21 巻 7 号 p. 365-371
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    高マグネシウム(Mg)血症は,その多くが医原性とされ,Mg製剤投与で起こる比較的稀な病態である。我々は,便秘症に対して処方された酸化マグネシウム(MgO)の長期内服により,重症高Mg血症を来した3例を経験したので報告する。3例とも当院来院時には血清Mg濃度が15mg/dlを超えており,血圧低下や意識障害を来していた。全例グルコン酸カルシウムを投与するとともに,1例は持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)を,1例は血液透析(hemodialysis; HD)を施行して治療したが,最終的に1例は救命できなかった。従来,MgOのように1回投与当りのMg含有量が少ないMg製剤による重症高Mg血症のリスクは高くないとされてきたが,本症例のような長期投与は,重症高Mg血症の危険因子となり得るため注意が必要である。また高Mg血症の症状は非特異的であるため,積極的に疑わなければ早期診断が困難であり,しかも診断と治療が遅れれば致死的となり得る。このため,便秘症に対してMg製剤を長期間処方する際には,高Mg血症発症の可能性を想定し,必要に応じて血清Mg濃度の測定を施行することも含めた経過観察を行うべきである。
  • 太田 好紀, 松田 直之, 田崎 淳一, 山畑 佳篤, 鈴木 崇生, 西山 慶, 小池 薫
    2010 年 21 巻 7 号 p. 372-376
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    症例は87歳の女性。意識障害を主訴に救急搬送された。搬入時にはショックを呈していた。腹部造影CTで造影剤の血管外漏出像は指摘できなかったものの,右総腸骨動脈の血管壁が不整であり,出血点と判断し,右総腸骨動脈瘤破裂と診断した。出血性ショックではあるものの輸液への反応が良好であったこと,両側総腸骨動脈に瘤を認め,破裂瘤と共に外科的治療を検討したが,高齢,開腹術の既往,高血圧,認知症といった背景から開腹術をハイリスクと評価したことから,侵襲度の低い endovascular aneurysm repair(EVAR)を選択した。本症例のEVARは両側内腸骨動脈を閉塞し,ステントグラフトを留置する方針とした。EVAR施行後は血行動態が安定し合併症もなく,社会復帰が可能となった。輸液に反応する出血性ショックで,開腹術にハイリスクを有する総腸骨動脈瘤破裂に対しEVARが有用である可能性が示唆された。
  • 畠山 淳司, 武居 哲洋, 伊藤 敏孝, 竹本 正明
    2010 年 21 巻 7 号 p. 377-382
    発行日: 2010/07/15
    公開日: 2010/09/20
    ジャーナル フリー
    アカラシアに伴う巨大食道により,気道閉塞を来した症例を報告する。77歳の女性が,突然の呼吸困難のため当院に救急搬送された。入室時の意識はGlasgow coma scaleでE3V1M4,吸気時喘鳴と奇異性の努力呼吸を認めた。肺胞呼吸音はほとんど聴取できなかった。血液ガス分析で,著明な呼吸性アシドーシス(pH 6.96,PaCO2 150mmHg)を認めた。上気道閉塞を疑い緊急喉頭内視鏡を施行したが,声門部までの気道に異常はなかった。胸部CTで最大径82mmと拡張した食道が,胸骨切痕周囲の気管を圧排閉塞していた。緊急気管挿管により,呼吸促迫と意識障害は速やかに改善した。過去の文献をレビューしたところ,37例のアカラシアによる気道閉塞症例を渉猟し得たが,本症例を含めそのほとんどが高齢女性であった。一般にアカラシアには,好発年齢や性差を認めないためその原因を考察したが,説明できる因子を指摘できなかった。急性呼吸困難を呈する症例の鑑別診断として,とくに高齢の女性ではアカラシアによる気道閉塞も念頭に置く必要がある。
編集後記
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