日本救急医学会雑誌
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21 巻 , 9 号
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総説
  • 丸藤 哲, 澤村 淳, 早川 峰司, 菅野 正寛, 久保田 信彦, 上垣 慎二, 平安山 直美
    2010 年 21 巻 9 号 p. 765-778
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    外傷急性期の凝固線溶系の変化に関してEducational Initiative on Critical Bleeding in Trauma(EICBT)から新しい病態概念である「Coagulopathy of Trauma」と「Acute Coagulopathy of Trauma-Shock(ACoTS)」が提唱された。しかし,これらの診断基準は存在せず,両者の本態は従来から独立した病態として存在する線溶亢進型DIC(disseminated intra vascular coagulation)に一致する。診断基準がないことが同概念と線溶亢進型DICおよび類似病態との鑑別を不可能としている。これらの理由により「Coagulopathy of Trauma and ACoTS」は,独立した疾患・病態概念ではなく定義不能な臨床状態として位置づけることが可能である。このような曖昧な概念を外傷急性期の凝固線溶系変化の病態生理解明のために使用すべきではない。外傷急性期の凝固線溶系異常は線溶亢進型DICで説明可能であり,線溶亢進型DICは従来どおり正しく線溶亢進型DICと呼称されるべきである。
原著論文
  • 鈴木 梢, 武居 哲洋, 伊藤 敏孝, 竹本 正明, 藤澤 美智子
    2010 年 21 巻 9 号 p. 779-785
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    背景:救急外来受診後に,診断の過程でがんの存在が明らかになることがしばしばあるが,その詳細な実態は報告されていない。そこで我々は,救急外来受診を契機にがんと診断された症例の頻度や特徴を検討した。方法:2007年4月から7月までの4ヶ月間に,当院救急外来を受診した成人患者(ER群)について後ろ向きに診療録を調査し,受診を契機に救急外来で,あるいはその後の入院や外来通院中にがんと診断された症例を抽出した。一般新患外来受診患者(対照群)についても,同様の方法でがん症例を抽出した。これらの症例の受診方法,がんの部位,診断の鍵となった検査,診断までの経緯,受診時の症状,治療,6ヶ月後の転帰について検討した。結果:調査期間にER群でがんと診断された症例は5,587例中48例(0.86%)であり,対照群の診断率(2.32%)の約1/3であった(p<0.001)。70歳以上に限ると診断率はそれぞれ2.03%および4.05%に増加した(p=0.04)。救急外来でがんと診断された症例の78%はCT検査が鍵となっていたが,後日診断された症例の67%は消化管内視鏡検査が鍵となっていたのが特徴的であった(p<0.001)。ER群で最も多い主訴は腹痛(31%)であったのに対し,対照群の33%は無症状で受診していた(p<0.001)。ER群では,根治術施行症例が対照群より有意に少なく(46 vs 80%,p=0.035),6か月後の生存も有意に少なかった(38 vs 60%,p=0.042)。結論:当院の救急外来受診を契機にがんと診断される症例は成人の0.86%,70歳以上の2.03%であり,決して無視できない頻度と考えられた。救急外来受診患者に対しても,常にがんを鑑別診断に入れる必要がある。
  • 鶴田 良介, 有賀 徹, 井上 健一郎, 奥寺 敬, 北原 孝雄, 島崎 修次, 三宅 康史, 横田 裕行
    2010 年 21 巻 9 号 p. 786-791
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    目的:熱中症患者のバイタルサインや重症度に関する疫学データは少ない。人工呼吸管理を要した熱中症患者の予後に関わる因子を解析する。方法:2008年6月1日から9月30日の間に全国82ヶ所の救命救急センターおよび日本救急医学会指導医指定施設を受診した熱中症患者913名のデータのうち,人工呼吸管理下におかれた患者77名を抽出し,更に来院時心肺停止1名,最終診断脳梗塞1名,予後不明の2名を除く73名を対象とした。対象を死亡あるいは後遺症を残した予後不良群と後遺症なく生存した予後良好群に分けて解析した。結果:予後良好群47名,予後不良群26名(死亡12名を含む)であった。2群間に年齢,性別,活動強度,現場の意識レベル・脈拍数・呼吸数・体温に有意差を認めなかった。現場の収縮期血圧とSpO2,発症から病院着までの時間に有意差を認めた。更に来院後の動脈血BE(-9.5±5.9 vs. -3.9±5.9 mmol/l,p<0.001),血清Cr値(2.8±3.2 vs. 1.8±1.4 mg/dl,p=0.02),血清ALT値[72(32-197)vs. 30(21-43)IU/l, p<0.001],急性期DICスコア(6±2 vs. 3±3,p=0.001)に予後不良群と予後良好群の間で有意差を認めた。しかし,来院から冷却開始まで,来院から38℃までの時間の何れにも有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,予後不良に関わる因子は現場の収縮期血圧,現場のSpO2,来院時の動脈血BEであった。結語:人工呼吸管理を要した熱中症患者の予後は来院後の治療の影響を受けず,現場ならびに来院時の生理学的因子により決定される。
症例報告
  • 鈴木 圭, 玉井 康将, 浦出 伸治, 伊野 和子, 菅原 由美子, 片山 直之, 星野 有
    2010 年 21 巻 9 号 p. 792-798
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    一般にアルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis: AKA)はアルコール依存のため食事摂取が不十分な患者が,何らかの理由でアルコール摂取すらしなくなることで細胞内飢餓が生じ,遊離脂肪酸からβ酸化を経てケトン体が産生された結果発症し,消化器症状を主体として医療機関を受診することが多い。我々は,高脂肪食摂取翌朝に意識障害と脱力を来し脳卒中疑いで搬入された,発症様式,症状とも非典型的なAKAの症例を経験したため報告する。症例は61歳の男性。ビジネスホテルに単身滞在中,焼き肉とビールを摂食し就寝した翌朝に四肢脱力を自覚し当院に救急搬入された。来院時意識障害があり,詳細な病歴は不明であったが,原因不明の低血糖とアニオンギャップの開大した著しい代謝性アシドーシス,脂肪肝がみられ,他に代謝性アシドーシスを来す疾患を同定できなかったことからAKAを強く疑い,チアミンと糖質を含む急速輸液を行ったところ,意識障害,代謝性アシドーシスとも速やかに軽快した。後にアルコール依存の病歴と血中βヒドロキシ酪酸の著明高値が判明し,AKAと確定診断した。本例では慢性的な糖質不足状態にあるアルコール依存患者が,短期間に高脂肪食を摂食したことにより多量の遊離脂肪酸が血中に流入し,β酸化を経て産生されたアセチルCoAが過剰となり一気にケトン体が産生され発症したと推察される。即ち,本例からは高脂肪食はAKAのリスクとなることが示唆される。本来,AKAの初期診断は病歴に依存する部分が多いが,意識障害を有する患者では詳細な病歴を聴取できないことも多く,非典型的な発症様式,症状の場合にAKAを疑うことは容易ではない。しかし,本例のごとく原因不明の低血糖にアニオンギャップの開大した代謝性アシドーシス,脂肪肝の合併がみられた際にAKAを鑑別診断に加えることは,救急医にとってきわめて重要と考えられる。
  • 和田 剛志, 澤村 淳, 方波見 謙一, 菅野 正寛, 早川 峰司, 丸藤 哲
    2010 年 21 巻 9 号 p. 799-803
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    症例は21歳の男性。バイクで走行中,右折してきた乗用車と衝突し受傷した。搬入後のバイタルサインは安定していたが,腹部造影CTで後腹膜出血と第4腰椎椎体レベルで腰動脈損傷と思われる造影剤の血管外漏出像を認めた。翌日のフォローアップの造影CTでは,第4腰動脈の偽性動脈瘤と思われる増強効果を認めた。同日血管造影が行われ,左右第4腰動脈共通幹部に造影剤の貯留を認めたが,腹部大動脈からの距離が不十分であり,interventional radiology(IVR)による治療が困難であった。年齢など患者背景を考え治療方針を検討し,開腹手術での治療を行うこととした。術中所見としては,血管造影所見同様,第4腰動脈起始部は大動脈から引き抜かれた状態であった。腰動脈根部の大動脈を直接修復して手術を終了した。腰動脈損傷は腎生検や腰椎手術時など医原性に起こることが知られている。外傷においては腰椎骨折や骨盤骨折に合併した偽性腰動脈瘤の報告は多いが,腰動脈の引き抜き損傷に続発した偽性腰動脈瘤の報告は我々が検索し得た範囲では存在しない。腰動脈が大動脈から引き抜かれることにより腰動脈根部に生じた偽性腰動脈瘤はIVRが困難であり,年齢などを考慮した慎重な治療法の検討が必要であると思われた。
  • 服部 憲幸, 森田 泰正, 加藤 真優, 志鎌 伸昭, 石尾 直樹, 久保田 暁彦
    2010 年 21 巻 9 号 p. 804-810
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    2009年に世界規模で流行した新型インフルエンザA/H1N1に劇症型心筋炎を合併した症例を,経皮的心肺補助装置(PCPS: percutaneous cardiopulmonary support)による循環補助を含む集中治療にて救命した。症例は24歳,女性。2009年11月,近医でインフルエンザA型と診断され,オセルタミビルの投与を受けた。2日後には解熱したが発症5日目に頻回の嘔吐と下痢が出現,翌日当院へ救急搬送された。心電図上II,III,aVF,V3-6の各誘導でST上昇を認め,クレアチンキナーゼ,トロポニンTも上昇していた。心臓超音波検査でも壁運動が全体的に著しく低下しており,心筋炎と診断した。当院受診時にはインフルエンザA型,B型ともに陰性であった。ICUにて大動脈内バルーンパンピング(IABP: intra-aortic balloon pumping),カテコラミンによるサポート下に全身管理を行い,合併した急性腎不全に対しては持続的血液濾過透析(CHDF: continuous hemodiafiltration)を行った。来院時にはインフルエンザ抗原が陰性であったことからオセルタミビルの追加投与は行わなかった。一般的なウイルス感染も想定して通常量のγグロブリン(5g/day×3日間)を投与した。しかし翌朝心肺停止となりPCPSを導入した。PCPS導入直後の左室駆出率は11.0%であった。第4病日にPCPSの回路交換を要したが,心機能は次第に回復し,第7病日にPCPSおよびIABPを離脱した。第8病日にはCHDFからも離脱した。気道出血および左無気肺のため長期の人工呼吸管理を要したが,第15病日に抜管,第17病日にICUを退室し,第33病日に神経学的後遺症なく独歩退院した。インフルエンザ心筋炎は決して稀な病態ではなく,新型インフルエンザにおいても本邦死亡例の1割前後は心筋炎が関与していると思われる。本症例も院内で心肺停止に至ったが,迅速にPCPSを導入し救命できた。支持療法の他は特殊な治療は必要とせず,時期を逸さずに強力な循環補助であるPCPSを導入できたことが救命につながったと考えられた。
  • 藤田 あゆみ, 荒武 憲司, 皆川 雄郷, 西田 武司, 田中 仁, 友尻 茂樹, 原 健二
    2010 年 21 巻 9 号 p. 811-816
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/11/09
    ジャーナル フリー
    近年精神科領域では,定型抗精神病薬に代わって錐体外路系副作用の少ない非定型抗精神病薬の使用が目立つようになってきた。これに伴い自殺企図目的で非定型抗精神病薬を含む薬物の過剰摂取により救急搬送される症例が増加してきている。我々は非定型抗精神病薬であるQuetiapineによる急性医薬品中毒を経験した。症例は精神科通院中の40代の女性で,来院時,循環動態不安定で全身性強直性痙攣を伴う意識障害を呈していた。持参された薬剤の空シートからQuetiapine 8,700mgを大量摂取していた可能性が示唆された。Quetiapine単独服用と考えられ,各種の中毒症状を呈していた。服用量は中毒量を超えるものと推測され,初療にて胃洗浄および活性炭投与を行った。輸液療法を施行するとともに集中治療室にて呼吸・循環管理を行い,第3病日に意識レベルおよび全身状態の改善を認めたため退院となった。我々は,来院時の血清,尿などの生体試料を凍結保存し,レトロスペクティブに分析を行うことができた。一般病院の臨床の現場では,通常簡易な尿中薬物スクリーニング検査キットおよび服用歴から急性中毒を疑うが,Quetiapineは簡易キットでは検出不可能である。Quetiapineは2001年に発売された新規薬剤であり,国内外で死亡例の報告も散見されるようになってきている。分析にてQuetiapine同定を行うことで確定診断に至ることができ,また迅速な確定診断が治療方針の決定に有用であることが示唆された。
編集後記
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